【読書感想文#6-1】世界遺産で考える5つの現在
世界遺産検定を学ばれている皆様、
本日も世界遺産検定の勉強の際に、
読んでいた本を皆様に紹介します。
今回紹介する本は
「世界遺産で考える5つの現在」という本です。
この本は2022年から高等学校の必修科目として
「歴史総合」が追加されることを見据えて、
高校生向けに歴史をわかりやすく解説した
歴史総合パートナーズシリーズの一冊です。
https://www.shimizushoin.co.jp/books-list.html
ここからはマイスターの問題に繋がりそうな
トピックスをいくつか取り上げて深掘りしていきます。
なおこの本は他にも書評を書いておりますので、
参考にご覧ください。
【広島平和記念碑(原爆ドーム)の例から「中立」の難しさを学ぶ】
今回は「負の遺産」について取り上げます。
というのも、第45回世界遺産委員会で3件が「記憶の場」
として登録されました。
人権、解放と和解 : ネルソン・マンデラの遺産群
ルワンダ虐殺の記憶の場所
第一次世界大戦(西部戦線)の追悼と記憶の場所
これらの場所は「近年の紛争」が背景にある遺産です。
これと類似したものに一般的に「負の遺産」と呼ばれる遺産があります。その例として、広島平和記念碑(原爆ドーム)をあげます。
日本では、近現代に起こった戦争や人種差別など、人類が犯した過ちを教訓とする遺産を「負の遺産」と一般的に読んでいますが、そもそも世界遺産条約の中で「負の遺産」に定義がなく、英文原文でも「負の遺産」にあたる
英熟語も存在しません。
ユネスコでは「負の遺産」といわれている遺産を「平和や人権を理解するための遺産」としていくつか取り上げています。
例えば本の中でも取り上げられていますが、ユネスコの若者向け教育教材「World Heritage in Young Hands」に「平和を象徴する遺産」と「世界遺産と人権」という項目があります。
日本語版(PDF)はこちらからダウンロードできます。
https://whc.unesco.org/uploads/activities/documents/activity-54-5.pdf
これらの遺産を単に人類が犯した過ちのシンボルという「負の側面」に焦点を当てるのではなく、世界平和、平等・公平を目指すための象徴という側面でとらえようとしています。
そのように考えると、一般的に「負の遺産」や「記憶の場」に含まれる場所は、戦後・災害復興をしてきた街や、一度何らかの要素で破壊されても復元できた建造物や宗教施設も世界遺産になりうるのではないかと思います。
一方で戦争や紛争に関わる遺産の登録となると、政治的な問題がかかわることも筆者は指摘しています。世界遺産の登録には遺産の保有国からの提案内容が審査対象になりますが、その国の政治的なメッセージを喧伝するために世界遺産を活用(私にとったら悪用)しようと企てる事例も存在します。
したがって、なぜ遺産を残さなければならないのか?どのようなメッセージを後世に伝えたいのか?どんな価値を評価して登録すべきなのか?を政治的な主張や考えを排除して、中立的に提案・評価しなければなりません。これは提案する締約国や、世界遺産委員会の委員国も、諮問機関にも求められるわけですが、皆さんもご存じ通り「中立」的な立場が難しいのです。
世界遺産を通じて、「中立」的な立場に立つことの難しさ、ただ難しいとはいえ単に自分の意見だけを持ち続けるのではなく、「別な立場」自体の存在を認めることを我々は学ぶことができるのだと思います。
【最後に】
こちらで紹介した例はほんの一部の内容です。他にもオーバーツーリズムの問題や、都市開発と遺産保護の両立の問題についても学ぶべき内容が数多くあります。
世界遺産検定を受けようと考えている方でも、そうでない方でも、世界遺産を通して世界の歴史を触れてみてはいかがでしょうか?
今後も世界遺産に関する書籍を紹介していきたいと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました。