リベンジ
家内のこだわりポイントは、ポイ活と、クーポンと、節約である。
先々週、夜になり、次女は先輩宅に泊まり込んでレポートを書くというので、晩御飯も準備していなかった。家内と相談し、最寄りのコンビニに買いに行こうということになった。
その時、家内から、そっと渡されたのである。
これ、使うのよ。
心の中の、リトルkojuroが、フッと苦笑しながら呟いた。
まるで、お使いの子供のような扱いだな。
そして更に、こう、追加のミッションが告げられた。
それと、支払いは、auペイでね。
1月末までは、我が街は、キャンペーンで、キックバックがあるのだ。
はい。はい。
私は、素直に家内の言うことを聞く。従順な小市民である。
コンビニで弁当を選び、家内の後ろに並んだ。支払いは、別々なのだ。なぜならば、クーポンは、会計1回につき、1枚なのだから。
と、その時、重大な実態に気付いた。あろうことか、私は、auペイが決済できる、自分のスマホを、家に忘れてきたのだ。
焦って、家内に、詫びるように声をかけた。
ごめん、スマホ、忘れてきた。
チッ、という舌打ちが聞こえたような気がしたが、多分、空耳だろう。
私の携帯を、レジが終わったら、貸してあげる。
そういうときに限って、隣のレジを、アルバイトの店員が、開けてくれるのだ。
お待ちのお客様、どうぞ。
家内は、もう、そろそろ、レジが終わりそうだ。そう判断して、レジに向かった。お弁当を出して、クレジットカードを取り出し、dポイントをつける。
家内は、隣で、監視している。
なんだか、手に汗が滲んできた。
お弁当を暖めてもらうあいだに、家内のレジが終わり、スマホを借りて、auペイで支払った。
お弁当は、持ってきたエコバッグを出して入れる。それをひっさげて、店を出ようとしたその時、家内が後ろから、なじるような声を出した。
コジくん、忘れてるよねえ。肝心なことを。
心の中の、リトルkojuroが、驚いて声を詰まらせた。
えっ、えっ?
財布、開けてご覧なさい。
指示の通り、財布を開けると、家内は、ため息交じりに、言った。
あのさあ、直前に、言ったよね。これ、ちゃんと使うのよって。
家内の人差し指の先には、先ほど家内から手渡された、クーポンが残っていた。
心の中の、リトルkojuroが、震えながら俯いた。
だって……。ミッションが、たくさんあり過ぎるんだもん……。
家内は、こういうとき、色々な、過去の自分の失態を掘り出してくる。そして、それに対する私の指摘を持ち出して、あの時は、よくも、偉そうなことを言ったわね口調で、責め立ててくる。そして最後に、こう、締めくくる。
クーポンの1枚もまともに使えない人が、人に指摘をするもんじゃあ、ないのよ。わかった?
私は、黙って頷くしか、なかった。
項垂れて帰宅して、しょんぼりしていると、家内の様子がおかしい。
あれ?あれ?どこ?
家内は、フリマアプリの送品の、控えを探していたのだ。
さんざん探して、観念して、家内は、先ほどのコンビニのレシートに書いてある電話番号に、電話をした。
控えは、店にあることが判明した。
バイトの子が、渡してくれなかったのよ。
間髪入れずに、心の中の、リトルkojurが、家内を指差しながら、言った。
タ・セ・キ・ン・グ〜!!!
そして、怪しい、にこやかな目で、私を見つめてくる。
いつもよりも、瞬きが、激しい。
明らかに、何かを、私に告げようとしている。
心の中の、リトルkojuroが、ボソッと言った。
ここは、従うに限るよ。
ほどなく、私は、先ほどのクーポンを握りしめ、明日の次女の朝ごはんを、買いに出た。
家内は、私に、優しく、リベンジの機会を与えてくれた。今度は、スマホも忘れず、dポイントをつけ、クーポンを使い、auペイで支払い、エコバッグに品物を入れ、フリマアプリの送品控えを取り戻し、そして、無事、帰宅した。
家内のこだわりポイントは、ポイ活と、クーポンと、節約である。
我が家は、家内の機嫌が良ければ、平和なのである。
万事、これで、いいのだ。