粉砕機

我が家は、ペットボトルを、マンションのダストボックスには、入れない。

少し前までは、それがお金になり、マンションの理事会費になった。だから、積極的に入れていたのだが、業者が撤退し、自治体の回収になった。つまり、マンションの収入、ひいては、我が家の利益に纏わる部分が、無くなったのである。


家内のこだわりポイントは、ポイ活と、クーポンと、節約である。それより他のこだわりポイントは無いと言い切っても良いくらい、明確なこだわりがある。

ある日から、我が家は、ペットボトルを、スーパーのポイントに変えることに、方針を切り替えた。


次女は、運動部員である。いわゆる体育会系のアスリートで、毎日、かなりのペットボトルを消費し、それをリサイクルにまわしてくる。ヘタをすると、1週間溜めれば、大きなレジ袋3つくらいの量に達することもあった。


家内は、リサイクルにも、うるさい。きちんと分別しないと、かなりの勢いで叱責される。もちろん、わざとそんなヘマをするわけではないのだが、間違ってそんなヘマをしようものならば、いつもの罰ゲームが待っている。

だが、そこまでしても、なかなか、ゴミを捨てないし、リサイクルにも、出さない。つまりは、家の中で不要物が溜まっていくのである。



どうするか?

コジくんが、なんとかするでしょ。


これが、我が家の鉄則なのである。



心の中の、リトルkojuroが、ため息をつきながら、つぶやいた。

女王陛下(注1)は、面倒くさがり屋さんなんだから……。


私は、不要物、特に、廃棄できたり、リサイクルにまわせるものは、すぐにでも出しに行くタイプだ。

世の中、うまく出来ている。そういう、タイプの違う人間同志を、夫婦にしているのだろう。神様は。

ときどき、そう、思う。


このあいだ、スーパーで、ペットボトルの粉砕機の前で、私と同じように、ペットボトルを満杯にした大きなレジ袋を3つ抱えた男性が、立っていたのだ。

しかも、粉砕機からいくぶんか、中途半端な距離をとって、立っている。


私は、ペットボトルを粉砕機に投入するつもりがないのかと思い、その、男性に、声をかけた。


先に、投入していいですか?


すると、その、男性が、こたえた。

今、粉砕粉が、満杯で、止まっているのです。係員に対応をお願いしたので、待っているところなんです。


私は、言った。


これは、失礼をいたしました。

では、私は、後ろに並んで、同じく、待ちます。


だが、私は、実に、この男性に親近感がわいたので、待っている間に、話しかけることにした。


ところで、いつも、ここに、入れに来るのですか?

え、あ、はい。

奥様に言われて?

あ、え、はい。

私は、楽しくなって、満杯のレジ袋を前に出して見せて、笑顔で、言った。

私も何ですよ。ほーら!


すると、その男性は、私に呼応して、ちょっと、苦笑した。

お互い、綺麗好きですな。

私が言うと、男性は、恥ずかしそうに、俯いた。

シャイな人だと思ったが、ちょっとバツが悪そうにしていたので、言葉を継がずにいると、係員がやってきて、手際よく粉砕機の扉を開け、その男性と、私のペットボトルの分量を見極め、粉砕粉を回収袋に圧縮して押し込み、再び扉を閉めた。

画像1

どうぞ!

私の前の男性は、私に軽く黙礼をしてから、ペットボトルを、そそくさと、粉砕機にかけ、終わると、また、私に軽く会釈をして、そそくさと、私の前から去った。

私の順番が来たので、これも、いつもの手順でさっさと粉砕し終わり、その場を立ち去ろうとしたら、粉砕機から少し離れたところで、先ほどの男性が、奥様らしい人に、問いかけられている姿を見つけたのだ。

声はよく聞こえなかったが、こう、言われていた。

変な人と、にこやかに話をしないでよね。

いつも、自分がやらされてるなんて大声で笑い合っていたら、なんか、私が悪者みたいじゃん。


……。

奥様は、一部始終を、目撃していたようだ。

しかも、私は、声が、人の3倍ほど大きく、笑い声は、人の10倍近く、ある。


恐らく、衆目を浴びていたのであろう。


私は、奥様に見つからないように、抜き足差し足で、現場を後にした。



小志朗(注1)で、家内と合流し、この話をすると、家内は、爆笑だった。


コジくん、お仲間がいたの?

よかったわね。


その出来事からほどなく、炭酸水メーカーが、我が家に来た。

そして、炭酸水の分の、ペットボトルは確実に減り、その量は半端ではなく、週末の粉砕機には、ペットボトル入りの大きなレジ袋をひとつ、持っていけば良いくらいになった。


心の中の、リトルkojuroが、納得して、つぶやいた。

なんだ。結局は、ペットボトルの排出量の、半分以上は、コジ自身が出していたんだよな。

だったら、自分で粉砕機に、持って行くのが必定。


あれ?

次女が、ペットボトルを、大量に出していたと思っていたが、いろいろ考えたら、炭酸水を飲んでいた、よく遊びに来る、もうひとりの人物に、思い至った。

次女のボーイフレンドだ。

いろいろ考えたら、なんだか、ちょっと、寂しくなってしまった。


別れたら、コジくんのほうが、悲しむ(注2)。


この予言は、悲しくも、ほぼ、当たっていたのだった。



人生、一期一会。会者定離のたとえもある。

また、いつか、炭酸水を一緒に飲んでくれる人物が、我が家に、きっと、現れるだろう。



(注1)我が家の車には、小志朗=こじろう、という名前がついている。

(注2)家内は、次女のボーイフレンドが、家に遊びに来はじめた時、もしもの話で、次女とボーイフレンドが別れたとしたら、次女よりも、私のほうが悲しむだろうと、予測していた。




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