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生一本

バブルの頃、私は、日本全国を出張三昧で渡り歩く、ある市場担当の営業マンだった。こう聞くと、さぞかし出来るビジネスマンかと思う方もいらっしゃるかも知れないが、本当は、当時、なかなか売れない商品の、ドサ回りのような感覚だった。

全国とは言っても、拠点の大阪と東京とのあいだの、新幹線での往復がとても多かった。

週末、疲れ果てて最終の新幹線で帰る。その時の唯一の楽しみが、日本酒だった。東京駅で、ワンカップを5本手に入れる。

灘の生一本と言うが、本当は、混じり気の無い純米酒を言うらしい。が、私は、醸造用アルコールが入ったお酒専門だった。

さんざんだった1週間を忘れるには、とにかく飲む。だいたい、調子の良いときは、静岡県に入るくらいまでに3本1時間。寝てしまって名古屋あたりで気づき、さらに残りの2本。とっても良い気分ですべてを忘れて新大阪に着く。

もう、お酒は、あまり飲まない。飲めなくも、なった。歳にもなった。最近無性に、ふと、あの頃の自分を思い出すのは、何故だろうか。

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