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久しぶり
女王陛下(注1)から、ミッションが発せられた。
私の目の前には、いつもの、マイクロテープが置かれている。
お疲れ様。コジくん。
今回のミッションは、たった一つ、しかも、簡単だ。この、開かないキャンディー缶を、開けて欲しい。
誰かがこのキャンディーが食べたいというわけではない。第一王女が誰かにお土産でもらったものらしい。だが、固くて開かず、あきらめてしまった。開ける努力をして、どうしても開けられなければ、廃棄してしまってもいい。だが、もしも、フードロスハンターとしてのプライドが許すならば、という条件付きだが。
例によって、君、もしくは君のメンバーが捕えられ、あるいは殺されても、当局は一切関知しないからそのつもりで。
プシュ〜。
マイクロテープが、眼前から消えた。
久しぶりの、骨のあるミッションだ。最近、ミッションが全うできていないので、もう、ミッションが来ないのかと思っていたが、甘かった。
心の中の、リトルkojuroが、ちょっと怖がりながら、呟いた。
でも、これ、なんだか、難題のような気がする。
最初は、普通に。その後、だいぶ、チャレンジ。だが、全く、歯が立たない。
次に、輪ゴムを、上蓋と本体に巻きつけ、チャレンジ。全然、びくともしない。
何度もそれを繰り返したが、やはり、歯が立たない。
よし。専用の治具を購入しよう。そう、決めた。週末に、百円ショップで、入手する。
これだ。しかも、二つ、購入した。
さてと……。
だが、びくともしない。何度チャレンジしても。
まずい……。
そしてさらに、一日が経った。
心の中の、リトルkojuroが、自嘲しながら、呟いた。
歯が立たないのに、日にちだけは、経つんだな。
……。
今度は、缶の上蓋を、下の方から、押し上げる作戦に出た。はさみを使った。押し上げるために。
すると……。
ようやくのことで、缶は、開いた。
たまたま、翌日に休みをとった、長女が帰宅してきた。
缶が開いたことを報告すると、喜んでくれた。
コジ、でも、それ、相当古いと思うよ。大丈夫?
心の中の、リトルkojuroが、ちょっと嘆きながら、静かにつぶやいた。
それを、早く言ってよ。
でも、大丈夫。私は、フードロスハンター(注2)だから。お腹は、強いのだ。
家内が、私と長女のところまで来たので、開いたことを報告すると、家内は、すっかり、ミッションを発動したことを忘れていた。
そして、脚を指さして、言った。
それはよかったから。
マッサージ、お願いね。
心の中の、リトルkojuroが、笑いながら、呟いた。
それは、よかったから?
そして、マッサージは、忘れないのね。
長女が帰宅してきた週末は、なんだか、我が家は、賑やかだ。
長女が、ボソリと、つぶやいた。
この家、なんだか、五月蠅い
五月蠅い我が家の夜は、知らぬ間に、更けていく。
(注1)女王陛下とは、家内のことである。私に、ときどき、ミッションを与える、指揮命令系統の最上位者なので、ときに、家内のことを、そう呼ぶ。
(注2)世界中で社会問題にもなっている、フードロスを無くすために、まずは身の回りの賞味期限切れを無くすように、ひとたび賞味期限切れとなった商品をチェックし、たとえ賞味期限が切れていても、匂いや色や味見から食べられるかどうかを真剣に判断し、食べられるものと判断したものは、無闇に廃棄せずにきちんと頂く。そういう活動をする、ボランティアのこと。私が勝手に作った造語である。