雨滴
梅雨時、雲行きが、どうも、怪しくなってきたのに、傘も持たずに、家を出た。
案の定、歩いていると、道に、雨滴の後が、チラホラ、出てきた。
どうしても、コンビニに行きたかった。入金の期限が来ていたのだ。
家内は、こういう期限に、結構、無頓着だ。
家内は、明日、仕事からの帰り道で、コンビニに寄ってくる。そう、言うのだ。
だが、たびたび、忘れる。
そして何日か経ち、明日が、入金の期限となった。
心の中の、リトルkojuroが、情け無さそうに、つぶやいた。
お金がなくて、入金できないのは、百歩譲って、まあ、良しとしよう。
でも、面倒だとか、忘れたなんていう理由で、入金が遅れになるのは、世間に迷惑をかける行為では、あるな。
まさに、我が家は、今、そういう、迷惑行為のループに入ろうとしていた。
そこから這い出ようと、私は、意を決して、コンビニに、向かっている。
雨滴は、なお一層、激しく行く手を阻んできた。
コンビニの、少し手前で、これは、ずぶ濡れになると判断し、踵を返して、我が家に、一目散に駆け出した。
作戦変更だ。
いったん撤退し、傘を持って、出直そう。
自宅マンションの玄関に着いた頃には、もう、土砂降りだった。
エレベーターに乗り、上がる途中、スマホが、ブルブルと震えた。
ダース・ベイダーのテーマ曲が、高々と、流れてきた。
私は、静かに、切った。
外は、土砂降りの最中だ。
玄関に入ると、家内が言った。
土砂降りだから、迎えに行くって、電話を入れたのよ。
そう。
ありがとう。
傘を取りに来たんだ。
今から、行ってくる。
家内が、言った。
神様が、今、入金しなくて良いって、言ってるんじゃない?
いや、今、行ってくる。
そして、傘を取り、まさに出ようとした瞬間、家内が、後ろで、聞こえるか聞こえないかくらいの小声で、囁いた。
私が、明日、入金するって言ってるのに……。
私が、振り返ろうとした、その瞬間、心の中の、リトルkojuroが、私の、左腕を引っ張って、止めた。
挑発に、乗るな。
長時間のミッションが、くだされることになるぞ。
私は、すんでのところで、思いとどまった。
土砂降りの中、傘を差して、家を出た。
コンビニは、さほど、遠いところにあるわけでは、ない。
手続きを終え、外に出ると、雨は上がり、雲間から、ちょっとだけ、お日さまが見えた。
にわか雨だったのだな。
心の中の、リトルkojuroが、空を見上げて、つぶやいた。
もう少し経ってから家を出れば、雨にも濡れなかったにろうに。
そうだな。
でも、早めにやっておきたかったんだ。
万が一明日に繰り越してしまったら、またもや、余計なミッションを、女王陛下(注2)に、課してしまうことになるからな。
結局は、女王陛下が、心配なのだよ。
雨上がりの空を見上げながら、私は、濡れた坂道を、ゆっくりと、歩いて帰った。
(注1)キャンペーンダンサーというのは、私の造語である。ポイ活、クーポンなどの還元キャンペーンに、踊らされる人のことである。
(注1)女王陛下とは、家内のことである。私に、ときどき、ミッションを与える、指揮命令系統の最上位者なので、ときに、家内のことを、そう呼ぶ。
【追記】
梅雨の終わりの、この時期、雨による災害が多く発生する。亡くなられた方々のご冥福をお祈りする。また、不明の方々が少しでも早く見つかるようにと心から、願う。そして被害に遭われた方々、地域の、少しでも早い復興を、切に、祈りたい。まだ、警戒警報などが続いたり、気を抜けない状況の中にある方々に、お見舞いの気持ちを届けたいと思う。