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先々週の土曜日、家内は、出勤だった。そして、家を出てほどなく、私のスマホが鳴った。
かけてきた主は、もちろん、家内である。
ねえねえ、今朝から、LINEのコメントが入らないのよ。どうしたらいい?
心の中の、リトルkojuroが、困ったように、つぶやいた。
ショップ店員じゃ、ないんだよな。俺。
だが、矢継ぎ早に、家内は、こう言った。
これじゃ、困るんだよな。
なんにもできないよ。今日、色んな人と、やりとりしなきゃならないのに。
ほんと、困るんだよ。
心の中の、リトルkojuroが、目が覚めたように、つぶやいた。
女王陛下(注1)の、ミッション発令だ!
目の前には、いつもの、マイクロテープが置かれている。
お疲れ様。コジくん。
今回のミッションは、女王陛下の、LINEを復活させることだ。女王陛下も、お忙しいので、まずは、一刻も早く、復活のための手だてを探し出して欲しい。
14時には、女王陛下のお仕事が終了するので、それまでに調べた結果を報告すること。
その際、考えられうる手立てを、すべて、提示すること。面倒くさがったりして、復旧の選択肢を、勝手に絞らないこと。そして、確実かつ迅速に、女王陛下のLINEを、復旧すること。
例によって、君、もしくは君のメンバーが捕えられ、あるいは殺されても、当局は一切関知しないからそのつもりで。
そして、目の前の、マイクロテープは、消失した。
プシュ〜。
ネットで、調べたところ、以下のような手法が、あるということが、分かった。
①スマホの立ち上げ直し
②機内モードに、なっていないかの確認
③LINEアプリの、バージョンアップ忘れの確認
④LINEを、一度、ログオフしてみる
⑤アプリを一度、クラウドに戻してみる(全削除ではなく)
それでも復旧しなければ、アプリを削除してから、再インストールを、する。これが、最終手段だ。
ここまで調べながら、電車と徒歩で、家内の会社の近くまで出向き、仕事が終わるのを、小志朗(注2)の中で、待っていた。
家内の、こだわりポイントは、ポイ活と、クーポンと、節約なので、家内が事務所から出て来る直前までは、エアコンは我慢し、窓を開けて待機。
出て来る時間の5分前にエアコンをかけ、家内が車内に入ってくるときには、涼しい状態を作る。
心の中の、リトルkojuroが、頷きながら、つぶやいた。
それ、鉄則。
14時過ぎに、家内が出てきて、車に乗り込んだ。そして第一声。
で、どうしたら、直るの?
心の中の、リトルkojuroが、つぶやいた。
涼しいね、だよね。第一声は。
ところが、だ。
その後すぐに、①から⑤までを、慎重に試してみたが、LINEは、復旧しなかった。画面の、アンテナは、立っている。そして、メールなどは、送受信できる。
なぜか、LINEだけが、繋がらない。
そして、最終手段に取り組むことを、私は、提案した。
予め、メールアドレス、パスワード、不要だろうが、IDなども含めて、書き留めてある。間違わないように、写真で。
削除のボタンを押す段になって、家内が、言い出した。
怖いから、コジくん、やってよ。
心の中の、リトルkojuroが、私の耳元で、囁いた。
責任回避を、しようとしているぞ。
女王陛下は。
私は、気乗りがしなかったが、家内のスマホを手に取り、ボタンに、震える指を、押しつけた。
ポチッとな。
また、ところが、だ。
何とかLINEの再インストールまで完了したが、どうしても、LINEが繋がらなかった。このスマホの中のアプリで、LINEだけが、ネットに繋がらない。
不思議だ……。
家内は、観念した。
そして、新たなミッションを発令した。
ドコモショップの、予約状況を調べて。半径、5㎞以内で。
はいっ!
私は、家内のあまりの勢いに押され、すぐさま調べたが、範囲内2店の予約は、既にいっぱいだった。
家内が、言った。
とにかく、行ってみよう。でなきゃ、次の行動に移れない。
そして、一番近いドコモショップに、入った。
受付をするために、受付機の横に立っている男性店員に、家内が、声をかける。
お兄さん、ちょっと、状況を聞いてくれます?
あ、修理じゃないの。
修理なのかどうか、ちょっと、この人の説明を聞いて欲しいのよ。
と言って、私を振り返った。
心の中の、リトルkojuroが、驚いて、叫んだ。
お、俺?
私は、間髪入れずに歩み寄り、状況を説明した。
すると、おもむろに、その男性店員が、私に、話しかけた。
ちょっと、スマホを、確かめさせていただいて、良いですか?
私は、スマホを、差し出した。
すると、男性店員が、頷きながら、言った。
はいはい。
原因は、これですね。
このボタンが、通信、OFF設定に、なっていました。
私は、画面を見て、愕然とした。
心の中の、リトルkojuroが、落胆して、つぶやいた。
どうして、こんなボタン、押すかなぁ。
そのこたえは、これだ。
一番下の、「モバイルデータ通信」の設定を、ONにして、LINEに戻ると、繋がった。
私は、その男性店員に、深々とお辞儀をして店を出た。
ミッション、インコンプリート。店員さんにパスして、コンプリート。
店を出ると、家内が、言った。
コジくん、今日は、もう、一歩だったね。
帰宅してすぐ、長時間マッサージのミッションに取りかかったのは、言うまでも無い。
家内は、上機嫌だった。
家内が上機嫌だと、我が家は、明るくて平和である。
だから、
これで、いいのだ。
(注1)女王陛下とは、家内のことである。私に、ときどき、ミッションを与える、指揮命令系統の最上位者なので、ときに、家内のことを、そう呼ぶ。
(注2)我が家の車には、小志朗=こじろう、という名前がついている。