
ひび
私は、痛風の気がある。毎年の健康診断時にも血液検査はしているが、4月の下旬にあらためて血液検査をし、5月の下旬、その結果を、いきつけのクリニックに聞きに、診察を受けに行った。
今はもう着ないが、その頃は少し肌寒い日もあったので、プライベートの日は、少し厚めのものをシャツの上に着ていたのである。

昔、昔、購入した、野球のユニフォームタイプのものだった。オールドスタイルのユニフォームで、ちょっと大きめでゆったりとしており、着やすい。だが、ときどき、こういうタイプのユニフォームを採用している草野球チームもあり、私などは、そういう姿を見ると、微笑ましくなる。
クリニックの待合室で呼ばれて、診察室に入り、挨拶すると、先生に言われた。
あれ?野球してたの?さっきまで?
それは、私が、ユニフォームを着ていたからだ。私は、こたえた。
先生、もう、私の歳で、やれません。野球は。たとえ草野球でも。
すると、先生が、気を遣ってくれて、言った。
いやいや、コジさんは、まだ、若いよ。
私は、ここで、少し間を置いてから返すべきだったが、すぐさま、こう、こたえた。
先生、何をおっしゃってるんですか。私、先生と同い年ですよ。ほぼ。
そして、言わなくても良いのに、こう、付け加えた。
私のようなロートルがやったら、すぐに怪我して、救急車ですよ。
……。
そのとき、心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、呟いた。
ああ、あ。やっちまったな。
診察室は、ただ、私の腕に巻きつけられた血圧計のベルトを、先生が、バリバリッと、取り外す音だけが響き、いつものような笑いながらのやりとりが、すっと、途絶えた。
先生とは、いろいろと話すのである。いつもであれば。そして、2人とも、笑って挨拶して、また、翌月の通院の日を決めるのである。
その日は、ただ、淡々と診察を終え。次回の日を決めて、薬の処方せんをもらっただけだった。
それを帰宅してから家内に話したら、こう、言われた。
先生とのあいだに、ヒビが入ったかもよ。私が、また、診察のときに、修復しておいてあげるから、少し、マッサージをお願い。
パブロフの犬のごとく、私は、マッサージを始めた。
マッサージをすると、家内は、上機嫌になる。
家内が上機嫌だと、我が家は、明るくて平和である。
だから。
これで、いいのだ。