虫
【過激ではないですが、文中に虫の写真や描写などが登場するので、見るのも聞くのも嫌だとおっしゃる方は、当記事の閲覧、ご注意ください】
ちょっと前から、おかしいとは思っていたのである。変な虫が、飛んでいたのだ。
最初、家内が言い出した。
次に、次女。
しかも、1匹ではない。複数匹、飛んでいる。
そして、それから3日後の日曜日の夜、長女が決定的なことを言い出し、私は、驚愕した。
帰宅すると、長女がソファーで寝ていたのである。
そして、私が帰ると、薄目をあけて、言った。
虫が湧いている。
心の中の、リトルkojuroが、慄いて、呟いた。
湧いてって、言ったよね、今……。
長女が、天井の電灯を指差して、もにゃもにゃ言った。
ほら。たくさんとまっているでしょ。天井に。
私は、天井を恐る恐る見ると、恐怖の光景が、そこには、あった。
小さな小さな、ハエよりも小さな虫だが、天井に、少なくとも30匹は、いる。
心の中の、リトルkojuroも、言葉を失った。
………………。
長女は、言った。
キッチンの右端の上の扉開けてご覧よ。大変よ。
少し開けてみると、何匹か飛び出してきた。だが、この虫、あまりすばしっこいヤツではないようだ。
私は、バンッと、扉を閉めた。
すると、目の前には、マイクロテープが、人知れず、置かれていた。
お疲れ様。コジくん。
今回のミッションは、第一王女(=長女)の命である。この、虫を駆除してほしい。目先のことだけではなく、全ての収納物を取り出し、発生源を突き止め、逃げ出した虫も含め、すべて駆除してくれたまえ。
分かっているとは思うが、駆除が面倒だとかいうつまらない理由で途中で挫折したりというような、エージェントにあるまじき行為だけは、決してしないように。
例によって、君、もしくは君のメンバーが捕えられ、あるいは殺されても、当局は一切関知しないからそのつもりで。
プシュ〜。
マイクロテープは、消滅した。
もう、日曜日の夜、21時を回ってしまっていた。
心の中の、リトルkojuroが、残念そうに、呟いた。
コジ、鎌倉殿の13人、またしても、録画でも観られないぞ。
いや、それどころではない。私は、掃除機を取り出し、扉を開いて駆除を始めた。ひとつひとつものを出し、虫を払いながら、こまめに扉を閉めつつ、どんどん吸い込んでいくが、中に入っているものも、大量にある。
この際、封を切っているものは、封を閉めて、全て廃棄することにした。
とうとう、発生源を見つけた。これだ。小豆。
写真に写らないようにしているが、虫が、少なくとも100匹以上、ここに入っていた。
もちろん、これを完全に密封して、さらに作業を進めていく。どれだけ掃除機で吸い込み、廃棄し、放り出しただろうか。いよいよ扉の中は、終盤を迎えた。
本番は、これからだ。
私は振り返り、リビングの電灯に向かった。すると、いるいる。電灯の周辺の天井にとまっている。その数、約30匹。
掃除機で、全て、吸い取った。
心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、呟いた。
誰も言ってくれないだろうから、言ってあげよう。
お疲れ様。
格闘すること、約2時間。片付けも、終わり、一応、ミッション・コンプリートのはずだ。
長女は、まだ、ソファーで寝ている。呑気なものだ。
それはそうと、こんなに気色の悪い状況になっているのに、よく、そのそばのソファーで寝ていられるものだな。
長女は、極端に、飛ぶものが嫌いだ。特に、G(注2)が。
そう言えば、福井でも見た。海外のG(注2)を。
長女に、聞いてみた。
怖くないのか?
すると、長女は、むにゃむにゃ、半寝でこたえた。
コジが、噛んだり刺したり、毒を持ったヤツじゃなければ怖く無いっていったから…。
………。
ほんとうに、素直な子で、良かった。
家内は、あるプロジェクトに参画していて。仕事が忙しくて、事務所の側のホテルに寝泊まりしている。日曜日の深夜に戻り、月曜日の昼過ぎにはまた、ホテルに泊まりに行って、そこで仕事をしているのである。
マッサージは、とんと、しなくなった。そのかわりに、家内の健康のことを心配をしている。これならば、マッサージをしているほうが、よほど良かった。
心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、呟いた。
さっちゃん(注3)がこの扉をあけていたら、もっとスクランブルなミッションが発動していたろうね。
やりとりからすると、さっちゃん(注3)は、元気なようである。
だから。
これで、いいのだ。
(注1)私は、我が家で便利屋、いやいや、エージェントとしての役目を負っている。エージェント・コジと称される所以である。ミッションが発動されると、目前にマイクロテープが突如現れ、ミッションが伝えられる。映画のミッション・インポッシブル(昔のスパイ大作戦)の世界と、007の世界が混在しているのだが、その世界観は、女王陛下(家内)と王子と2人の王女が演出してくれている。
(注2)Gとは、ゴキブリのことである。我が家では、あらゆる昆虫の中で、最も嫌われている。家内、長女、次女は、見るだけで逃げ回り、即刻駆除のミッションを、私に、下すのである。
(注3)我が家の家内の呼称は、「さっちゃん」である。さっちゃんは、女王陛下という別の呼称もある。だが、リキとの関係で、そもそもの飼い主が長男であることから、私は、おじいちゃんだが、家内に対して「おばあちゃん」なんて呼び方は、まかり間違っても、してはならないのである。