パラシュート
父は、高校の歴史の教師だった。とにかく勉強が好きで、本の虫で、他に、好きなものと言えば映画で、戦争ものと西部劇だった。
根っから文化系の人だと思っていたが、本来は理数系が好きだったという。家にお金が無かったので、理数系を諦めた。そしてまた、研究職に就き、大学の教員になりたかったところを、さらに、諦めたのだと、晩年、私に、吐露したことがあった。
私はと言えば、幼い頃から学校の先生との折り合いが悪かった。
遊んでばかりで、勉強とは縁遠く、なかなか家に帰らず、毎日のように、母に、こっぴどく叱られた。
そんな、父と正反対の性格の私だが、父から教えてもらった遊びが、いくつか、ある。以前、紙飛行機の事を、記事にした。
そして今日は、その第二弾。パラシュートだ。
今の子供たちは、こんな、アナログの遊び道具なんて、興味が無いかも知れない。だが、その当時の私は、この作り方を身につけてからは、恐らく何ヶ月も、作り続け、落とし続けた。
近隣から、何件ものクレームが来るまで。
そしていつか、パラシュートづくりは、他ならぬ私自身が原因で、禁じ手と成り果てたのである。
あれから、何年経っただろうか。
久し振りに、作ってみた。
材料は、コンパス、ポリエチレン袋。糸。挟み、セロテープ。そして、肝心の、錘である。
幼稚園の幼子でも、慣れれば、ごくごく、簡単に出来る。
これが、道具一式だ。
ポリエチレンの袋に、円を描き。
円の縁どおりに、切り抜く。
袋状になっているから、切り抜くと、同時に2つ、できる。
糸を、円の直径よりも少し長めの糸を8本切り取り、それを円の中心から22.5度づつに8分割した円周上に、貼り付ける。
傘の部分を折り畳むと、パラシュートらしくなる。
糸の先は、たばねておく。
さらに、輪っか状にしておくと、錘がひっかけやすい。
傘の中心部分は、切り取っておくと、空流が安定する。
傘も、傘らしくなった。
錘は、重さを慎重に試して選ぶ。重すぎても、軽すぎても、いけない。バランスが重要。何回か、落としながら、適当なものを選ぶ。
今回の錘は、これにした。
改めて、折りたたんでみる。そして、完成。
ちょっと、外に出て、飛ばしてみた。
すると、
なかなか、いい塩梅で、落下傘が、開いた。
私は、もう、孫がいてもおかしくないほどの、オヤジである。
そんなオヤジになってなお、父の面影を、追いかけるときがある。
パラシュートは、風に舞い、着陸した。
俺も、いいオヤジになったよ。
父がどこかで、笑っているような気がした。