ミシシ
長女の車には、ミシシという、名前がついている。
去年の夏、その車に、G(注1)が、出たところから、長女の、ミシシへの信頼が、決定的に、相当に、揺らいだのだ。
その前に、この車。いろいろと、不具合が、出た。まず、購入して半月もしないあいだに、前部のセンサーが、効かなくなった。
交換するとこになったが、去年のご時世で、部品入手がいつになるか、見当がつかないという話になった。
我が家は過保護だから、長女の車には、安全オプションは、漏れなくすべて搭載している。その心臓部のセンサーが、半月もせずに不具合になり、いつ安全性能が発揮できるかわからない。まして、運転をし始めた頃が、一番事故確立が高いというのに、それを回避もできず、一体どういうことだと、家内は、かなり、お冠だった。
それから先も、複数回、ハガキが来た。つい先日も、来た。いわゆる、リコールというものだ。
どんな車でも、何回か、こうした葉書がくるから、私などは、慣れっ子なのだが、今回ばかりは、そうは、いかない。
家内のみならず、長女も、もう、このメーカーの、車は、買わないと、文句を連発した。
そもそも長女は、深夜のシフトあり。早朝のシフトあり。土日や連休無しで、即座にカーディーラーに、足を運べない。自分の休みのときに、カーディーラーが休みだったりする。
世の中、うまくいかないものだ。
そんなこともあり、不具合が連発することもあり、長女の、仕事への不満もあり、夏に、Gが出たこともあり、長女は、ミシシに、良い印象を保てずに、いた。
そして、先々週のある日。
いつもは通らない、狭い道を通っているときに、すれ違いざまに、壁で、擦ったのだという。
長女は、相当なショックを受けていた。
もう、仕事にならないというコメントを、家内のLINEに、入れてきていた。
写真をディーラーに送付し、だいたいの費用目安を確認すると、かなりの金額になりそうだった。
その金額を聞いた長女は、最初、やけになって、もう仕事も辞めるのだから、この車は、捨てると言い出した。
心の中の、リトルkojuroが、呆れながら、つぶやいた。
もう、破れかぶれだな。
心持ちは。
そこを、家内が説得し、ひとまず修理には、出そうということにし、費用面でも考慮するという話にまで、なった。
家内は、言った。
だって、私は、過保護だもん。
心の中の、リトルkojuroが、少し悲しそうな声で、つぶやいた。
コジの財布が、また、薄くなるね。
そんなこんなで、最終的な修理の見積にまで、こぎ着けた。カーディーラーに出向けないので、家内が交渉し、ディーラーも、良く動いてくれて、長女の自宅に出向いて状況を見て、台車を届けてくれ、工場に車を引き取ってくれた。
ミシシは、確かに、いろいろ、あった。
私の幼少の頃のように、きかん坊で、悪ガキだった。
同じ、悪ガキだったから、私には、わかるのである。悪ガキの、悲哀が。
身から出た錆だとは言いつつも、見放されそうになる、悲しさを。
心の中の、リトルkojuroが、笑いながら、つぶやいた。
ミシシは、そこまで言われるほどの、悪ガキではないんじゃないか?
コジの、言い過ぎだと思うよ。
うむ。確かに。
だが、思うのである。
修理されて、長女の家に帰ってきた暁には、そっと、優しく、ミシシを、撫でてやろうと。
今夜は、ミシシの台車が、静かに、駐車場に、佇んでいた。
(注1)Gとは、ゴキブリのことである。我が家では、あらゆる昆虫の中で、最も嫌われている。家内、長女、次女は、見るだけで逃げ回り、即刻駆除のミッションを、私に、下すのである。
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