ダース・ベイダー
ダース・ベイダーのテーマは、とんでもない災いが忍び寄っている感覚が色濃く出ている、名曲であると思っている。
まだガラケーだった時代。携帯電話は、本当の携帯電話だった。つまり、通話のための器機であって、今のようにLINEやSNSは無く、メールはあったものの、コミュニケーションは、ほぼ、通話だった。
その頃、みんながお金をかけてでもやっていたことと言えば、着信音の設定である。最初は単なる電子音だったが、やがてそれは、メロディとなり、ほどなく音声もついた、オリジナル曲の一部を切り取るものへと進化していった。
まだ、このご時世になる前、去年の冬までは、よく、飲みに行った。そして、飲んでいると、電話がかかってきても、誰からかかってきたかを確認して、出るときは出るし、緊急性が無いと判断した場合には、後で、折り返しかけるということを、やっていたのだ。
だが、何人か、この人は、という人は、着信音を変え、着信と同時に判別できるようにしておかないと、タイムリーにやりとりができなかった。
私は、次女が高校時代は、次女の所属するスポーツチームの監督やスタッフからの電話は、ウルトラセブンのテーマにしていた。私は、昔から、この曲が好きで、この曲は恐らく、万人が良い印象を持っているからである。
そして一方、その頃から、家内の電話の着信音は、その、ダース・ベイダーのテーマになっていた。
そのことを、見透かした方が、最近、出たのである。
私は、kesun4さんのこの記事を読んで、コメント欄に、こう、書き込んだ。
すると、kesun4さんは、こう、返してきた。
その時、心の中の、リトルkojuroが、叫んだのである。
どうして!どうしてバレたんだ!
家内は、次女のスポーツチームでは、とりまとめをする立場の人だったので、みんなから、一目を置かれていたのだ。そして、私が、チームのための、家内からのミッションで走り回ってはいたものの、飲んでいることが多くて、よく、携帯に出ないとクレームを受けていることも知られていた。
だから、ある人が、冗談で、着信音、ダース・ベイダーのテーマにしておいた方が良いよ。みんなに、わかるから。緊急事態だということが。と、言ったことがきっかけで、そう、なったのだ。
そしてそのことは、家内以外の、オヤジたちと監督や、チームスタッフのみんなが知っていた。
あるときだった。
学校校舎の中で、監督と話していると、ダース・ベイダーのテーマが携帯から流れてきた。
監督は、にやりとした。
話の途中だったので、ちょっとだけ、話を切るのに時間がかかった。
廊下に、ダース・ベイダーのテーマ曲が、響きながら鳴り続けていたのだが、とろうとした瞬間、鳴り止んだ。
出ようとした瞬間だったので、私は、ちょっとだけ、舌打ちをしたのだ。
すると、後ろから、肩を、ポンと、たたかれた。
ゆっくりと、後ろを振り返ると、そこには、本物のダース・ベイダーが、薄笑いを浮かべて、静かに立っていたのだった。
家内の長時間マッサージは、ちょうど、その頃から、始まっている。
家内は、着信音を、変えろとは、言わなかった。むしろ、変えない方が良いとさえ、提案してきた。
その理由が、また、冴えている。
携帯の着信音を聞くたびに、マッサージしなきゃって、思い出すでしょ。
私は、ダース・ベイダーのテーマ曲を聞くと、マッサージのミッションを思い出す、パブロフの犬である。
心の中の、リトルkojuroが、呟いた。
女王陛下(注1)は、実は、ダース・ベイダーでも、あったんだな……。
私は、いつも、翌日の準備が一通り終わると、いつも、家内に声をかける。
マッサージ、しようか。ドラマでも観ながら。
家内は、今、撮り溜めしている「桜の搭」の録画を、一気に、見ている。
私は、家内の足をマッサージしながら、その、ドラマの録画を、見させてもらっている。
家内は、ドラマを観ていると、上機嫌である。
家内が上機嫌ならば、我が家は、明るくて平和なのだ。
にこやかな家内は、優しい。
だから、
これで、いいのだ。
(注1)女王陛下とは、家内のことである。私に、ときどき、ミッションを与える、指揮命令系統の最上位者なので、ときに、家内のことを、そう呼ぶ。
【今日の登場人物】
kesun4さんは、詩人である。少し考えさせる詩が、多い。そして、エッセイも書かれるし、多才な文筆家である。そのうえ、人の企画に敏感で、人付き合いも良く、企画にも積極的に参加されるし、人の紹介記事を、よく、書かれている。コメント欄では、ちょっと辛口のやりとりを、私と、しているように見えるかもしれないが、このやりとりが、また、心地よい。私の、自問の種をくれる、人なのである。