アイデアベースの課題解決が身を滅ぼす理由
素晴らしいアイデアというものは時として己に牙を向き、その身を滅ぼす要因ともなり得ます。
とくにそれが画期的なものであればあるほど人の視野は狭まってしまい、その策が最適解であるかのごとく、脳が錯覚していくのです。
目次
0. アイデアが孕む危険性
1. 従来の課題解決
2. 画期的な策(アイデア)を講じた課題解決
3. では従来の課題解決が最適解と言えるのか?
4. 理想は「課題の解決」ではなく「問題の解消」
5. For instance
0. アイデアが孕む危険性
【アイデアベースの起業】
「アイデアや思いつきで起業すると失敗しやすい」。
これはスタートアップに携わる人には広く知られているのですが、それが何故なのか、しっかりと説明できる人は少ない気がします。
ですが実際には「わかった気になっている」人も多く、アイデアやソリューションベースで事業に挑み苦戦する人が多い気もします(創業もしてない私が言っても説得力はありませんが。)
では何故アイデアやソリューションベースで事業に挑むと苦戦するのでしょう。
この考え方は身近な課題解決の際にも同様のことが言えるので、それを例にとって解説していきます。
1. 従来の課題解決
従来の課題解決では、一つの課題に対し複数の解決策が存在しています。
そして大抵の場合、それら複数の解決策というのはそれぞれ一長一短です。
従来の手順としてはそれらの解決策をもとに推測をたて、もしくは実際にスモールなPDCAを回してみることで最良な解決策を見つけ、実際にその策を講じるというパターンが多いでしょう。
【モデルケース:貧困地域の食糧不足という課題を従来の方法で解決すると】
ここでモデルケースを一つ。「貧困地域の食糧不足という課題」を解決したい場合、あなたはどうしますか?
これを従来の課題解決の手順に沿って行なうと、その課題に対し
・日本から食料を届ける
・募金を募り、金銭的な支援をする
などの解決策が思いつくでしょう。
「モノがない」という課題に対し「モノをあげればいい」というのは単純かつ合理的な解決策で、多くの人はそこで思考を止めてしまい、それ以上の思考を巡らせることはありません
2. 画期的な策(アイデア)を講じた課題解決
アイデアというのは麻薬のようなもの。それが素晴らしければ素晴らしいほど、画期的であれば画期的であるほど、目新しければ目新しいほど人を強く洗脳します。
そこにロジックが介在しようがしまいが関係がありません。何故ならそこにロジックをでっち上げてしまうからです。
【アイデアは承認欲求を満たしてくれる】
素晴らしいアイデアというものは対外的には評価を受けやすく、承認欲求を満たしてくれます。
しかしそれは表面的な評価のことが多く、評価する側も「なんか新しいからスゴい!」と先進性に対する評価をくだし、それを歪曲して表現している場合がほとんどです。
ですがアイデアというのはあくまで原石のようなものに過ぎず、それを実施策に落とし込むために磨く作業、いわばブラッシュアップが必要になるわけですが、大抵の場合飛び抜けたアイデアは磨いていく段階で丸くつまらない石に変貌してしまいます。
するとどうでしょう。自分の素晴らしい原石が丸くつまらない石になると知ったあなたは、当初の原石のまま課題を解決し評価を受けたいがため、アイデアの磨き込みではなく課題のすり替えを始めてしまうのです。
【モデルケース:貧困地域の食糧不足という課題を画期的なアイデアで解決すると】
先程と同じモデルケースをこのパターンに当てはめてみましょう。
あなたはこの課題へのアプローチで、「日本の廃棄食材を貧困地域に届ければいいのではないか」というソリューション、いわばアイデアを思いついたとします。
日本の食品廃棄物は年間でだいたい2000万トン前後。この中で食べられるのに捨てられている食材はおよそ600万トンといわれています。
もしこれらの食材を全て食に困っている人に送れたら、それはとても革新的なこと間違いなくスターになれるでしょう。
あなたはそれを実践すべく、廃棄食材を提供してくれるお店を駆けずり回り、現地に届けるためのロジスティクスを確保します。
ですが途中で気づいてしまうのです。「普通に現地近郊の食料が豊富な国から輸出したほうが安くて速いぞ」と。
ですがあなたはサンクコスト(今まで費やした時間、費用)のこともあり、ひくにひけない状況に。そんなつまらない解決策ではスターになれないと、躍起になってしまいます。
そしてめでたく「日本の食料廃棄問題を解決する」という全く別の課題ができあがってしまうというわけです(それが成功する可能性もあるわけですが…)。
3. では従来の課題解決が最適解と言えるのか?
ここまでの話を総括すると、「画期的なアイデアを排除し、課題に対しての複数策を精査し実行することが正」と感じるかもしれません。
ですが本題はここから。本質的な課題解決は課題がそもそも生じない、生じ得ない状況にすることなのです。
上述しましたが、物資に困っているから物資を与えるというのはいわば反語のような解決策で、浅く浅く、ただひたすらに浅い安易な打ち手だと言えます。
ではどういったアプローチで課題に取り組むと、最適解に近づくことができるのでしょう。
4. 理想は「課題の解決」ではなく「問題の解消」
ここで大事になってくるのは課題を解決することではなく、本質的な、かつ潜在している問題を解消してやることです。
そもそも解決というのはその事態をただ落着させることを言います。
「課題解決」という言葉は、ニュアンス的にもそれが一時的な解決であってもよしとされてしまっている気がします。
ですが課題というのはそもそも「あなたに課された題」でしかなく、だれかが問題のうち一つ、あるいはいくつかを顕在化し、言語化したものにすぎません。
いわば「わかりやすくネーミングされたもの」とも言えるでしょう。
「貧困地域の食糧不足」なんていうと分かりやすいですね。
これもただ潜在的な問題が万人に分かるようネーミングされているだけで、実際にこの課題の原因となりうる問題は何種類、何十種類もあるはずです。
それに対しバカ正直に相殺する策を用いたところで、そもそもの課題がフェイクのため短期的な効果しか得られず、すぐに別の問題が健在化する、もしくはもっと本質的な問題解決策に取って代わられてしまうことでしょう。
【モデルケース:貧困地域の食糧不足という課題の本質的な問題を解消すると】
さぁ、本文で何回も出てきたモデルケースをこのパターンに当てはめます。
課題を問題まで深ぼるための1stフェーズは、「why」をひたすら繰り返すこと。
Why 1. なぜ食料が不足しているのか → 土壌が悪く、作物を育てる環境が整っていない
Why 2. なぜ土壌が悪く、作物を育てる環境が整っていないのか → 気候の関係で土に栄養がない
Why 3. なぜ土に栄養がない状態のまま放置しているのか → その分野に詳しい人が現地にいない。その状態を当たり前と思っている
ここまで「why」を繰り返すと、問題の本質が「作物を育てる知識を持っている人がいない」ということがわかります。
であれば、その分野に精通した人を数人派遣すれば済むだけの話ですよね。
先程の話のようにこの課題解決改め、問題を解消するためには日本から大量の廃棄食材を送る必要などないということがわかります。
5. For instance
【日常に潜む課題に対して、あなたはどう取り組むか】
例えばモテない男性にただ女の子を紹介してもだめなんですよ。根本的になぜモテないのかを探らないと。
顔なのか、トークがつまらないのか、はたまたそれ以外の原因があるのか。
例えば売上が低い店のメニューのレパートリーを増やし、さらに単価をあげても意味なんてないんです。
だってそもそも客が入っていないんですから。だったらその解決策は「認知させる」ことであって、メニューをどれだけいじくりまわそうと効果は極めて低いはずです。
このように、表面的な課題解決というのは遠回りかつ効果が低く、もし短期的に高い効果を得られるような解決であってもすぐに再発、もしくは他の策に代替されます。
【あらゆるケースに当てはまるわけではない】
とはいえ、今回説明したことは全ての事業や課題に当てはまるわけではありません。
画期的なアイデアが世界を変えることなんて多々ありますし、最近私の話題によくあがるのですがSnapchatなんて問題解決ベースではまずたどり着かないサービスだと思います。
なので全てが全てこうではありませんよ。というのは、最後に明言しておきますね。
p.s. 書いてて思ったんですが、この「手段が目的化」してしまうシンプルな原因に内容が近いですね。脳内ロジックツリーはマジで便利です。
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