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小説『無伴奏ソナタ』を思い出したのは、たぶん映画『ルックバック』を観たからだと思う

 オースン・スコット・カードの小説『無伴奏ソナタ』のネタバレ(かなり多め)及び藤本タツキの漫画を原作とする映画『ルックバック』のネタバレ(少なめ)を含みます。


小説『無伴奏ソナタ』について

 音楽の天分を持って生まれたクリスチャンは、両親から引き離され、歌わない家政婦と《楽器》と共に森の中で暮らし始めるーーわずか2歳で。
 外からの情報は遮断され、自らの創造性を《楽器》を通して発揮する「創る人(メイカー)」。クリスチャンは何不自由なく音楽を創り続けていた。「聴く人(リスナー)」が禁を破り、バッハの「無伴奏ソナタ」を教えるまでは。

 『無伴奏ソナタ』はそんな始まりをする物語だ。クリスチャンは禁を破ったことで音楽を取り上げられるが、生活が変わっても音楽を創り奏でることをやめられず、厳しい罰を受ける。
 メイカーがメイカーであるがために行きつく在り方が、この作品世界の歪さを浮き彫りにする。文庫版で約30ページの短さながら、読者に与える衝撃はかなり大きい。

小説『無伴奏ソナタ』を知ったきっかけ

 私がこの作品を知ったのは、演劇集団キャラメルボックスによる舞台版が先だった。視覚化された美しい意匠のインパクトもあって、舞台作品としても忘れ難い。
 舞台演劇を経て原作を読み、一層この作品世界に心をしめつけられる思いがした。と同時に、どんな創作も、たった独りでは成しえない、と強く思った。

 優れた先人の作品であれ、聴き手読み手であれ、共同制作者であれ、どんな天才であろうとも、孤独のままで創造性を発揮することはできない。

 それでも孤独と向き合わざるをえないのもまた、メイカー……何かしらの創作に取り組む者の宿命かもしれない。

映画『ルックバック』

 『ルックバック』は漫画を共同制作していた2人の女の子の物語でもあるけれど、別々の道を選んだ先の孤独も描かれている。
 だから私は『無伴奏ソナタ』を思い出したのだろう。

結びに

 私もまた、noteでこうして発表している書き手というメイカーの1人ではある。
 とはいえ、情報は遮断されず、好きなだけ様々な本や映画等々に触れ、それを咎められないことを幸いだと思う。何のかので、こうして文章を書くことをやめられない。それが私なのだから。

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