SaaSビジネスのプロフェッショナルサービスことはじめ
■ これは何
・「SaaSビジネス Advent Calendar 2019」22日目の担当として書かせていただいた、Repro伊藤の記事です(この企画でRepro4人目🤫笑)
・昨日の楠田さんの記事はこちら
・読み終わったら、続編「SaaSビジネスのプロフェッショナルサービスことはじめ(反省編)」もぜひご覧ください
■ お前だれよ
・Repro株式会社、マーケティングチーム所属の伊藤(@n_11o)と申します。
・ざっくりのキャリアとしては、新卒で某リベラルの新聞社に入社し2年半ほど働いてからReproというMartech領域のSaaSスタートアップに1人目のマーケ(というか雑兵)担当として入って4年弱です。SaaSどころかIT業界4年目のまだまだひよっこです🐥
・Reproではマーケチームを立ち上げから1年半ほどやったあとASO(※App Store Optimization。アプリのSEO)コンサルチームをこれまた立ち上げから1年半ほどやり、2019年からマーケに出戻りし今に至るという感じです。
・銭湯が好きで、「銭湯の持つ価値をもっと世の中に伝えていこうぜ!」という会社もやっています♨
■ どんなことが書いてあるか?
・SaaSビジネスにおけるプロフェッショナルサービスの重要性や始めるメリット/デメリットなどを自身の経験を元に書いています。
・「プロフェッショナルサービスって何ぞ?😶」という人や「ツールの単価アップも新規開拓もきついけど来年度から予算倍や…💀」という人はぜひ読んでみてください。
・10,000字くらいあって結構長いので、お忙しい方は目次から自分の読みたいところに飛んでそこだけ読むのがお勧めです📖
B2Bマーケ、SaaSについて情報交換したい方も募集してます☕
プロフェッショナルサービスとは
そもそもProfessional Services(略してPS)とは何か?
要はSaaSビジネスにおける"ツール以外の提供サービス"なのですが、カスタマーサクセスのハイタッチサポートと混同されたり「コンサルティング」という言葉で一括りにされていることが多いように思います。
というか日本でプロフェッショナルサービスという表現を使っているSaaS企業を見たことがない😶
英語でググってもPSを明確に定義したものは見つけられなかったので、SaaSの売上区分を元に自分なりに整理してみました。本稿では赤で囲っている部分をプロフェッショナルサービスと定義しています。
大別すると、プロフェッショナルサービスは「契約してもらったツールの利活用支援でお金をもらうパターン」(b-1)と「ツールの利活用とは別領域でお客さんが困っていることを支援してお金をもらうパターン」(b-2) の2つに分けられるかなと思います。
ちなみにReproはb-1とb-2両タイプのプロフェッショナルサービスを提供しており、自分が携わったASO事業は新規ユーザー獲得領域の課題解決でReproのツールが解決する領域とは別なので、この分類でいうとb-2にあたります。
なぜSaaSビジネスにプロフェッショナルサービスが必要なのか?
ひとことで言ってしまうと「顧客満足度の向上」これに尽きるとは思います。
SaaS事業者の皆さまには釈迦に説法なお話ですが、お客さんが欲しているのはツールや機能ではなくツールを通じて得られる価値、及び成功です。
SaaSがメイン事業である限り、18日目の實川さんの記事にもあった通り顧客の課題に対してバリューを出す主体はプロダクトであるべきなのですが、プロダクトだけで解決しきれない課題があるのもまた事実。
そうした顧客の解決したい課題とプロダクトのギャップを埋める、またはプロダクトとは別軸の課題を解決するために登場するのがプロフェッショナルサービスというわけです。
< ビジネス面での重要性>
また、後述のメリット/デメリットのパートでも触れますが、よりビジネス的な面としては「チャーンの減少」「エンタープライズ案件の獲得」などがプロフェッショナルサービスを提供する必要性になります。
以下はDavid SkokさんというVCが実施したサーベイからの抜粋です。
■ 「チャーン」への貢献
サーベイによると、回答した158社のうち「プロフェッショナルサービスを提供している」と答えた企業の割合は71%にものぼりました。PSやってない企業のほうが少数派という事実👀
グラフをご覧いただくとわかる通り、プロフェッショナルサービスが全売上に占める割合が高くなるほどチャーンは低い傾向にあります。
■ 「エンプラ案件」への貢献
続いては狙っている企業サイズごとのプロフェッショナルサービスの貢献度合い。
グラフによると、ターゲットをエンタープライズに絞っているSaaS企業の初年度売上の16%はプロフェッショナルサービスが占めてます。
また、ターゲットをSMBとしているSaaS企業ですら初年度売上の7%はプロフェッショナルサービスだということがわかります。
やはりエンタープライズを狙うならプロフェッショナルサービスは欠かせないみたいですね。
特にSaaSスタートアップは意思決定スピードが速く小回りが利くからこそ、外資/内資の大手にできない個社対応のプロフェッショナルサービスをツール以外でも提供することでエンプラ案件のコンペなどに勝機を見いだせるのかなと思っています。
■ 「プロフェッショナルサービスはSaaSに不要」という神話
しかしながら、「SaaSはツールで勝負すべき!」「コンサルサービス?労働集約的だ!悪!😡」という考えのSaaS事業者やVCはけっこう多いのではと思います。
"SaaS professional services" で検索したら3番目にForbesのこんな記事が出てきました。
要は「SaaS企業はプロフェッショナルサービスの提供をするべきではないという迷信は広くまかり通っており、それが企業成長を妨げている」と。
SaaSの本場アメリカであっても「プロフェッショナルサービス不要論」は根強いみたいです。
■ Reproの場合
では当社の場合どうだったのか? こうしたファクトや将来的なエンプラ案件の増加を踏まえてプロフェッショナルサービスを始めたの?😶 というと、答えはNoかなと。
Reproは"Client first"を行動指針の一つに掲げており、「お客さんの成功のためなら何でもやってやるぜ!」という意識がとっても強い会社です。
なので顧客に課題があったときに 工数の兼ね合いやスケーラビリティがあるかの議論より先に
「クライアントが困っていて、お金払ってでも解決したい課題ならやるべきだろ!!!!!!!!!!!!!!」
という感じで始まりました。少なくとも自分が関わったASOはそう。
なのでどちらかと言うと「顧客のためにやるべきことをやっていたらいつの間にかプロフェッショナルサービスがいくつも生まれ、強みの一つになっていた」という感じです。
あくまで現場目線の意見なので経営陣には最初から目論見があったかもですが(';')
プロフェッショナルサービスはSaaSのどのフェーズから始めるべき?
なるほど、プロフェッショナルサービスの種類と必要性はわかったぞ。
じゃあいつから提供し始めるべき? 今の自社の事業フェーズだとどうなんだろう?😶 というのが次に気になるところです。
■ 前田ヒロさん、FOND福山さんの見解
このSaaSビジネス アドベントカレンダーにもご参加されているアルプ代表の伊藤さんがご執筆された前田ヒロさん×FOND 福山さんのセッションメモに、一つの答えが書いてありました。(この記事、当時もバズってましたが改めて読むとすごい情報量だ…)
なるほどなるほど、ARR10億がプロフェッショナルサービスを始める目安で、それまでは手を出す必要はないのかな~。
ところがどっこい、先ほど紹介したForbesの記事には上記見解とは別の事実を示すデータが載っていました。
■ 数字から見る米SaaSのプロフェッショナルサービス割合
以下はすでにIPOしている米SaaS企業をいくつかピックアップし、スタートアップ期( 売上$5mくらい) / グロース期(売上$20m∼) / IPOした時点 / 現在 の4つのフェーズにおける「全売上に占めるPS売上の割合」をグラフにしたものです。
Workday、Marketo、Zuoraなど日本でお馴染みのSaaSも含まれていますね。
グラフを見ていただくとわかる通り、成功しているSaaS企業のいくつかは年商5億円程度の時期から積極的にプロフェッショナルサービスで稼ぎ、平均の割合は全売上の1/3以上(36.4%)を占めています。(※0%になっているところはn/a、つまり不明なのでPS売上の割合がゼロというわけではない)
もちろんこのSaaS企業群は執筆者であるVCがポジショントークを行うために作為的にチョイスしている側面もあるかと思います。
しかしながらIPO時にはグラフ内の全ての企業がプロフェッショナルサービスを提供し平均が全売上の20%以上を占めていることを鑑みると、提供を始めるフェーズの差こそあれSaaS企業の成功にプロフェッショナルサービスは必要不可欠だということが言えそうです。
このForbesの記事とデータを見て改めて思ったのは、前田さんと福山さんのセッションメモも注目すべきところは「ARR10億」という数字の線引きではなく「カスタマーサクセス・顧客満足度向上に注力するべき」という発言のほうで、CS組織やツール提供を通じた顧客満足度が安定してくる目安として「ARR10億」という数字を挙げているのではないかなと。
そう考えると、事業フェーズ初期からプロフェッショナルサービスの売上割合が高い企業は単にプロダクトが未成熟なのであり、顧客の解決したい課題とツールの機能にギャップがあるからプロフェッショナルサービスを提供することで売上の機会損失を防いでいるのかもしれないですね。自社で経験したことと照らし合わせてもこれは納得です。
■ Reproの場合
代表含め経営陣に外資コンサル出身者が多いというのも理由にあると思いますが、当社Reproの場合は創業当初からツール以外の売上を作ってましたし、今でも売上の10~25%はプロフェッショナルサービスによるものです。
営業戦略の一つとして、時には「今はツールよりASOコンサルの受注を増やせ!」ということもあります。(理由については後述のメリットとデメリットのパートにて)
当社の全売上に占めるプロフェッショナルサービスの割合に関しては上記の米SaaS企業群と同様でスタートアップ期のほうが高く、ツール売上が増加するにつれて相対的に売上は下がり、現在の割合に落ち着いているという感じです。
社長👦「たいへんだ、今月はツールの売上よりCSOが一人でやってるコンサルの売上のほうが高え!開発陣がんばれや!」入社初期はオフィスでよくそんな話を耳にした覚えがあります。ツールが未成熟でもお金を稼げるチカラ、大事。
SaaS企業としてプロフェッショナルサービスを始めるメリットとデメリット
ここからは、携わったASO事業(b-2. ツール活用以外の領域支援)の経験をもとに、様々な観点からプロフェッショナルサービスのメリデメを書いていきます。
< プロフェッショナルサービスのPros/Cons >
■ マーケティング&セールス観点
■ カスタマーサクセス観点
■ 組織・人材・文化の観点
プロフェッショナルサービスを生むには?
つらつらと書いていたら長くなってしまいましたが、最後のパートとして「自社でプロフェッショナルサービスを生むためのヒント」について考えてみました。
< プロフェッショナルサービスを生むためのヒント >
おわりに
盛り上がっているSaaS業界でもあまり語られることのない、プロフェッショナルサービスをテーマに書いてみました。クライアントと一緒に個人も会社も成長できるという点がSaaSビジネスの最高なところの一つですね👏
本稿では実際にReproのプロフェッショナルサービスの一つであるASO事業がどういう背景で立ち上がったのか、どう伸ばしたかetc…は書かなかったので、より詳細について知りたい方はTwitterかFBでご連絡ください📧
明日は元Hubspotの戸栗さんから「SaaSマーケティングのあれこれ」というテーマで記事が公開予定です、楽しみ!
これまで公開されたSaaSビジネス アドベントカレンダーの記事は下記からどうぞ。
また、本稿の続編も書いてみましたので、この記事が面白いと思ってくださったらこちらもぜひご覧ください。
参考リンク
記事を書くにあたって参考にさせていただいた記事リンクもまとめて貼っておきます。英語得意ではないのに英記事からの引用も多いので「解釈違うよ!」とかあれば教えてください🙇 ★マークが本稿で実際に引用した記事です。
日本語
・★ (要約版)「ARR 一億円を超えたSaaS企業が立ち向かう壁」〜 FOND 福山太郎とBEENEXT 前田ヒロのセッション メモ
・SAASビジネスの成長戦略3:クロスセルによる収益増加と顧客維持率向上
英語
・★ SaaS Myths (#1) -- Great SaaS Companies Don't Have Professional Services
・★ 2018 Private SAAS Company Survey- Part 2
・2018 SAAS Private Survey Results- Part 1
・The Role of Professional Services in SaaS Companies
・What’s a good example of a SaaS business with professional services?
・Professional Services and Customer Success in SaaS startups
・3 Customer Success takeaways from David Skok’s 2018 SaaS company survey
・The Future Of Professional Services In SaaS
・TRACTION. WHAT IS IT? HOW DO YOU GET IT? HOW DO YOU DEMONSTRATE IT?
読んでいただきありがとうございます!最新の記事は別ドメインにありますので、よろしければそちらもチェックしてみてくださいm(__)m https://naoki11o.com/