小説講座を探そう① 新人作家育成と作品のレベルアップを指導する小説講座
公募型の文学賞にトライして、小説家への扉を開く必要があることは分かった。だが、文学賞に応募しても、落選して自信をなくす人も多いようだ。小説家になろうという人はごまんといて、1次選考を通過するだけでも狭き門である。
友人の記者と雑談をしていて「いま、小説を書いている」と話すと、意外にも「カルチャーセンターの小説講座に通っている」という答えが返ってきた。短編小説を書いて、それを講評してもらうスタイルで、多彩な講師の中から、自分に合いそうな講座を選んでいるそうだ。受講料も2万~3万円と手頃だ。
小説講座があることは知っていたが、利用している人が身近にいることに驚いた。継続して受講していると聞き、興味を持ったので、小説講座について調べてみることにした。
プロ作家を目指す、自分の可能性を探るなど、動機はさまざまだが、ネットで検索すると、30~40ほどの小説講座はすぐにリストアップできた(今回の記事をまとめるに当たって、最新のデータ、数字を記載している)。
プロ作家を目指す人を対象にした、昼間に2年間通学する本格的なスクールもある。これには入学金・学費・教材費その他を含めて2年間で300万円近い費用がかかる。社会人やダブルスクールの学生を対象にした週1回半年間の夜間コースもあり(1回2時間)、こちらの学費は20万円ほどである。
数ある小説講座を、実践的か、費用対効果が高そうかという観点で私がセレクトし、興味深いと感じた5つの小説講座・小説塾を紹介したい。
山村正夫記念小説講座
1つ目は、推理小説・伝奇ミステリー作家で、小説作法教室で長年講義を行ってきた故・山村正夫の指導方針を受け継ぐ「山村正夫記念小説講座」(略称、山村教室)である。篠田節子、宮部みゆき、室井佑月、鈴木輝一郎など、多くの小説家を輩出し、エンターテインメント系のプロ作家を目指す人を主な対象にした講座だ。
講義形式
提出した作品をプロが講評する授業がメイン。名誉塾長の森村誠一や人気作家、OBOG作家、文芸評論家による特別講義もある。
期間・回数
3か月の講座で、月に2回、各3時間。
費用
受講料は1期(3カ月)で2万8000円。提出した原稿の印刷代が別途かかり、400字詰原稿用紙約6枚で1000円。
場所
東京都渋谷区道玄坂
その他
提出する作品は400字詰原稿用紙換算で30~80枚程度。受講生は120名ほどで、退会者が出ると新規の受講者を受け付ける。待機している間にはYouTubeの講座がある。プロ作家志望者が多い。
ウェブサイト
山村正夫記念小説講座 通学(東京)・通信講座
名誉塾長の森村誠一は同講座のホームページの「山村正夫記念小説講座の歴史と趣旨」で、以下のように語っている。
「作家志望人口は500万以上と推定され、年々増えている。文学賞は地方自治体創設のものを含めて約300、年間受賞者350人ないし500人と推定されている。近年、活字離れが危惧されているが、作家志望者は年々増加の一途をたどっている」
500万人を超える作家志望者がいて、文学賞の年間受賞者が500人であるなら、受賞の確率は0.01%。やはり狭き門である。森村のメッセージは続く。
「だれが、どんな動機から、どんな小説を、どのように書こうと自由であるが、学校や養成所のように、何年で一定のポイントや単位によって卒業、合格し、資格があたえられるということもない。山村教室によって得るものも、各人によって異なる。だが、志を同じくする者が競い合い、切磋琢磨することによってプロ作家としての要求水準が見えてくるであろう。
なぜ作家を志すのか。それは自分の内面に表現したい世界を抱えているからである。これを書かなければ生まれてきた意味がないと思いつめるほど切実な願望から、生活のためや、余生の時間つぶしや、筆の遊びの趣味に至るまで、志望動機の度合(ディグリー) は異なっても、表現したいという意欲は共通である。
山村教室の受講生はプロ作家志望が断然多く、動機も書くことを生き甲斐とするタイプが主流派である。教室の講師には、一流文芸誌の編集長出身者や、現役の第一線編集者が受講生の習作の講評に当たる。並行して随時プロ作家を招んで、作家の心構えや小説論を展開する。
月2回の教室における講義の後は、二次会に残り、講師やゲスト作家を囲んで懇談会を開き、小説作品や今日の文芸について意見を交換する。(中略)山村教室には『なにがなんでも作家になりたい』(教室OB鈴木輝一郎氏の言葉)人たちの熱気とパワーと刺激が渦巻いている」
山村教室には120名ほどの受講生が在籍している。運営の基本方針は、退会者が出たら、新規の受講者を受け入れるというスタイル。入会を待機している人に向けては、リモート(YouTube動画閲覧)で講義を聴講する「ウエブde見学」コースがある。
このコースでも、受講希望者本人が書いた、日本語の短編小説1作(400字詰原稿用紙換算で30~50枚)を入会申し込み時に提出する。
提出された作品を順番に主任講師が講評していき、受講生の実作を例にして、エンターテインメント小説の書き方や、プロットの立て方、キャラクターの描き分けなどを細かく論じる。文章の添削は行わない。受講生同士が講評しないことなど、山村正夫の指導方針を踏襲している。
公募スクール
続いて2つ目を紹介する。公募ガイド社が運営する小説講座の「公募スクール」は、「エンターテインメント小説講座」、「編集者が教える小説講座」など小説関連で33件の講座がある。また、創作に役立つ情報を掲載したスクールマガジンがホームページにアップされている。
スクールマガジンというのは、「現役作家が答える!小説の書き方Q&A」とか「現役作家に聞く! 面白い小説を書くコツ」などのインタビューやコラムだ。
公募ガイド社は、国内唯一の公募情報専門誌「公募ガイド」を1985年に創刊し、出版事業をメインとしてきた。近年は「公募ガイドオンライン」を運営し、3000件強のコンテストを掲載。スクール事業にも力を入れている。
小説家・劇作家・脚本家の柏田道夫が講師を務める「エンターテインメント小説講座」の概略は次の通りである。
講義形式
6つの課程があり、与えられた課題を提出する。
期間・回数
受講可能期間は1年。添削回数6回。
費用
3万4100円。
場所・受講の仕方
通信講座
その他
「公募ガイドオンライン」では、2000字程度のコンテストを毎月実施している。
ウェブサイト
公募スクール 通信講座
講座テキスト(ファイル)は6冊で、6つの課程がある。
課程1 アイデアを創ろう
課程2 設定とテーマを決めよう
課程3 キャラクターを造形しよう
課程4 トップシーンを書こう
課程5 描写とセリフを磨こう
課程6 さらにおもしろくしよう
「キャラクターを造形しよう」では、主人公が登場するシーンを400字程度で書くという課題が与えられる。「さらにおもしろくしよう」では、これまでの講義を参考に、作品の冒頭から最初の10枚(400字詰換算)を書いて提出する。
『武士の家計簿』、『武士の献立』などの映画の脚本を手掛けた柏田は、スクールマガジンの1つ「先生はどんな人?」で、「どのくらい書けばプロになれると思いますか?」という質問に、以下のように回答している。
「いまはパソコンがあるし、SNSやネットもあるから書くことのハードルが下がっている。でも、プロになるには顔の見えない読者に本を買ってもらわないといけない。そのためには最低でも5年計画のつもりで勉強をする。ひたすら読んで書いて、短編の習作をやる。そうすると見えてくると思います」
柏田は「出版社がやるようなメジャーなコンクールはなかなかハードルが高いので、地方自治体が主催している公募や、短編を募集している公募からやってみるといいですね」「400字5枚なら毎月出せるはず。また、長編も年に1回くらい挑戦する。そうして短編と長編を組み合わせて書いていると、自分のペースがわかってきます」とアドバイスしている。
「公募ガイドオンライン」では、「高橋源一郎の小説指南 小説でもどうぞ」という掌編コンテストを毎月実施している。「冒険」とか「夢」といったテーマで、400字詰換算5枚の原稿を募集している。最優秀賞1編、佳作7編、選外佳作はいずれもWeb上に掲載される。最優秀賞には1万円の商品券、佳作には記念品が贈られる。
ここまでに2つの講座を紹介したが、講座によって対象者や内容がかなり異なることが分かる。次回は小説講座を3つ紹介する。(敬称略)
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