映画『ゴールド・ボーイ』バッドガイたちによる攻防がスゴい
※少し本編に触れている部分があります。
3月8日より、映画『ゴールド・ボーイ』が公開されている。
まず、俳優陣が超豪華。岡田将生さんに始まり、黒木華さん、松井玲奈さん、北村一輝さん、江口洋介さんなどなど。物語のカギを握る三人の子どもを演じた羽村仁成さん、星乃あんなさん、前出燿志さんも卓絶した存在感を放っていた。鑑賞後は、息するのを忘れていたのかと思うほど心拍数が早くなっていた。それぐらい、ラストへ向かう展開のたたみかけが壮絶だったのだ。
この映画は、とにかく俳優陣が体現したスリルが最高だった。そして、人を簡単に信じちゃいけないんだな……と悟るのである。
まわりを騙す悲劇の演技
朝陽(羽村仁成)、夏月(星乃あんな)浩(前出燿志)の三人は、東昇(岡田将生)が義父母を崖から落とす殺人現場を偶然カメラにとらえてしまう。お金に困っていた朝陽たちは、証拠動画をもちいて昂を脅し、1000万円をせしめようと計画する。
義理父母と最後に一緒にいたのは昇であるため、警察に真っ先に疑われる。実際、殺したのは昇なのだが、警察の目をすり抜けるように怪演する悲劇のヒロインっぷりには驚く。
昇はとにかく、会話によるディフェンスがうまい。それがとくにわかるシーンが妻・静(松井玲奈)のいとこであり、刑事でもある東巌(江口洋介)と二人きりで話す場面。このシーンは昇が黒い服、巌が白い服を着ており、正と悪のコントラストを感じられたのも印象的だった。
静が交通事故により亡くなり、夫婦仲が良くなかったことや義理父母の件もあって巌は昇を怪しむ。そこで昇が放ったのは、「俺は静を愛してたっていうより、殺したかったーーでも、そうさせてもらえなかった」という言葉。変に「俺は静を愛してた!だから犯人が許せない!」といわれるより、情が湧き出てしまう感覚があるのが恐ろしいな、と。岡田将生さんの気迫のこもった演技もあいまって、昇が殺してるんだろうなとは思いつつ同情心を感じてしまったことに、静かにうわ……となった。
殺人鬼を圧倒する巧みな話術
朝陽もまた、じわじわとヤバいやつである。浩や夏月から慕われ、頭もよく、誠実そう。だが、そもそも昇を脅して大金をもらおうと計画したのは朝陽だし、「13歳だから少年法で14歳までは何をしても捕まらない」と言っているのもかなり危ないやつだということを示唆しているように思う。
この映画の見どころのひとつは、そんな朝陽と昇の攻防戦にある。朝陽は普段は普通の中学生だが、昇との交渉になるとひとたび人が変わる。表情から声色まで、まるでチャンネルを切り替えたように変貌する様はとても年端もいかない子どもとは思えない。朝陽演じる羽村仁成さんの知的な声と妙に説得力のある語りかけには、昇と同じく押し負かされてしまいそうな凄まじさを感じた。昇が守りのプロだとしたら朝陽は攻めの達人。二人の相性が悪いのも頷ける。
会話だけでなく、目線からもスリルが体現されている。朝陽と昇が二人で家にいるところを訪ねてきた巌。そこから三人による攻防があるのだが、この場面のヒリついた空気感は映画館を離れたあとでも鮮明に思い出せる。視線の角度や相手を見る目つき、目配せなどの卓越した目の演技。一瞬たりとも見逃せない圧巻の攻防劇を垣間見れるのだ。
タイトルにある『ゴールド・ボーイ』のゴールドとは、登場人物誰もがお金に執着していることもあり「金」を意味するものかと思っていた。だが、金はカラーセラピー的にみると自尊心やプライドという意味があるそう。そう考えると、自己愛まみれ、悪い方に働いてしまった彼らを表しているのかしれないと静かに感じた。
ゴールド・ボーイ
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