
続伊勢湾台風/私の恥ずかしい思い出
「僕の昭和スケッチ」28枚目
<画/もりおゆう 原画/水彩 サイズF5>
(昨日の記事「空前絶後の伊勢湾台風/昭和34年」の続きです)
台風一過の翌日は晴天。
表に出てみると付近一帯が膝の辺りまで湛水しており、ゴミが至る所に浮いていた。
その中にみかん箱のような木の箱が浮いていた。何処からか流されて来たものだった。
私は興味津々で近所の子供らと一緒になんとかその箱を水のない所まで引き上げた。皆小学校の低学年か幼稚園生だったから、かなり手間取ったのを覚えている。
そして、中を開けると…
驚くべき事に中から出て来たのは、紙に包まれた小さなキジや、猿、桃太郎など無数の小さな土人形だった。それは間違いなく縁日で輪投げの的になっているもので、おそらく何処かの業務用の倉庫から流出したものだった。その思わぬ漂流物に私たちは興奮し、箱一杯に詰め込まれていた人形を町内の子ども達で分けた。そして、喜び勇んで家に帰り、母に自慢げに人形を見せた。すると…母親が私に言った。それは、思いもかけぬ叱責の言葉だった。
「アンタは何と言う情けない子や…持ち主の方はみんな大水で流されてもうて、困っとりんさるゆうのに! 第一、今日は台風でお亡くなりになった方も大勢いらっしゃるんやで! そんな人形がそんなに嬉しいかね!」
と。
その母の言葉に私はすっかり意気消沈し、輝きを放っていた人形達は見る間に色あせていった。
私の何とも恥ずかしく、又懐かしい思い出だ。
母に感謝したい。
*noteから頂きました。皆さん、読んで頂いて有り難うございます。