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『錆びた滑車』切ないミステリーに心を揺さぶられる葉村晶のサバイバル劇

探偵といえば、シャーロック・ホームズのような鋭い推理力、そしてクールな佇まいを思い浮かべる方が多いでしょう。

しかし、この作品の主人公、葉村晶(はむら あきら)は全く異なります。40代女性で、探偵としての仕事の合間に本屋でバイトし、シェアハウスに住む彼女。

彼女の人生はミステリーでありながらも、泥臭く、生きるための格闘そのもの。今回はそんな葉村晶の最新作『錆びた滑車』をご紹介します。


あらすじ

葉村晶は吉祥寺のミステリー専門書店でアルバイトをしながら、〈白熊探偵社〉で調査員としても働いています。

ある日、調査会社〈東都総合リサーチ〉からの依頼で老女・石和梅子を尾行していた葉村は、思わぬ騒動に巻き込まれ怪我を負います。この騒動がきっかけで、彼女は古びた木造アパート〈ブルーレイク・フラット〉に住むことに。

そこには、孫のヒロトと父親の光貴を交通事故で失った青沼ミツエがいました。ヒロトは事故の前後の記憶を失い、葉村に「なぜあの場所で父と一緒にいたのか」を調べるよう依頼します。

しかし、事件の真相に近づく中で、〈ブルーレイク・フラット〉は火事に見舞われ、ミツエとヒロトが命を落とします。これが偶然の事故なのか、それとも計画的な犯行なのか。

葉村晶は痛みを抱えながら、真相に迫っていきます。

登場人物

葉村晶(はむら あきら)
主人公。探偵業をしながらアルバイト生活を送る40代女性。タフな精神力で事件に立ち向かうも、常に満身創痍。

石和梅子(いさわ うめこ)
尾行対象の老女。彼女の行動が物語の発端となる。

青沼ミツエ(あおぬま みつえ)
〈ブルーレイク・フラット〉に住む老女。孫・ヒロトを支えながら暮らしている。

ヒロト
事故で父親を亡くし、自身も記憶を失った青年。葉村に真相解明を依頼する。

『錆びた滑車』の感想

葉村晶シリーズを読むたびに思うのは、「こんなにも不器用で、でも人間臭い探偵がいるのか」ということです。

今回の『錆びた滑車』では、葉村はさらに追い詰められています。住み慣れたシェアハウスの立ち退き、尾行中の怪我、そして新居でのサバイバル生活。彼女に降りかかる災難は、まさに波状攻撃のようです。

それでも彼女は、逃げるのではなく前に進みます。たとえば、ヒロトの依頼に対しても「他人の人生に深入りするなんて御免だ」と言いながら、気づけば全力で向き合っている。

この矛盾が、葉村晶の最大の魅力でしょう。

身近な例で見る葉村晶

葉村晶を身近な存在に例えるなら、毎日満員電車に揺られながら、仕事と家事に追われるシングルマザーのようなものかもしれません。

彼女もまた、理不尽な現実に立ち向かいながら、何とか前を向いて生きています。この「誰もが共感できる戦い」が、シリーズの人気の秘訣と言えるでしょう。

ラストの余韻

物語の結末は切なくも鮮烈です。火事による悲劇を経て、葉村は新たな一歩を踏み出します。

彼女が抱える心の痛みと、新しい事件への期待感が混ざり合い、読者を次作へと誘う。

三鷹台の坂道や古びたアパートなど、ロケーションも細やかに描かれ、まるでその場にいるかのような臨場感があります。三鷹台の蕎麦屋を懐かしく思い出しました。

今もあの場所に立ち寄れば、葉村晶の足跡が感じられるかもしれません。

誰もが抱える『錆びた滑車』に向き合う物語

『錆びた滑車』は、ミステリーとしてだけでなく、困難や理不尽に立ち向かう人々の生きざまを描いた深い物語です。

葉村晶の不器用な戦いぶりや登場人物たちの苦悩は、私たち自身の人生とも重なる部分があるかもしれません。この物語を通じて、「滑車」の錆びを落とす勇気を得られるはずです。

ぜひ手に取ってみてください!

葉村晶の泥臭くも人間味あふれる姿に心を動かされたあなたへ

『錆びた滑車』で見せた彼女の戦いは、実はまだ序章に過ぎません。次におすすめしたいのは、彼女のさらなる孤独と葛藤、そして鋭い直感が光る『不穏な眠り』です。

今度の舞台は、謎めいた依頼人と、眠りに潜む不穏な影。平穏を切り裂く事件の裏には、想像を超えた真実が待っています。

葉村晶の心の奥底に触れながら、ミステリーの醍醐味を存分に味わえる一作。

彼女が挑む「眠りの謎」の先にある衝撃を、ぜひ一緒に体感してみませんか?次の物語が、あなたの想像を超える旅へと誘います。

『不穏な眠り』の読書感想文は下記のリンクから👇

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