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『さよならの手口』若竹七海著:葉村晶の不運は止まらない!運命に抗う女探偵の深淵

「不運すぎる女探偵、葉村晶が帰ってきた!」

そう聞いてワクワクした読者は多いでしょう。しかし、今回の葉村晶は「不運」の一言では片付けられない事態に巻き込まれます。

古本屋のアルバイト中に白骨死体を発見し、さらには謎の依頼に翻弄される葉村晶。その運命を追うと、読者もまた彼女の不運の連鎖に引き込まれ、頁を捲る手が止まりません。

『さよならの手口』は、事件解決のカタルシスよりも、登場人物たちのリアルな葛藤と、"どうしようもない運命"のようなテーマが胸に刺さる作品です。


あらすじ

探偵業を休業し、ミステリ専門書店でアルバイトをしていた葉村晶。

そんな彼女が古本引取りの最中に白骨死体を発見し、さらには負傷して入院。入院先で同室になった元女優から「20年前に家出した娘を探してほしい」と依頼されます。

しかし、その娘を調査していた当時の探偵も失踪しているという怪しい背景が。
葉村は偶然や些細な手掛かりを頼りに調査を進めますが、そのたびに新たな悲劇が襲いかかります。「13日の金曜日」を思わせるような背筋が寒くなる展開が続き、依頼者のために奔走する葉村自身の運命が試される物語です。

登場人物

葉村晶
仕事はできるが、とにかく不運な女探偵。現在は探偵業を休止中で、ミステリー専門店のアルバイトをしている。今作ではさらなる厄介事に巻き込まれる。

元女優の芦原吹雪
入院先で葉村の病室の同室者となる人物。20年前に家出した娘を探す依頼を葉村に持ちかける。

岩郷克二・倉嶋舞美
物語の中で交錯する3つの事件の関係者。それぞれの事件が複雑に絡み合い、物語に緊張感を与える。

『さよならの手口』の全体像

この物語は、葉村晶という「運命に抗う」探偵を軸に、不気味な偶然や人間の闇が絡み合うストーリーです。

従来の探偵小説の型に収まりきらない展開が、あなたを心地よく裏切る。特に「人間関係の綻び」や「見えない力に振り回される無力さ」といったテーマが色濃く描かれており、読み終わった後にじんわりとした重さを感じさせます。

『さよならの手口』の感想

葉村晶シリーズの魅力は、探偵としての腕前の確かさと、それを上回る不運ぶりのギャップにあります。

『さよならの手口』のでは、それがより一層際立っている。例えば、白骨死体を発見するシーンは偶然の産物でありながらも、そこから始まる彼女の行動は非常に論理的で、読者を納得させます。

一方で、病院での出会いや依頼内容の異常性には、「こんな偶然ありえる?」と思わず笑ってしまう場面も。

また、「20年前の家出事件」と現在の事件がリンクする展開には、思わず息を呑む場面が多々あります。しかし、物語の焦点は単なる事件解決ではなく、登場人物それぞれの背景に隠された痛みや後悔にある。

葉村晶が紐解く謎は、読者にとって「犯人探し」という以上に「人間の本質」を考えさせられるものです。

結論

『さよならの手口』は、単なるミステリーを超えた「人間ドラマ」です。

葉村晶の不運の連続に笑いながらも、その不運が持つ意味を深く考えさせられます。物語の最後には、「事件を解決すること」だけが探偵の仕事ではないと気付かされるでしょう。

若竹七海氏の文章は、日常の裏に潜む非日常を描き出す点で見事で、再び葉村晶の活躍を読みたくなる一冊です。

まとめ

『さよならの手口』は、ミステリーの枠を超えて「人間の運命」や「偶然の恐ろしさ」を考えさせる作品です。

葉村晶というキャラクターの個性は相変わらず際立っています。彼女の不運ぶりは、ギャグの要素を超えて、物語全体を引き締める大きな魅力になっている。

あなたは彼女の視点を通して、現実の理不尽さや人間関係の複雑さを追体験することになるでしょう。

また、物語の随所に散りばめられた比喩やユーモアが、暗いテーマを持つ本作に明るさを添えています。

例えば、病院での元女優との会話や事件解決のための推理が進むたびに、あなたは彼女の現実的な魅力と、困難に立ち向かう姿勢に共感を覚えるでしょう。

葉村晶シリーズは、探偵小説のファンはもちろん、普段ミステリーを読まない人にもおすすめです。特に、不運に負けず前に進む葉村晶の姿は、現代社会を生きる私たちへの応援歌のように響きます。

『さよならの手口』を読み終えた後には、「次はどんな不運が待ち受けているのだろう?」と、続編を期待せずにはいられなくなるはずです。若竹七海氏が描き出す独特の世界観と、そこに生きる人々のリアルな息遣いを、ぜひ感じてみてください。

不運でありながらも賢く粘り強い葉村晶を通じて、あなたは物語を楽しむだけでなく、自分自身の運命についても少し考えさせられるでしょう。

ミステリー好きに限らず、幅広い読者におすすめの一冊です。

不運探偵・葉村晶の奮闘記は、まだまだ続く

『さよならの手口』で彼女の魅力にハマったあなたに読んでほしい作品。それは、四季折々の事件が楽しめる連作短編集『静かな炎天』です。

夏の炎天下からクリスマスイブの大騒動まで、不運とユーモアが織りなすストーリーの数々を一緒に追体験しませんか?

以下のリンクの読書感想文で、その魅力を徹底解説します!

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