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1月8日の朝に。


「8月31日の夜」にザワザワする私の心

まだまだ暑い日が続いているが、日本各地の小学校では長い夏休みが終わり、再び学校が動き始めている。

この時期になると、「8月31日の夜に」という特集番組が放送される。この番組が放送されると、私の心は少しだけザワザワしてくる。今から30年前の記憶が呼び起こされるからだ。

私は小学5年生の春休み前から丸1年学校へ行けなくなった。当時は不登校は登校拒否と呼ばれていた。今のように不登校の情報や支援はほとんどなく、それどころか、不登校の生徒自体が少なかった。だから、学校へいけなくなった自分に何が起こっているのかも分からないし、行けなくなった自分が人と違って変だという怖さしかなかった。

ずっと人に会うのが怖くて、ひきこもった。信じられないかもしれないが、当時「ひきこもり」という言葉もまだなかった。想像してみてほしい。「ひきこもり」という言葉がない時代にひきこもること。つまり、本当に自分に何が起こっているか分からないのだ。ただ恐ろしかった。

「1月8日の朝に、学校へ行く」という選択

そんな私は、学校へ行けなくなってから約1年後の冬休み明けに、一つの決心、つまりは選択をした。

それは、「1月8日の朝に、学校へ行く」という選択。

不登校になった人には分かるかもしれないが、親や周りに追い詰められるように、日々「行く」「行かない」という二つの選択肢の狭間で思い詰める。けっして行きたくないわけではない。行けないから、その選択の狭間で思い悩むのだ。

小学5年生の3学期で学校へ行けなくなった私は、春休み明け、修学旅行直前、夏休み明けなど、幾度もその選択に思い悩み、結局は「行かない」という選択をした。

だけど、小学6年生の冬休み明け、つまりは1月8日の朝。とうとう「行く」という選択した。この選択は容易くなかった。思い悩んで本当に思い悩んで決めた選択。語りきれない葛藤の積み重ねがあった。

今まで幾度も「行かない」という選択をしていたのに、今回は違った。約1年間学校へ行かないことによって、枯渇していたエネルギーが回復したのかもしれない。

それに加えて、その選択をする少し前に、友達の一人が手紙と花束を持って、自宅までお見舞いに来てくれたことも、きっかけの一つだったかもしれない。

不登校になってすぐ、クラス全員から手紙を受け取った。不登校あるあるだが、お手紙問題だ。無理やり書かされたことが伝わり、むしろ傷ついた。しかし、友人の一人は、個人的に手紙と花束を持ってきてくれた。それも学校へ行かなくなってから、10か月も経ち、私の存在すら忘れられていたのではないかと思う頃だった。だから、その友達の気持ちが私の選択を変えたのかもしれない。

私に広がった未来、そして無限の可能性

私は「行く」という選択をした。その選択によって、色んな未来、無限の可能性が広がっていった。今の私が手に入れたものは山ほどある。

 「大学に通う」
 「就職する」
 「結婚する」
 「自分の家を持つ」
 「管理職になる」
 「最愛の娘に出会う」

こんなたくさんの未来と幸せが待っていた。さらに、まだまだこれからの人生も色々な可能性が広がっているかもしれない。

でも、時々怖くなる時がある。

もし、あの日の朝、つまり、1月8日の朝に「行かない」という選択をしていたら・・・

今の自分はどうなっていたのだろうか。自らの体に刃を向けた時もあった。何か一つの選択でも間違っていたら、この世に存在していなかったかもしれない。私の未来も可能性も絶たれたかもしれない。

「行く」という選択をしたあの日の朝、もちろん忘れられない辛さがあった。玄関ポーチで震える心臓。扉を開けて外へ一歩踏み出す時の、胸が引き裂かれるような怖さ。当時は集団登校だった。その集合場所へ行き、久しぶりの同級生がどんな顔をして迎えてくれるのか分からない不安な気持ち。その時の学校へ向かう通学路の空気や匂いは、今でも脳内で忠実に再現ができる。これまでの人生で一番勇気を出した日。それだけ印象深い日。

その後、中学、高校、大学へと進んだが、けっして平坦な道ではなかった。つらいこともたくさんあった。だけど、こうして今がある。

あの日の朝、私は一つの選択をした。

「勇気を振り絞って、再び学校へ行く一歩を踏み出すこと」

私の可能性を広げ、今の私を作り上げた、あの日の選択。
けっして忘れることはできない。

(追伸) 今も苦しむ学校へ行けない子供たちへ

もしかしたら、あなたはたった今も「学校へ行く」「行かない」の選択で悩んでいるかもしれない。私がこんなことを書くと、「行く」という選択肢をしないといけないと思うかもしれない。

でも、無理はしないでほしい。

疲れ切った心には充電期間が必ず必要だと思う。私が再び「行く」選択をできたのは、疲れた心がある程度充電できたからだと思う。だから、その時が来るまで、焦らないでほしい。

だけど、だけど、いざその時が来たら、ほんのちょっぴりでいい、勇気を振り絞って選択をしてほしい。そのちょっぴりがきっとあなたの未来と無限の可能性につながるはずだから・・・。

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