【取材記事】新潟の国際支援活動団体「N.R.I.」「リユース事業」×「炊き出し活動」でフィリピンの貧困に取り組む。
【お話を伺った方】
■3人の任意団体「N.R.I.」、中古品の再利用ルートを求めフィリピン市場へ。
mySDG編集部:創業の経緯からお願いします。
早川さん:N.R.I.(NIIGATA REUSE INNOVATION) (以下、N.R.I. )は法人ではなく、それぞれ個人事業主の藤口・小林・早川の3名から成る任意団体です。3名の得意な部分を集結し、何か良いことをしたいと思い、チームを結成しました。それぞれのバックグランドとして、私は本業の貿易事業でフィリピンに関わったことがあり、現地とのつながりを持っていました。一方、藤口は産業廃棄物処理業、小林は当時、解体工事業を営んでいました。(現在は不用品回収リユース業)
リユース業を始めるそもそものきっかけは、小林が解体の現場に出ていた時に、まだ使用できる物が現場にたくさんあり、それを再利用できないのかと思っていたことです。これが途上国で売れるのであれば、自分たちの収入になり、現地で求められている物を届けることができ、途上国への貢献にもなるのではないか。さらにリユース品として再利用すれば、焼却処分の必要もなくなり、CO2削減にもつながると考えました。
その後、私が貿易の仕事をしている中で、フィリピンにリユース市場があるという話をキャッチしました。市場があるなら一度やってみようと思い、半年〜1年ほど現地で市場調査と準備を重ね、活動名をN.R.I.と名づけ、フィリピンに輸出する活動を始めました。
しかし、いざリユース販売を始めてみると利益が出にくかったんです。それでも3年ほど前から継続して活動をしています。利益が出ない中でもなぜ続けているのかというと、やはり社会的意義を感じている部分が大きいからです。
mySDG編集部:どういった部分に一番意義を感じているのですか?
藤口さん:毎月、約10トンの荷物を1〜2回、フィリピンに送っているのですが、10トンの品物を焼却処分すると排出するCO2はかなりの量になると思います。また、食器や陶器も廃棄すると不燃ゴミとなり、埋め立て地へ埋めることになります。限りある埋立地を大切に使用し、持続可能な社会を実現するためにも、非常に意義のある仕事だと思っています。
私たちの活動は、法人ではなく個人で行っている活動なので収益は多くないですが続けています。社会的意義が活動を続ける意味になっていますね。
mySDG編集部:社会貢献と環境保全につながっている活動ですね。
藤口さん:活動を続けていると、メディアからのお話もあります。私たちの活動拠点は新潟なので、地元紙の新潟日報さんにも取り上げていただきました。取材をきっかけに新たなつながりが生まれることもあるので私たちにとって有益なことです。
mySDG編集部:ちなみに東南アジアの途上国ですと、ベトナムやミャンマーへもリユース品の輸出がされていると思います。なぜフィリピンになったのでしょう?
早川さん:私たちが扱う中古の日用品は、市場が限られています。東南アジアだと、フィリピンとタイ。ほかの国はとても限定的なリユース市場で、ミャンマーで扱えるのは中古家電と食器。ベトナムでは工具や機械関係、車の部品などで、中古日用品の輸入は禁止です。
タイは途上国の中でも発展している国なので、要求するリユース品のクオリティも高いです。東南アジアの中でトップクラスで製造業が発達している国ですから、日本で寄付によって集まる型落ちや、使用感のあるリユース品だとタイでは売れません。日本でリユースショップを経営しており、良質な品物の仕入れルートがある業者さんが、単価が高めで良質な品物を売るリユースに向いている国です。
私たちのリユース品の収集経路は、一般のご家庭や解体現場にあった品物、産業廃棄物処理業者さんからの提供品などになりますので、どうしても使用感が出てしまい、タイの要求するクオリティに対応するのは難しいですね。
こうした市場調査をした上で、思考錯誤しながら輸出国をフィリピンに決めました。
■現地のニーズを把握し無駄な輸送をしないことがCO2削減につながる。直近の課題は月2回の安定輸出。
mySDG編集部:具体的にどういった品物を輸出しているのでしょうか。ホームページにも回収できるものがいろいろと掲載されていましたね。
早川さん:スポーツ用品や工具、おもちゃや食器、文房具、調理器具など、家の中にあるものは全部送れますよ。唯一捨てるものは、服・布団・賞味期限のある食べ物くらいです。
種類的には多くが輸出可能ですが、私たちはニーズに合わない品物は送りません。現地できちんと売れるものを輸出することは、輸送のルールとしても必要なことですし、現地で売れずに焼却処分になってしまうと、結局CO2の排出につながります。輸送するのにもCO2排出はしているので、品物の品質を担保してニーズに合った品物を輸出することがとても大事です。
mySDG編集部:フィリピンの方に特に喜ばれる品物はどんなものなのでしょうか?
早川さん:小物は喜ばれていますね。アクセサリーや食器、文房具など、小さいものから先に売れていきます。単純に単価が安いという理由もあります。タンスやソファーなど家具類は単価が高いこともあり、売れるには時間がかかります。
mySDG編集部:例えば、ノートだと、どのくらいの価格で売れますか?
早川さん:ノートは100円くらいです。30ペソ〜50ペソくらい。5冊セットで300ペソくらいです。
mySDG編集部:日本と同じくらいの価格ですね。
早川さん:現地で新品の日本製と同じくらいの質の文房具を買おうとすると、もっと高いんです。安い製品もありますが、書いたら破れてしまうのではないかと思うほど薄い紙のノートや、壊れてしまいそうなボールペンです。フィリピンはものづくりをする企業がないので日用品なども輸入に頼るしかない。価格が安いものですと粗悪品を輸入してしまう現状があります。そんな状態ですので、質が良くて安い日本のリユース品のニーズが高いんです。
以前に、入国手続きの際、入国書類の紙の薄さや壊れかけたボールペンを見て、フィリピンの現状を感じました。あらゆるものが足りていないですね。
mySDG編集部:しかし、皆さんとても明るい表情ですよね。
早川さん:それがフィリピンのいいところだと皆言います。フレンドリーで陽気ですね。沖縄のような南国の感覚なんです。おおらかですね。
mySDG編集部:物資不足のフィリピンに日用品を送る活動の中で、困難に感じることはありますか?
藤口さん:輸出する時は、コンテナ1台分の品物を集めないと輸出できません。40フィートのコンテナ1台分は70立米と、とても大きいです。それだけの良質なリユース品を集めるのは中々難しいです。
新品ですと量が欲しければ材料を集めて作ればいいと思いますが、中古品ですと誰かが手放したものを集めるしかない。その収集ルートをどう開拓し確保するのかが重要で、難しいところですね。現在は月に1〜2回輸出をしていますが、今後は安定的に月2回の輸出をしたいと思っています。それが直近の課題ですね。
mySDG編集部:企業様などから直接回収することもあるのですか?
藤口さん:あります。先日は近所にある米の卸業者さんが、会議室をリニューアルするということで、会議室の備品やオフィステーブル、チェアなどを寄付していただき、輸出しました。国内のリサイクル業者さんが買い取るのは、新品に近いものがほとんどですが、フィリピン市場で求めるクオリティはそこまでではなく、企業様でしっかり使用したものでも問題ありません。
mySDG編集部:リユースしていただいて、とてもありがたいですね。まだ使えて、不要になってしまったものがあれば、まずN.R.I.にお問い合わせいただきたいですね。
藤口さん:活動に賛同いただいて、ぜひご寄付いただきたいです。
■キッチンカーを導入し、フィリピンの「田舎」への炊き出し支援に取り組む。
mySDG編集部:キッチンカーでの炊き出しを始めるきっかけは何だったのでしょうか?
早川さん:藤口さんのアイデアでした。フィリピンでは、食に困っている人も多くいるので、得た収益を投資して炊き出しをしようという話になりました。
現地では、中古車市場も盛んで、中古の軽トラックやミニバンなどがとても多く流通しています。車を調達するのも、キッチンカーに改造するのも金額的にさほどかかりません。
私の個人的な知り合いで、弁護士をしつつ、JCI 国際青年会議所 マンダウエ(以下、JCI)に所属している人がいるのですが、キッチンカーでの炊き出しの話をすると、「とてもいいことだ」と言っていただけて。BPI 弁護士会(以下、BPI)とJCI が協働し、継続的なプロジェクトとして立ち上げることになりました。
mySDG編集部:キッチンカーは現地で購入したのですか?
藤口さん:私たちが改造してつくったのですが、実は元の軽トラックは、弁護士の彼の私物なんです。彼は車両を提供してくれて、私たちは改造費20万円ほどを出しました。日本だと120万円くらいかかりますので、フィリピンだと安くできますね。
JCIとBPIも色々な所に協賛を募っていただき、アメリカの知人などから中古書籍の絵本をゆずり受け、炊き出しの時にお子さんに配りました。
mySDG編集部:炊き出しをするスケジュールや場所は決まっているのですか? また、どんなお料理を提供するのですか?
藤口さん:炊き出しは、JCIとBPIとN.R.I.で合同で行っているイベントで行います。2〜3ヶ月ごとに1回の頻度です。
提供するのは、フィリピン人が皆大好きな「フィリピンスパゲッティ」という料理です。バナナケチャップのミートソースをかけた麺料理で、練乳や砂糖を入れてすごく甘くしたものです。日本人には馴染みのない、独特な味の国民食ですね。それから、グリルソーセージとアイスやジュースです。手軽に鍋ひとつで作れるものを中心に出しています。
mySDG編集部:日本だと、老若男女が好む、カレーの感覚の食べ物ですか?
藤口さん:そんな感じです! みんな大好きな国民食です!
私たちの炊き出し支援コンセプトは、「支援が必要な田舎の人へ食事を届ける」ことです。
フィリピンで炊き出し活動をしている人は、ほかにもいるのですが、キッチンカーを持っていない支援者は、利便性の良い都会のスラム街の炊き出しは可能ですが、田舎での炊き出しは難しいんです。
田舎の貧困は、都会のスラム街とは比べものにならないほど深刻で、物資もないし、子どもたちの髪は伸び放題、食事も1日3食、食べていないでしょう。
そこで、キッチンカーを持つ私たちだからできる支援ということで、食事を必要としている田舎の人たちへの炊き出しをしています。
mySDG編集部:キッチンカーを持つ強みですね。すばらしいです。
■新潟県 燕三条を「ものづくり&ものを大事にする」街に。地元にも広まってほしいリユース文化。
mySDG編集部:フィリピンへの日用品の輸出活動と、キッチンカーでの炊き出しは、SDGs目標の「1.貧困をなくそう」 と「2.飢餓をゼロに」に強く関わる取り組みですが、こうした活動の中で、広まってほしいSDGs活動はありますか?
藤口さん:新潟では、もっとリユースが当たり前になってほしいですね。N.R.I.の活動場所であり、私の地元である燕市・三条市は、ものづくりの街で有名です。N.R.I.の営業活動をおこなう上で、私が最も大切にしている思いというか、信念は「ものづくりの街・燕三条を、ものを大事にする街・燕三条にしたい」ということです。
日本にはフィリピンにリユース品を輸出している企業は沢山あるのですが、新潟には私たちしかいません。なぜかというと、新潟から輸出するとコストが高くなるからです。私たちは横浜港から輸出しているのですが、空のコンテナを横浜から陸送し、荷物を詰めて横浜に戻します。「横浜ー新潟」間を陸送で往復するので、横浜から近い埼玉などのほうが陸送費が安く済み、倍くらいの差があります。
mySDG編集部:経費はかかりますが、この先も新潟から続けていくのですか?
藤口さん:そうですね。私たちは新潟の業者ですし、人脈もあります。新潟にはリユースの文化があまり根付いていないので、ものを大事にする文化になるために貢献していきたいですからね。
mySDG編集部:今後の展望をお願いします。
藤口さん:活動が周知されて、皆さんに知っていただけるようになったら、新潟で「リユース・フェスティバル」を開催したいです。キッチンカーでフィリピン料理を提供したり、バザーを主催したり、皆でリユースについて楽しく考える勉強会の機会を作りたいと思います。その中で、地域の皆さんから寄付いただいたリユース品が、フィリピンでどのように利用されているのかを発表する活動報告会も考えています。地域の小学生にも直接、リユースに関する知識を伝えていきたいです。
mySDG編集部:リユースとフィリピンを学べるフェスの開催実現が楽しみですね!本日は貴重なお話をありがとうございました。
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