『ペイ・フォワード』 ~あなたから世界へ「優しさは無限大」。もらうことと渡すことの意味~
01.はじめに
~主な登場人物~
~「ペイ・フォワード」の系図~
~《誰かに伝えたい名セリフ》~
~《あなたに観せたい美しいキャメラシーン》~
今回の作品の『ペイ・フォワード』とは「先に贈る」という意味です。
いったい何を贈るのでしょうか。
それは「善意」です。「親切」ですね。
1人が3人に親切にする。恩を受けた人はまた他の3人に親切にする。
この作品は「ボランティアの心」の物語であり、他の人に希望を与えていく物語です。
たくさんの人に利益を与えると言う意味では、社会全体のため、一方では自分の利益に還ってくるという自己の利益のためでもあります。
損得勘定ですが、起こった結果としては自他ともにお得なのですね。
世界を幸せにする魔法の法則。
小さな少年が思いついた、世界とつながるお話です。
それでは作品に入って行きましょう。
02.高級車をタダで!?
カリフォルニアの記者クリスは警察無線を捕らえ、立てこもり現場に突撃取材します。
銃を持って外に待機する警官たち。
犯人が突然、車で突進してきて停めてあったクリスの車に正面衝突。
クリスの車は大破します。
犯人は逃走し、警官もパトカーで追従します。
現場に取り残されたクリスは見るも無惨な自分の愛車の傍らで茫然とします。
彼はクリスにキーを軽快に放り投げて渡します。
クリスはポケットから名刺を取り出し、男に恐る恐る渡しました。
通りがかりの男はにこやかに平然と笑います。
03.トレバー・マッキニー少年
シーンはその4ヶ月前の話に移ります。
神経質そうな少年が周りの学生たちを見ながら歩いています。
この12歳の少年はしっかり世界を観察していました。
そんな主人公の紹介シーンなんです。
映画の始まりのシーンというのはたくさんのことが詰まっています。
登場人物のキャラクター、作品の主題、ムード、テンポ、時には結末まで教えてくれます。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の冒頭シーンを覚えていますでしょうか?
チクタクチクタクの音を響かせた時計だらけの部屋から始まって、あのピタゴラスイッチの仕掛けで犬の缶詰を開けるシーン。
科学についての映画、時間についての映画、原因と結果の物語ということが一目で分かります。
主人公の11歳の少年、トレバーはラスベガスという夢と欲望の街に住んでいます。
しかしラスベガスという都市には影があり、華やかな電飾のある明るい場所を少し離れるとホームレス、車上生活、強盗、薬物依存、アルコール依存の巣窟で悪夢のような街でもあります。
トレバーの母のアーリーンはアルコール依存で仕事を2つ掛け持ち、父親は酒を飲むとDVを繰り返す男です。
アーリーンはお酒を断つためアルコール依存の自助の会に参加し、努力していました。
しかしお酒をやめることができず、洗濯機の中、棚の上、照明器具の上にお酒を隠していました。
トレバーは母がお酒を飲んでいるのをちゃんと知っており、そのことが原因で度々喧嘩します。
04.新しい先生と新しい世界
新学期が始まる学校のようです。
教室の中はガヤガヤと騒がしいです。
教師が掲示物を見るうしろ姿から振り返り、その顔を見た生徒たちは一瞬で沈黙します。
顔中がやけど痕の先生でした。
そこに遅刻してきた生徒が入ってきます。
生徒たちは一声に笑いました。
この前まで小学生だった考え込む生徒たち。
シモネットは世界と関わるとはどういう事かを生徒たちに問います。
生徒たちは自由という言葉に反応して大喜びします。
一方トレバーは決して自由を信じていません。
周囲の大人を観察して決して自由ではないと考えるからだと思います。
シモネットは頭を指さしました。
ある人は世界を変えるのは難しいから、自分を変えようと言います。
いい考えですが、そこには既に世界は変えられないという妥協があります。
まずは諦めずに世界を変えるという発想に立とうということだと思います。
すると、世界を変えようとするには自分も変わる ことだと気づきます。
それは「世界に関わる、コミットする」ということです。
インターネットが普及し、テレビや新聞という限られた特定の媒体が姿を消そうとしています。
自分からの発信で考えを表明できる通りが世界人口の70億通りあるということです。
今の時代は拡散の世界。
可能の王国を建設できる下地は整っています。
05.母アーリーン
少年トレバーが見る世界。
セピア色のフィルムを貼り付けたような周りの景色。
乾いた土地。
トレーラーの廃車。
働かずたむろする若者。
集団のホームレスがドラム缶の焚き火で暖を取っています。
その中でジェリーというホームレスが菓子パンをむさぼり食べていました。
トレバーとジェリーは目を合わせました。
トレバーは彼の貧困の原因に考えを向けました。
母アーリーンはバーで働いています。
青のかつら、下着姿で客に酒を配ります。
客から酒を勧められたり、デートに誘われたりしますが、いつも上手くかわしているようです。
客との軽い会話を交わしチップを受け取ります。
家で独り留守番のトレバーに母から電話が届きます。
トレバーが食卓に座ると、隣でジェリーがシリアルコーンを食べていました。
ジェリーはトレバーのお皿にシリアルコーンを入れてミルクをかけて、スプーンを取ってあげます。
何とも不思議で滑稽なシーンです。
息子をいつも気にかけていて、母の愛情が分かるいいシーンですね。
06.アルコール依存
深夜遅く帰宅したアーリーンはトレバーが寝ているのを確認します。
そっとガレージに行き、床に座って一瞬考えます。
そして洗濯機に隠してあった酒瓶を味わうことなく一気に流し込みました。
アルコール依存というのは本当に恐ろしい病です。
仕事のストレス、疲れ、夫との不和、貧困、未来への不安、過去への後悔。
これらから簡単に逃れる方法は何でしょうか?
一時的でも忘れたい。
自動的に頭に浮かんできてしまう過去、現実、未来への不安。
身も心も持ちません。
アルコールやストリートドラッグはそういった悲惨な生活から逃してくれる甘い罠です。
「回避行動」です。
ガレージには窓ガラスが割れ、ボンネットが開かれたままの壊れた車がありました。
その車の荷台でジェリーは不安そうに眠っていました。
アーリーンはベッドに酒瓶を置いたまま寝ていました。
母の帰りに気づいたトレバーは酒瓶の中身を流しに捨てます。
朝になり、親子の会話です。
トレバーは魚肉ソーセージを食べています。
ウソを言われたトレバーはその場を離れようとしました。
そこに見知らぬ男ジェリーがアーリーンの前に現れました。
07.母、抗議に行く
アーリーンは早速、苦情を言いにシモネットに会いに行きます。
学校の風景なのですが、至る所に掲示物や生徒の作品、アメリカ全土の地図などがたくさん貼られています。
こういう細かい雰囲気づくりが映画に人の温かみやつながりを感じさせてくれます。
アーリーンはシモネットのやけどに驚いた後、今朝の出来事を伝えました。
これは夫や母親との関係から出た思いなのでしょうか。
08.クリス、”次へ渡せ”を追う
シーンはまた冒頭のクリスと見知らぬ男との会話になります。
場所は大きな法律事務所または法廷のようです。
その男は一流の弁護士でした。
09.一流弁護士への”ロウソクの火”
シーンは病院の待合室になります。
看護師は弁護士を無視して隣の負傷した男に言いました。
負傷した男は喘息の娘をじっと観察していました。
男は立ち上がり、看護師に言います。
看護師はその場を立ち去ろうとしました。
負傷した男は拳銃を取り出して床に2発放ちました。
男は警察に連行され、代わりに喘息の娘は助けられました。
シーンはクリスとの会話に戻ります。
10.ジェリーの「変化」
シーンはアーリーンの家になります。
アーリーンはガレージに人の気配がして、銃を持って行きます。
またジェリーがいました。
ジェリーは壊れた車を修理していました。
ジェリーは「ペイ・フォワード」するため、アーリーンのもとにやって来ました。
ジェリーは車の修理工として雇われて職を得ていました。
アーリーンは男を観察して、その男のことを理解しようとします。
ジェリーの腕には注射針の痕が複数ありました。
トレバーの人を観察する力と悩んでいる人への共感する力。
これが素晴らしいのだと思います。
その人自身になって考える力、その環境での生活を想像する力がすごいのだと思います。
ジョン・レノンの「イマジン」です。
11.「ペイ・フォワード」はユートピア(架空の理想世界)?
トレバーが授業の発表で「ペイ・フォワード」を皆に説明します。
同時に家でジェリーがアーリーンに「ペイ・フォワード」を説明しています。
トレバーの提案に対し教室では色々な意見が出ていました。
アーリーンとジェリーの会話とシンクロしています。
コーヒーの誘いがいいんですね。
海外では人と仲良くなるのにコーヒーのお誘いのシーンが多いですね。
『ベルリン・天使の詩』の中でも天使と元天使が街のカフェで語り合います。
コーヒーを飲む以上のものを受け取るんです。
自分の価値・存在を認めてもらえる喜び。
トレバーの発表ののち、他の生徒も目を輝かせながら、世界を変える独自の方法を語ります。
希望に満ちたキレイな眼の子どもたちです。
下校の風景になります。
スクールバスの乗り場にたくさんの生徒が集まっていました。
トレバーはシモネットに近づき、話しかけます。
少しの間、二人に沈黙が走りました。
シモネットは向こう側にいたトレバーの友人たちがこちらを見ているのに目が合います。
ここでシモネットはトレバーが顔のやけどの事を調査する役目で話しかけてきたのだと勘ぐってしまいます。
シモネットは車に乗り込み去っていこうとします。
トレバーはうなだれて歩いて行きますが、友人たちの輪を通り過ぎて行きます。
その様子を見たシモネットは ’しまった’ と思います。
シモネットは顔についての劣等感から思い込みをしていました。
「自動思考」ですね。
彼にも弱さがありました。
このシーンは人をよく見るということが隠されているのではないかと思います。
偏見や先入観なく相手を観察する力。
「ホーム・アローン」でも主人公の少年が鳩としか交流しないおばあさんと仲良くなる所がありますね。
きっと子供の方が人を素直に見ることへの障害が少ないのだと思います。
私たちは世界、相手を見る時、色メガネで見てしまいます。
「どうせ~にちがいない」
「~であるべきだ」
「彼もまた他と同じで~だ」
など。
相手をきちんと見るということは自分のことをしっかり理解しているということ。
自分の考えが現実と合っているのかの確認をいつもしていることだと思います。
12.失敗
家庭環境もあり、世界に対して希望を持てないトレバー少年。
シモネットとのふれあいに失敗しました。
水のない枯れ葉だらけのプールが映し出されます。
トレバーの満たされない空虚な心のようです。
トレバーはジェリーの様子を見に彼の家にやってきました。
その時、ジェリーはドラッグの誘惑に負けていました。
ジェリーは出てきてくれませんでした。
トレバーは考案した課題の難しさを知りました。
ノートに書いた3人のイラストの一人ジェリーにバツをしました。
13.ウソと本音
二人目に ’シモネット先生’ と書き込みます。
母アーリーンとシモネットを付き合わせる作戦です。
手紙を書いて母と先生を親密にさせようとしました。
アーリーンたちはロウソクに火をつけてテーブルの準備をしたトレバーの考えを見破ります。
そのままアーリーンとシモネットは夕食をともにします。
トレバーの事、二人お互いの事を少しだけ知ることができました。
突然友人のボニーが来てしまい夕食は終わってしまいます。
アーリーンはダメな夫でも、自らの寂しさと天秤をかけています。
愛情不足のトレバーが分かります。
アーリーンはトレバーにキスをしようとしますが、トレバーは身をかわし拒絶しました。
トレバーは本音のない包容を見抜いているんですね。
怒りが込み上げたアーリーンはトレバーを思いっきりぶってしまいました。
その直後、我に返り後悔します。
アーリーンはショックで涙を堪らえきれず、一心不乱に酒を求め、家中を探し回ります。
このシーンでアルコール依存症をリアルなまでに表現しています。
まるで強盗のように家の備品を退けながら酒をさがす姿。
そんな母の姿や物音を聞きたくないトレバーは、そっと自室のドアを閉めて耳を塞ぎます。
トレバーの心を襲う「クソな世界」。
過去からの母と父のケンカの罵声、破壊音、すすり泣き。
酒を見つけ飲み干すアーリーンですが、思いとどまって吐き出しました。
その間にトレバーは家出をしました。
車のないアーリーンはシモネットに助けを求めました。
長距離バスターミナルでアーリーンとシモネットはトレバーを保護しました。
本音を聞いたトレバーは母と抱き合いました。
傍らでシモネットは見守っていました。
修羅場をむかえるというのは本当に大事な事です。
我慢し、表情を隠し、日常を過ごす。
孤独になり、哀しみが堪えきれず、いつかは溢れ出してしまいます。
弱さを受け入れ、本当の姿を相手に見せ、助けを求める。
それを目の当たりにしたシモネットは家の外で感慨深げに考えていました。
14.シドニーへのロウソクの火
クリスは一流弁護士に「ペイ・フォワード」したシドニーに刑務所で面会します。
シドニーは自分が思いついたとウソを言います。
虚言癖の男です。
シドニーは不良で素行が悪い男です。
彼に「ペイ・フォワード」をさせたのは何でしょうか?
それは社会との「役割」ではないかと思います。
社会との「つながり」と言ってもいいかもしれません。
シドニーの心の中の無価値感、社会からの疎外感から、抜け出したいという切なる気持ちからだったのではないでしょうか。
パーティーに参加するには人脈が必要で、コンサートに入場するにはチケットが求められます。
ですが本当は「役割」という行為だけで社会と「つながる」ことができます。
クリスはコネを使って、シドニーを釈放させてやります。
シドニーにエピソードを聞き出すためですね。
シドニーはラジカセを強奪してパトカーに追われている所をある老女に助けられたと言いました。
酒屋から酒を買って車に乗り込む老女。
逃走中のシドニーに遭遇します。
シドニーは老女の車に乗り込みパトカーの追っ手から逃れました。
この時舞台がロスからラスベガスに移るんですね。
ねぐらに辿り着き、早速酒を飲み干す老女でした。
シドニーはどうしようもない婆さんだなという顔をしていました。
シドニーはタバコを一服しはじめました。
15.ベガスの夜のデート
シモネットとアーリーンは何とかデートの約束をします。
アーリーンが残業で遅れてしまって、急いで支度するシーン。
トレバーの異様な陽気なところがとてもかわいいです。
トレバーは脇に芳香スプレーを手際よく吹きかけました。
トレバーはハイヒールを差し出します。
家の前ではすでにトレバーがタクシーを呼んで待っていました。
トレバーの早口で小気味のいいテンポの楽しいシーンですよ。
シモネットとアーリーンはデートを重ねます。
アーリーンを演じる女優さん、相手の話を引き出す表情を出すのがとても上手なんですね。
相手を理解しているという表情、じれったいという表情、言いたいのを我慢しているという表情。
人との会話ってこういうのが理想なんだなと思う演技力です。
ヘレン・ハント、いい女優さんです。
二人はキスしますが、シモネットは過去の複雑な思いからかその場を立ち去ってしまいます。
ラスベガスの郊外の丘の上のアーリーン親子の家。
そこから見渡せる夜景がキャンドルのように優しく揺らめいていました。
16.境界線を越えて
アーリーンはシモネットの本音を知りたくて、彼の家に押しかけます。
そういってアーリーンはシモネットにキスをしました。
シモネットは傷つくのが怖くて自分にバリアを張ります。
外からも入れませんが、内からも出れません。
アーリーンがバリアに触れた瞬間、シモネットはいっそう必死に身を守ろうとします。
アメリカ人はこういう修羅場を必ずつくりますね。
修羅場を乗り越えることが最善の解決だという考えが浸透しているからです。
相手への干渉ではないんですね。
自分の気持を大事にしています。
まず投げかけて見るんです。
日本人はここで我慢してしまいますね。
気持ちを抑圧して日常に戻ってしまいます。
解決を先送りしているんですね。
子供のため、世間体のため、暮らしのため。関係を壊さないため。
そしてフタをしてしまいます。
そのツケは自身の体に、心に、子供の感情にいづれやって来ます。
17.変わる勇気
トレバーの友人のアダムが上級生にいじめられていました。
トレバーは止めに入りますが、恐怖心が出て動けませんでした。
トレバーはノートの2人目シモネット、3人目アダムにバツを記しました。
意気消沈するトレバーにシモネットが励まします。
シモネットはトレバーの悩みを察します。
自分とシモネットを「勇気」で結びつけます。
トレバーは小さく首を振りました。
シモネットは「変わる」ことの意味を考え込みました。
それには「覚悟」「想い」が必要なのだとわかります。
18.土曜の夜と日曜の朝
アーリーンは冷蔵庫の中を掃除して生活習慣を変えようと努力しています。
シモネットは勇気を抱えてアーリーンを訪ねました。
アーリーンは少し驚いた表情を見せましたが、笑顔でシモネットを迎え入れます。
そして一夜を共にしました。
朝、トイレでシモネットとトレバーは鉢合わせをしてしまいます。
シモネットはパンツ姿で慌ててアーリーンの部屋に逃げかえりました。
アーリーンの落ち着きと頼もしさは何なんでしょう。
ドアの外からトレバーは言います。
シモネットは慌てて家に帰ろうとします。
トレバー君はしつこく追いかけます。
アーリーンは満足げに余裕の表情でうなずきます。
興奮したトレバーの口をアーリーンは塞ぎます。
トレバーのしつこくまとわりつくところがとてもかわいいです。
19.架け橋
ジェリーが大きな陸橋を歩いていると、身なりのいい女性が橋の上から飛び降りようとしていました。
女性は涙ながらに言いました。
女性はバッグをジェリーに放り出し、別の場所から飛び降りようとします。
女性は橋の欄干に登り飛び降りようとしました。
ジェリーはアーリーンにコーヒーを誘われたのを思い出したようです。
とても嬉しかったんですね。
ジェリーは精一杯のおどけた顔でジャンプしながら女性に言います。
すると女性はそんなジェリーの笑顔を見て、泣きながらですが笑いが込み上げて来ました。
人は泣きながら笑えるんですね。
悲しみながら笑えるんです。
悲しみから微笑みに変わる、人の一番美しい瞬間だと思います。
笑いが人に注がれる時、悲しみが去り、また悲しみそのものを受け入れ始めます。
種子から葉が出てくる映像のように、羽化する瞬間のさなぎのように、神秘的な一瞬の変化です。
女性が欄干から下りるのを手助けするのに差し出したジェリーの手。
彼の親指の爪には車のオイルがこびりついていました。
汚い手ですが、女性にとっては清らかな聖なる手でした。
20.悪夢がふたたび
アーリーン、シモネット、トレバーはテレビでプロレス中継を見ていました。
プロレスが好きなトレバーは大はしゃぎでレスラーのパフォーマンスを演じます。
安全基地があると人はその居心地の充実感から様々な活動を繰り広げていきます。
小さな喜びの表現から大きな創作活動まで。
”エジプトはナイルの賜物”
幸せ、絶頂のトレバーのシーンでした。
そこに突如アーリーンの夫、トレバーの父親がやってきました。
ジョン・ボン・ジョヴィが演じる夫です。
幸せの時間が崩れ去ります。
退散するシモネットをトレバーは窓からじっと見つめていました。
トレバーはとても不安げな表情をしていました。
トレバーは自室にこもり、憂鬱としするようになります。
シモネットは日課のアイロンかけに没頭して気持ちを落ち着かせていました。
アーリーンはシモネットに会いにきました。
夫を迎え入れたことを説明します。
シモネットは何かを思い出し、込み上げた怒りが放たれます。
シモネットは買い物袋を放り出して涙を浮かべて、何かを思い出していました。
僕はあえて「依存」という言葉は使いません。
この言葉を使うとあなたが勇気を出して人に愛をもらう行動ができなくなるからです。
アーリーンやシモネットの母親には夫しか頼る者がいなかった。
現実を冷静に考える心が疲弊しており、心の中は不安感でいっぱいでした。
周囲には”藁(わら)”しかすがるものが無かった。
この父親は5歳の幼児なんですね。
体だけ大人に成長してしまった。
愛する能力のない人間です。
妻を母代わりとして甘え尽くしていました。
駄々をこねる方法が泣くことから暴力へと変わっただけ。
別れを切り出されると泣いて懇願する幼児。
妻も彼なしには生きていけない無価値感を宿した人間。
二人とも、幼児性と自己犠牲で縛られた離れられない関係です。
アーリーンは同情した表情でシモネットに言われるまま尋ねました。
妻を奪われると思ったのでしょう。
法を破り、阻止しにきました。
家に居座るようになったアーリーンの夫は仕事を探さず、また酒を飲み始めました。
懐かない息子に罵声を浴びせます。
アーリーンと夫の口論にトレバーは自室に閉じこもりきりでした。
トレバーの部屋に逃げ込んだアーリーン。
おびえたトレバーの表情を見て悟りました。
その頃、クリスはカリフォルニアから終にはラスベガスにまで辿り着きます。
21.選択ミス
放課後トレバーは一人教室に残り、シモネットと話します。
トレバーは理解していました。
それが本当に’可能’かどうか。
手を伸ばせば届くのか。
当人が欲しているものなのかどうか。
トレバーは涙ながらに説得します。
ジェリーも女性を救うために言いました。
「おれを救うために」と。
それは渡す者が条件を達成させるためだけではありません。
渡す者が「ペイ・バック」してもらうためにです。
「ペイ・フォワード」とは「ペイ・バック」されることによって2度受け取ることができる「優しさ」なのです。
3人なので4回受け取ることができる幸せの法則です。
トレバーはシモネットに失望し、教室をあとにしました。
22.母と娘
ラスベガスに着いたクリスはシドニーに渡した老女を探し当てます。
クリスはウイスキーの瓶を老女に渡しました。
クリスは懐に隠してあるもう1本を見せました。
老女は震えた手を伸ばします。
どうしてこのような言い方をするのでしょうか?
いつも自分は待っている。誰かが来てくれるのを。
暖を取りながら、誰かが渡してくれるのを。
希望を持ちながら、待っている。
そして過去のシーンに遡ります。
路上で焚き火をして暖をとる老女。
老女に会いに来たのは何とアーリーンでした。
老女はアーリーンの母だったのです。
グレイスという女性です。
グレイスは驚いた表情で言いました。
アーリーンはすべてを受け入れるように言います。
一時も目を外さずに話す娘を、その母は黙って受け入れました。
どちらも「勇気」が要ることだったでしょう。
グレイスは話す内容を変えました。
何気ない会話の中に「こんな私でも受け入れてくれる?」
「私も昔と変わらないわよ」と2人の会話が聞こえてきそうです。
シーンはクリスとの会話に戻りました。
23.誕生日プレゼント
シーンが変わり、トレバーの誕生日パーティーが開催されています。
このような続きの歌詞があるのは知らなかったですね。
おばあちゃんのグレイスが綺麗な服を着て、そっと参加しています。
考えてみると、誕生日会というのは巨大な「善意」そのものですよね。
訪問者がドアをノックする音が聞こえてきました。
シモネットではないかと思い、トレバーは玄関のドアを開けました。
それはやっと発案者の元にたどり着いたクリスでした。
トレバーは残念そうな顔をします。
トレバーはアーリーンと交代しました。
そこには泡の出るスプレー缶で無邪気に遊ぶ12歳の少年がふざけていました。
24.決意
トレバーは学校の教室でインタビューを受けることになります。
シモネットも教室に現れ、アーリーンと顔を合わせます。
トレバーは笑顔で答えます。
じっと聞いていたシモネットは目を閉じます。
シモネットはメガネを外しうつむきました。
インタビューののち、息子の言葉を考えながらアーリーンは外の景色を眺めていました。
シモネットが決意の表情でやって来ます。
トレバーのインタビューにシモネットが勇気をもらった瞬間でした。
捨て身でアーリーンに助けを求めました。
そんな人間を誰が拒否できるでしょうか?
25.ともしび
友人のアダムがまたいじめられていました。
トレバーは今度こそ「勇気」を振り絞って自転車で体当たりしました。
一人がナイフを取り出し、トレバーは刺されてしまいました。
トレバーのインタビューが全米に流されました。
アーリーンはトレバーの死を悲しみ、気力をなくし、薄暗い部屋でろうそくを灯し、やがて眠りにつきます。
シモネットは窓の外を眺めました。
シモネットは眠るアーリーンをそっと起こして、外の様子を見ました。
そこにはたくさんの人々が続々と明かりの灯ったろうそくを持って献花に訪れてきていました。
キャメラは上空に引いていきます。
無数のろうそく、その後ろには丘の上にやってくる弔問の車のランプの光りが、ラスベガスの夜景まで連なっていました。
26.世界を救うためにできること
今一度、「ペイ・フォワード」のしくみを考えてみましょう。
まとめてみます。
3の21乗=3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3
10,460,353,203
地球の人口は70億人なので21番目で達成できるという計算です。
でもそこには障害があります。
次は「ペイ・フォワード」をする目的や意義についてです。
ではその難易度を見てみましょう。
この時、人を幸せにするには?
大きく分けて3つだと思います。
この作品は「世界と関わること」と「勇気」がテーマだと思います。
自分の「能力」と「勇気」をどれだけ人のために使うことができるか?...です。
「返報性の法則」というものがあります。
友人や近所の人に何かをしてもらった時や物をいただいた時に何か違う形でお返しをしなければいけないという心情です。
本心からお返しをしてあげたいと思う人、
相手が見返りを求めているだろうと想像する人、
慣習だから仕方がないと思う人、
恩の返し方は様々で、心に善意がない場合もあります。
それでも、誰もが世界をよくしたい。
皆さんそう思われています。
一人ひとりが心の底で願っています。
災害、貧困者、戦争被害者、難治性の病人への募金。
献血。
街の清掃。
世界には「優しい」方々がたくさんおられます。
しかし、達成の難しさを私たちは知っています。
不足する物資、資金、技術、心理的ケア、セーフティーネット。
では、難しくしているのは何なのでしょうか?
自分自身がまず一番に救われたいという切迫した状況があります。
健康な人であれ、お金持ちであれ、著名人であれ、誰もが心に不幸を宿しています。
「不安常住」
救いたいという前に救われたいという欲望との葛藤がいつも繰り広げられています。
そしてもう一つ、救いたいけれど傷つきたくないという葛藤があります。
チャンスは一瞬なんです。
救われた瞬間に誰かを救うことです。
感謝の心があるうちに...。
多幸感があるうちに...。
心のろうそくの火が燃え盛っているうちに...。
自分が満たされているからこそ「おすそ分け」できるんです。
「ペイフォワード」が優れているのは、心が冷めないうちに「先へ贈る」というタイミングでもあります。
贈る者は「勇気」が必要です。
ジェリーはトレバーのお小遣いで服を買い、食事をし、生きる意欲を一時的に取り戻します。
ですが薬物依存という強敵が立ちはだかります。
それに打ち勝たないと誰かに「ペイ・フォワード」できないのです。
貰ったものは「きっかけ」なのだと思います。
希望の「種火」です。
心の救いを贈られたと同時に、「勇気」を捧げることを強いられる聖なる条件です。
車のバッテリーが消耗し、他の車に電気を流してもらう。
ですが、エンジンをかけるのは自分です。
ギアをあげるのも自分です。
他力からやがて自力へ。
最初からこの「勇気」を自分を救う力として使用すれば、他人に救いを贈られる必要はないと思われるかもしれません。
ですが、打ちひしがれた人の「勇気」のロウソクは風前のともし火です。
消えかかっているのです。
人は億人億色です。
人によって境遇が違います。
貧困、病気、事故、家庭環境、別離。
必要としているものが異なります。
不足している能力や知識、技術、考え方。
求めるものが違います。
だから多様な何本もの「ろうそく」の火が必要なのです。
「ろうそく」の火を他人に分けることで、自分の火が弱まるでしょうか?
消えてなくなるでしょうか?
心の火はそのような性質のものではありません。
もし消えてしまうとすれば、それは「自己犠牲」です。
ルール違反なのです。自分が精一杯できることが条件です。
「善意」「親切心」「勇気」...「優しさ」は無限大です。
広がる、伝播するという性質があるのです。
自身の心の中で自己肯定感が増し、どんどん燃え上がります。
心の火は消費し尽くすものではないのです。
自分の心の中にある絶えず燃えているもの、「生の欲望」がある限り命とともに燃え続けてくれます。
アーリーンは母グレイスに幼少期の過ちを許しました。
その心の火はどこから来たのかわかるでしょうか?
それは息子のトレバーが気づかせてくれたことです。
トレバーのつらい気持ちを共感し、そばに居てくれることへの感謝し、その「優しさ」がアーリーンの心の底にあった母への思いのドアをノックして、母を許すことを「ペイ・フォワード」に選んだのだと思います。
もう一つ、シモネットの感情を探ってみます。
「防衛単純化」という言葉があります。
彼にとっての「とらわれ」は家族に愛されなかったことです。
心無い父親から身体にガソリンをかけられ火を付けられたことです。
体のやけどが消えることのない焼け痕となりました。
同時に彼の心にも消火できない、親への愛と憎しみが生まれます。
シモネットはやけどの傷痕に執着することで、すべての世の憂いをそのせいにしてしまいます。
杭に繋がれている犬が杭の周りを回ります。
次第に紐の半径が短くなり、杭に絡みついて身動きが取れなくなります。
シモネットはそういう状態でした。
他人との心のふれあいを避け、毎日決まった規則正しい生活を課し、他を寄せ付けない文語口調で我が心を触れさせぬように自身を守ります。
彼にもまた「勇気」が必要でした。
「生の欲望」を心の奥底から掘り出してくれたのはトレバーでした。
シモネットには克服しなくてはならないものがありました。
彼に必要なのはただただ「行動」することです。
浮かんでくる不安、恐怖、怒りに「あるがまま」耐えて行動することです。
「先に贈る」ためには何ができるのでしょうか?
ホームレスのジェリー自身はドラッグを断つ「勇気」。
次の相手の自殺志願女性に対してできることは、
彼女の心に共感すること。
それでも生きた方がいいという理由を心から彼女に示すこと。
ジェリーはジェリー自身のために彼女に生きてほしいと言いました。
コーヒーという何気ない幸せ。
人との触れ合いを提案することができました。
ホームレスのジェリーにもこれだけのことができるのです。
いいえ、人より多く傷ついた者だからこそ、他人により共感できます。
「優しさ」を贈ることが彼には可能でした。
シドニーには何ができたか?
彼は救急病院で負傷の痛みを我慢し、弁護士の娘の命を救いました。
自身のダメージと眼の前の他人のダメージを比べ、臨機応変に順番を譲ります。
彼の機転と少々の横暴性のおかげで、弁護士の娘に順番が回されました。
トレバーは自ら考案した「ペイ・フォワード」の実現可能性について悩みます。
友人のアダムがいじめられているのを助けることができませんでした。
「勇気」が出せないのです。
世界をよくしたい、よい世界に住みたいと思ってはいましたが、彼は発案者なので、誰からも贈られてませんでした。
母、父、ジェリー、シモネットへの「諦め」、そして世界への「諦め」。
勇気が出せない自分への「諦め」。
すべてクソな世界。
しかし母親、祖母、友人たちに囲まれて祝ってもらった誕生日会。
母が「勇気」を出して祖母を許したと知ります。
アーリーンは母グレイスとの仲直りすることで、知らない内にトレバーに「贈って」いました。
トレバーに「勇気」の炎が灯り、アダムを助けに行きました。
結果はとても残酷で悲しいものになりました。
しかし「ペイ・フォワード」するのに必要なものは決して「自己犠牲」ではありません。
「優しさ」を贈ることに「自己犠牲」は必要ありません。
そこに「自己犠牲」があったとすれば、自分の無価値感から来るものです。
存在価値を他人に認めさせる行為です。
それは「優しさ」ではありません。
必要なものはトレバーがインタビューで言った「変化を恐れない心」です。
救われるというのは同時に「変化」を強いられることなのです。
今、自分は悲惨な世界の中にいる。
それでも、これ以上の不幸は来てほしくないという「恐れ」がまだあります。
現状が地獄なのにそれ以上の地獄に堕ちるかもしれないという不安。
なので人は「変化」を拒みます。
全身が震えてしまい、その一歩が出せません。
「優しさ」は自分が相手のために「能力」と「勇気」を使って精一杯することです。
私はそれを「感謝」の気持ちから来るものだと思っています。
人は満ち足りた気分に「感謝」した時、誰かに分け与えたいと自然に思います。
そういう人間本来の性質として「優しさは無限大」なのです。
お気づきかと思いますが、この「感謝」は人から贈られるだけのものではありません。
自然の美しさを見て感謝する。
植物の生命を感じて感謝する。
動物のまなざしを受け止めて感謝する。
一杯のコーヒーやお茶を楽しめることに感謝する。
出会えた本に感謝する。
手足が動くことに感謝する。
仕事がうまく行ったことに感謝する。
身近な人の笑顔に感謝する。
なにげない些細な幸せでも「感謝」することでろうそくの種火となりボワッと燃え広がります。
他人の人生に関わること。
おせっかい?
大きなお世話?
他人の人生を背負うな?
ではなぜ人は他人に共感する力を持つのでしょうか?
「誰でも不幸を背負ってるんだ。お前だけじゃない。我慢しろよ。」と言うためでしょうか?
「優しさ」を受けると嬉しいし、「優しさ」を贈ることも嬉しいし、二人の間で「優しさ」が無限に跳ね返り続け、3人、4人、5人と伝播して心地よい暖かな世界になるからではないのでしょうか?
自分と他人との境界はとても大事です。
恩着せがましくなったり、贈り物が間違っていたり、相手の時間を奪ってしまったり。
見返りを求めたり、贈り物にケチをつけたり、自分の時間を削りすぎてしまったり。
「ペイ・フォワード」は自己犠牲せず、自分の価値を押し付けず、相手の気持ちになって、勇気を出せば、きっと成し遂げられる行為だと信じます。
この作品では家を尋ねるシーンが数多く出てきます。
家主は愛情深い笑みで「 Come in! 」と出迎えてくれることでしょう。
長文をお付き合いくださり、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
今の世の中、各種SNSで人の心を比較的簡単に知ることができます。
もしあなたがこれから出会う人の思いに共感することができたならば、その思いに”いいね”を押すことで次に渡すことができるのではないでしょうか?
今回もお読みくださり大変ありがとうございました。
また次に作品でもお会いしたいです。
いつもだれかに「ペイ・フォワード」。
それでは、また。