『夢中問答』第七十一話:人生は夢か幻か
人生は夢か幻かという問題は今も昔も変わり無く抱く疑問ですが第七十一話は禅者としての夢窓国師が正面から答えております。
現実は虚妄であるとまことしやかに語る人それを信じる人疑問に思う人さまざまですがはたして真実は何処にあるのでしょうか。
このような疑問に答えた例はめったにお目にかかることは無く貴重な文書であります。
夢窓国師の答えは禅者としての立場は常住の相でも虚妄でも無く、人により時により使い分けて表現するこれを方便と言います。
その意味は虚妄の世界に生きている人に対しては虚妄と言い、聖人には人生は常住の相であると答えているのである。
またある人が諸行は無常と言えるのかと問えば、
夢窓国師僧曰く、それは世間の戯論と言い、
それでは諸法は常住かと問えば、
夢窓国師曰く、それも世間の戯論と言いました。
さらに維摩経には生滅の心をもって実相について語っては成らないと言われているといいます。
さて仏教の教えではでは諸行無常と言って永遠不滅のものは無く、すべてのものは生まれては消滅を繰り返すということは定説なのに何故語ってはいけないのでしょうか。
確かに疑問を持つ人は多いと思いますが、語っても良い人とは大悟した人と言うのです。
何故なら真実を知らない人が虚妄とか諸行無常を語ることは虚妄の上に虚妄を重ねることに等しいからである。
夢の中で夢を語っていることに等しいと言うのです。
まさに『夢中問答』ですが夢窓国師は否定することによって肯定を強調しているのです。
本文には「邪人正法をとけば正法もまた邪法となる。正人邪法をとけば邪法すなわち正法となる。」と締めくくっています。
今も昔も高名で影響力の高い発言者の中には誤解に元ずく虚妄論が多いことに警告を発しているのです。
参照
『夢中問答』夢窓国師 岩波文庫:絶版
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