episode6:再会
印象的な声だった。
ボーイソプラノの、ふんわり広がるような癒し系な声。
黒いパーカーにジーンズというボーイッシュな服装に、赤い縁眼鏡から覗く、くりくりした丸い瞳が対照的な、中性的な雰囲気の女の子だった。
「なんだ、さえちゃんもここにいたんだ。じゃあ、メンバーが揃ったね」
近づいてきたナオちゃんが、彼女に気がついてそう言うと、きょとんとした私を見て説明してくれた。
「あ、この子はベースのさえちゃんだよ。高校の時からバンドやってるんだって」
「あっ、そうなんだ‥!」
「サエちゃん、この子が昨日メールで話したドラムやってみたいって来てくれたしーちゃんだよ。とりあえずメンバーは揃ったね〜。みんなであっちで話そう」
さえちゃんが、私の方を見て何か口を開く。
さえちゃんは、私の方を見て、あの時なんて言っていたんだっけ。
よく思い出せない。
ただ、時間がない中で緊張したままみんなと自己紹介を済ませて、メールアドレスを交換して、あっという間に午後の講義の時間になったことは覚えている。
それからちょくちょく、大学構内でさえちゃんを見かけるようになった。
すれ違ったりすることもあった。
大体気がつくのはいつも私の方で、さえちゃんはいつも同じ子と一緒にいた。
出会う前までは、全然知らない人だったのに不思議だなぁ、と、さえちゃんを横目に見ながらそんなことを思っていた。
✳︎
その後私は、バンドサークルに仮入部して、三年生の先輩にドラムを教えてもらうことになった。
仮入部を決めたのは、ただ、なんとなく。本当になんとなくだった。
実家を離れて、華の大学生。
「人生の夏休み」と、大人たちからはやや虐げるような、でもその実羨ましくて仕方がないという眼差しを向けられながら、
己のやりたいことを知るために、いわんや将来を希望に満ちたものにするために、したくもない学問も好きなふりをして、何かなんでも学ばなければならない4年間。
その入り口開けたばかりの私は、変わらず冴えなくてぼんやりしていて。
とにかく何かやってみようと思ったのだ。
直感に従って。
そうだ。
私はなんでも直感的に行動するところがある。
理由は今はわからなくても、
ピンときて、ナオちゃんからの誘いに二つ返事をした自分を
私は心の底では信じているのだ。
この先に、自分が望む何かがあるのだと。
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