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こころを地図に例えると

※被虐待経験のある方、療養中の方はフラッシュバック等にご注意下さい※


さいしょに


今日からね、パパンに、ここで手紙を書いていこうと決めたよ。

というのは、昨日の深夜。

起きて手水場から出て、パパンがまだ起きて食卓で、

とてもむずかしい表情だったから、久しぶりに帰省して、

オレのことでなにか家族から言われたか、問題が発生したのかな?

と思ったんだ。

で。パパンに「オレのことでなにか厳しいこと言われたのかい?」と。

でもパパンは「否」と。

なのに、パパンの表情は珍しいほどに「苦渋」って感じだった。

オレは不安だったし、もう眠剤も効いてたし、

また眠るための安心感が欲しくて聞いたんだ。

「オレは、ここに居ていいの?」って。

そしたら「どぉぉしてそんなこと言うの?」って、

パパンの苦渋をもっと深めてしまった。

あぁ、失敗したぁーと思って、

「子供のころからなにかある度に『出てけ!』って言われてきたから!」

って、オレはなるべく軽い調子で言って、またベッドに入った。


それが昨夜のこと。

今日。

いつものように夕方起きて、びーこに急かされながら猫用トイレの掃除をした。

そしてこれもいつものようにパパンが出勤前に淹れたコーヒーの残りに

豆乳を混ぜたもの、麦茶2リットル、少しの甘いものを

1時間くらいかけて摂取する。

あと、今日一日の安穏の保険の、いつもの薬。

そんなことをしていたら、昨夜のパパンの暗い表情と

「どぉぉしてそんなこと言うの?」っていう、

絶望の風味の悲嘆の言葉を思い出したんだ。

でだ。

「これはきちんと説明する必要がある」

と、判断した。

そうだよね、パパンからしたら「ここまでしてるのに!」

って気持ちなんだろうな、と推測したから。


だからね、今日からここに、君への手紙として書くよ。

精神保健障害者手帳2級持ち、精神科通院暦もうすぐ30周年、

ボーダーでASD特性あり。


そういうオレが、過去にどんな景色を見てきたのか、味わった感情、

見えないけど刻まれた傷やなんか。

それから、パパンとの毎日。


すまないけど、長いよ。どんなに簡潔に書こうと、長くなってしまうんだ。

こういうオレだから、いつまで続けるかわからないけど。

でも書きたいんだ。

だって君だって、一緒になったころから

池波のようにオレが作ったその日食べたものの日記をしたためて、

それが遺言代わりらしいじゃないか。

だから、オレも!

泣いてる。安堵した涙だ。泣けてよかった。

パパンは今日は遅いシフトだよね。

古女房の美しくない、海亀に似た顔(君曰く)を見られなくて済んだ。

涙と呼吸が落ち着いたら、古典菊のポット苗を鉢に植えよう。

今日は、ここまでにするね。


リトルちん


-ちん3歳-


久しぶりだね。リトルちん。

今は2024年、弥生の頃だよ。君は、まだ生きてる。

「ミドルちん」になっちゃったけどね。

現在、君は姿と姓を変えて、よく懐いた可愛い三毛猫と、

口は重いけど、実のあるパパンと暮らしを紡いでるよ。

ここは安全で安心できる。

愛着のある文机と、ぐっすり眠れるベッドもある。部屋には窓もあるよ。

大丈夫。

そして。

あの女はね、死んだよ。

君はどんなふうに思うかわからないけど、

ミドルちんは、火葬場の炉の点火スイッチが押された瞬間、

「胸の中だけで、ありったけの力で、ガッツポーズ!!!」したよ。


世間とか、道徳とか、人道とか、たくさんあるけど、

そういったものから認められない喜びって、あるんだね。

おおっぴらに出来なくて、共感してくれる人なんていなくて、

たったひとり、自分だけでしか祝えない喜び。


ごめんね。リトルちん。

首にかけたビーズのペンダントを人混みでぶっちぎられても、

パンツだけの裸に大人の手の跡がくっきり残るほどみぞおちをぶたれても、

束の間眠って目覚めたらおうちに誰もいなくて闇の中裸足で探して歩いても、

君はあの女にしがみついて生きるしかなかったもん。

怒りを自分に向けて、押入れに隠れてこっそり自分の髪を切ったよね。

ミドルちんは、ちゃんと覚えてる。

だから「ガッツポーズ」だったんだ。

君の光の見えない闘いは、ひとつ、終わったよ。


・・・


「みどるちん、みどるちん!」

・・・ん・・・?

「いつも勝手なときに呼び出して!」

リトルちん?

「そうよ。なんか頼みがあるんでしょ?いつもそう!」

ごめんね。リトルちん。新しい案件が発生してきたよ。

「なに?」

オレとパパン、、どうやら人生の秋に入ったみたいなんだ。

「ジンセイの秋って?」

すぐって訳じゃないけど、そろそろお互い死ぬことを少しずつ意識して生きる時期、ってことかな。

「年取ったってこと?」

そう、そうなんだ。それが不安でね・・。障害者なのに、オレより7つ年上で30センチも背の高いパパンを、、オレ、守り切れるかって・・・。

「みどるちんって、介護士なんでしょ?」

んー、まぁそうだけど・・・。仕事で他人をケアするのと、大切な人をお世話するのは全然違うっていうか・・・。

「むずかしいことはわかんない。でも、わたしは将来わたしを守ってくれる人を、その人がわたしより年取って弱くなっても、その人と生きていきたい。最後まで」

そっか。オレも同じだ。

「それに、みどるちんはどうせそうするでしょ?介護士やってたときも、張り切りすぎてバーンアウトするくらいだし。わたし知ってるもんね」

うん・・・。

「なんかあったら、またわたしを呼び出してここへ書けばいいわよ。わたしはまだ、みどるちんよりはこころに垢がついてない。だから、あなたの本当の望みを知らせられる。じゃーね!」


・・続きます・・


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