2分で読める子育てエッセイ№950『その櫛、貸ーしーて！』

ある晩、ワタクシ風呂上りに髪を乾かしていたら、小4の息子・イチがやってきてこう言った。
「お母さん、その櫛、貸ーしーて！」

うそーん。
イチは今、いがぐりみたいに短くなった髪型なのに？　芸術的な寝癖がついているときには1㎜も気にもしてなかったのに？　どんな心境の変化なんだろうと思いながら櫛を手渡した。
すると息子は鏡も見ずに、自分の頭を櫛で5～6回なでると
「どう？　キレイになった？」
と、いい顏して訊いてきた。

「・・・いがぐりが、ちょこっと整った「いがぐり」になった気がする」
と素直に答えると、鏡を覗き込んで満足した息子はどっか行った。

するとしばらくしてまた息子がやってきて、こんどは自分を指さしながらこう訊いてきた。
「お母さん、どこが変わったか分かる？」

さっき髪の毛をブラッシングしたことがよほど嬉しかったらしい。それを褒めて欲しいのかもと思ったワタクシ。
「髪型に寝癖もなく、男前になった！」
と親バカぶりを発揮し答えると、息子はニヤッと笑って首を横に振った。
「ブッブー。マジで分からない？」

もう1回穴が開くほど息子の顏をのぞき込み見回したけれど、よく分からない。ギブアップすると、息子はもう1回ブッブーと言って口を突き出した。そしてその尖がった口を指さしてこう言った。
「薬用リップ塗ったからツヤツヤになった、が正解でした」

ひょーっ！　いきなりなに～！
髪型とかツヤツヤリップとか、メッチャ思春期の男子じゃーん。

もしかして好きな娘出来たとか？　俺カッコいいって気がついたとか？　見た目気になり始めたとかですか～？

小学校4年生の息子。いよいよそんな時期が来たのかと、ワタクシ超驚いた。

※
そんな翌日の朝、息子の朝の支度をさりげなくチェック。
そこにはズボンの後ろからピロンとでたシャツの尻尾、靴下が左右段違い、口の周りにチョコパンのチョコをつけた、いつもと変わらない息子の姿。

あれ？　リップ、ブラッシング・・・絶好のタイミングは出かける前の今でしょ？

ただでさえ狭く混雑するわが家の洗面所。息子の前髪が決まらないだの、寝癖がどうだの、カッコいい角度だの、洗面所を独占したがるのはもう少し先みたい。
ニヤリ。