劇団チョコレートケーキ『治天ノ君』
劇団チョコレートケーキ 第31回公演
『治天ノ君』
脚本 古川健
演出 日澤雄介
10/8(火)夜公演を見た
真摯に人間に向き合った、非常に上質な作品。素晴らしかった。静かに胸を打たれ、戸惑うほどに涙がこぼれた。どうしようもない世の中で、より良く在ろうともがき生きる人間を描いてくれる作品、そんなの愛せずに居られるわけがない。
歴史を取り扱った作品を見た時「ああこれはとても価値ある時間だった」と思う理由の一つは、無機質に思える歴史のなかでも人間が生きているのだということを教えてくれる点にあると思う。日本史の教科書に載っている歴史は出来事の連なりでしかなく機械的に暗記していく記号でしかなくて。でも、歴史物の作品を見ると歴史は人間の生きた痕跡であり彼らにも感情があり守りたいもののある、私と同じ人間だと思える。その意味で、『治天ノ君』も非常に意味のある作品だと思った。
『治天ノ君』は大正天皇の一代記だ。
知られざる大正天皇の姿、と書くととてもチープな雰囲気が漂ってしまうけど、感情を抑えることが苦手で愛嬌たっぷりに目を輝かせながら身の回りの人々と話している若かりし天皇の姿はちょっと衝撃的で。天皇が神であった時代ということは当然知っているので、ざっくらばんに話し合いたいのだと語りかけ時に床に座り込み駄々をこねる姿はあまりにも目を疑うもので。人間らしい天皇の姿に愛着がとまらなかった。
だからこそ、病状が悪化し公務を果たせなくなっていく様子の遣る瀬無さに悶えてしまう。良く在ろうともがけどももがけども、努力も儚く泡となり、身体はままならず息子が摂政となり実権を失うこととなり、世界は大戦に飲み込まれてゆき大正天皇が求めた国民の安息も終わりを迎え。彼らからしたら未来人の我々にはそんなことは公然の事実で。
誰しもよく在ろうと努力しているのに、
思い通りのハッピーエンドはやってこなくて。
現実とは、かくも残酷なものかと。
なんでままならないのかと。
でも、各々が抱く愛情と信念は美しくて。
誰しもが自分の中の正しさを貫いていて。
それだけが救いで。
その選択が正解か不正解かなんて到底わかりっこないけれど、それでもこれで良かったと思えるほどに誠実に人生に向き合う人々しか舞台上にいない。美しいと素直に思う。
今回で三度目の公演となることも納得の誠実な作品。令和の時代の始まりに公演される意味。また見たい。
あまり語りすぎず今回はこの辺にしておく。是非とも劇場で目撃していただきたい。
観劇前に立ち寄った奇跡みたいな洋食屋さんを紹介して締めたい。
洋食屋チェック
ポークソテー¥1,300
年季の入った店内で年季の入ったおじさまたちが目の前で匠の技で調理し、どこか懐かしい洋食を提供してくれる。ときめきが止まらなかった。令和にこんなお店まだあるのか...!という衝撃。おススメです。分厚いお肉、すんなりナイフが入ってあっという間に平らげてしまった。感動。また行きたい。
今回はこれにて。