ソナチネから学ぶ、音楽の基礎。
こんにちは。
さて、今日はピアノの話です。
ディアベリ作曲の「ソナチネ 作品151ー1」をYouTube動画にアップロードしました。
全音楽譜出版「ソナチネアルバム第2巻」に収録されている曲。
比較的難易度は低めの曲になっています。
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こちらの楽曲分析は、今日の記事の下の方に書いています。
目次を設定しましたので、よかったら最後まで読んでいただけるとうれしいえす。
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まずは本題に入る前に、ソナチネとは?というお話からしておきたいと思います。
✧˙⁎⋆「ソナチネとは?」
下のリンクは、私のHP「音楽専門ブログ”Bella musica”」のページになります。
ソナチネについて書いていますので、お時間ありましたら読んでいただけるとうれしいです。
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では、本題に入っていきたいと思います。
ディアベリ作曲
「ソナチネ Op.151−1」
デェアベリは、オーストリア生まれの作曲家、ピアノ講師。
少年時代はザルツブルクの聖歌隊に所属。
その後、牧師としてラテン語を学びぶかたわらハイドンの弟、ミヒャエル・ハイドンに音楽指導を受けることになる。
19歳の時、修道院で僧職につきますが、22歳で修道僧を辞め、ウィーンに出てヨーゼフ・ハイドンに師事を受けます。
作曲家、ピアノ講師として生計を立て、音楽出版社を立ち上げました。
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多才ですね。
自ら作曲家である立場をうまく使い、多くの作曲家に曲を書いてもらい、ひとつの大きな作品をつくることに取り組んだとのこと。
曲を頼み、自分は彼らの作品を出版する。
さまざまな人脈を使って、自分のやりたいことをし、それが結果いろんな人に循環していく・・・。
今も昔もビジネスの手法は変わらないんですね。
こういった循環のスタンスは、みんながWin-Winになるので、とても幸せな循環といえるのではないでしょうか。
さて、作品に話をうつしていきましょう。
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この曲は、3楽章で構成されています。
第1楽章: ト長調 複合3部形式。
第2楽章: ハ長調 3部形式。
第3楽章: ト長調 ロンド形式。
音楽の形式については、こちら☟
わたしの音楽専門HP『Bella Musica』に書いています。
第1楽章 ト長調 複合3部形式
ソナチネの第1楽章といえば、ソナタ形式で、インパクトの強い主題をもつ曲が多いのも特徴ですが、この曲は複合3部形式で書かれていて、優しいメロディが主題となっています。
というのも、曲の冒頭に書いてある速度標語の記号は「Andantino cantabile(アンダンティーノ カンタービレ)」と書いてあるので、「アンダンテよりやや早く、そして歌うように」という意味になります。
(なんだか曖昧ですね。音楽って決まった線引きがないところがおもしろいし、奥が深いところでもあるのです)
ということは、まず、アンダンテの速さを知っておかないといけないわけです。
アンダンテは、「ゆっくりと歩くような速さで」と日本語ではあらわされます。
メトロノームでは、♩=63〜76ぐらいでしょうか。
このあたりも、アンダンテはこの速さ!と明確に決められるものではないので、曲の雰囲気と合わせて考えます。
その、アンダンテより少し速いぐらいですから、♩=80ぐらいでいいかと思います。
ピアニストによって、もっと速く演奏している方もいるので、どれが正解とか間違っているとかをテンポで判断するのは難しいかと思いますが、全体的な雰囲気でつかんでみるといいのではないでしょうか。
ちなみに私は、♩=80ぐらいで弾いています。
この”作品151-1”の第1楽章については、「カンタービレ」と書いてあるので、その雰囲気を大切にして演奏するといいのではないでしょうか。
複合3部形式ですので、主題と中間部、再現部のように3つの部分からできているのかな?と予想できます。
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【Aパート】
ここでは最初の部分を「Aパート」としていきたいと思います。
アウフタクトで始まる旋律。
とても”やわらかさ”を感じさせる冒頭のメロディ。
それでも、左手には3連符の分散和音の伴奏がついているので、あまり硬くなりすぎないようにレガートで演奏したいところ。
この「Aパート」の中にも、大きなフレーズを意識したいところがあります。
2小節単位でフレーズが一音ずつ高くなっていくので、1から2小節目へ、3から4小節目へ、5から6小節目へとだんだんとやさしくクレシェンドをかけていくように。そして、7から8小節目で主題の終わりを告げるように静かになっていきます。
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【Bパート】
この2小節単位でのフレーズの上行がその後の中間部でも行われています。
「Aパート」をさらに発展させた感じと捉えるといいと思います。
9から10小節目、11から12小節目、13から14小節目へと主題のメロディの展開、そして和声の変化とともにこの曲のクライマックスへと進んでいきます。
特に、11小節目のロ短調へと転調しているハーモニーは、意識して美しく感じていきたいところ。
もともと長調で書かれている音楽が、悲しい雰囲気に変わるところは、作曲家も意図して書いているので、この曲の場合はこの2小節はとくに意識して弾いてくださいね。
そのあと13小節目では、また長調(ニ長調)へ転調していきます。
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意図して転調する作曲家の真意とは?
ト長調はシャープ(#)が1つの調。
ニ長調は、シャープ(#)が2つの調。
シャープ(#)の数がひとつ増えたり減ったりの関係性で転調する箇所は音楽の中でもよくある転調の方法です。
けれど、同じ長調の部類で移り変わっても変化をそれほど感じにくい(音楽家はちょっとした変化も感じることができるのですが、大半はそうではない)ので、あえて平行調の短調を挟んで変化を明らかにして、転調する方法もある。
この方法は、人の感情を大きく揺さぶることが目的になっていることもあり、ここが音楽のクライマックスへの導入口と捉えてもいいかと思います。
”このあとクライマックスをきますよ”の合図として。
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そしてクライマックスへ
ニ長調へ転調した14小節目あたりがこの曲のクライマックスとなっています。
そして、「Bパート」はここで終わらず・・・。
後半部分は、それまで左手にあった「3連符」が右手にメロディとしてあらわれます。
ここは、”メッツォ・スタッカート”で。
スラーとスタッカートが両方ついています。
(全音出版社はそうですが、出版社によってはスタッカートのみの場合もあります)
音楽理論上では、ついている音符の4分の3くらいの長さで演奏するという意味ですが、3連符の一つ分の8分音符を4分の3の長さで弾くってどんな長さ?って厳密にいえません、笑。
ニュアンスでいうと、レガートで弾くのではなく、一音一音途切れて聞こえるように弾く、という感じでいいと思います。
ここでは、スタッカートのように短く、歯切れよく跳ねるわけではないので、気をつけましょう。
あくまでも、2小節単位のフレーズであることを意識して。
スタッカートのみで書かれている楽譜の場合は、逆に「明るさ、楽しさ」を全面に出して、”笑い声”のように演奏してもいいかもしれません。
またフレーズの切れ目も、アウフタクトにともない、フレーズの途中の弱拍から始まっている(18、20小節目)ので、ここも意識してフレーズの変わり目を感じていきたいところ。
この「Bパート」後半の3連符の大きな8小節のフレーズも、一番の盛り上がりが20小節目のメッツォ・スタッカートが終わったところあたりから始まります。
21小節目は少し強めに、左手も4分音符のスタッカートでしっかりとベースをきかせて演奏しましょう。
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【Cパート】
曲の結びに入っていく部分。
お決まりのメロディの同音連打がここでは3度で重なってハーモニーをつくっています。
「Aパート」で弾いたメロディを「Bパート」で展開させ、そして「Cパート」でさらに厚みをもたせているところが、同じようなフレーズのつくりとはいえ、変化をしっかり感じて演奏したいところですね。
ここでは29小節目からはそれまでよりも1オクターブ上で同じ旋律を奏でていますが、特に音量を上げるというよりも高さの違いを感じながら繊細に演奏したい部分かと思っています。
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【コーダ】
そして、32小節目から”コーダ”となります。
また右手の旋律が3連符でメッツォ・スタッカートになっています。
ここは、いままでよりも強めに、そして32小節目3拍目、左手の終止形(5度”Ⅴ”(Ⅴ7)から1度 ”Ⅰ”へ)の属7の和音(レラド)は両手ともに強調します。右手(ファミファの最初の”ファ”)もややアクセントで表現します。
同じく33小節目の3拍目の(レラド)も強調。
3連符の終わりとともに、音楽も終止に向かっていきます。
最後の3つの4分音符の和音はとても弱く、ト長調の主和音のハーモニーを感じて演奏します。
第2楽章 ハ長調 3部形式
次に第2楽章。
こちらは、「スケルツォ」と冒頭に表記されています。
「スケルツォ」とは、音楽用語で”冗談めかしく”、”おどけた感じで”といった意味になります。
ユーモアを兼ね備えた作品を指します。
楽しく、ユーモアを感じながら演奏するといいのではないでしょうか。
3部形式ですので、A-B-A-コーダといったかたちが予想されます。
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【Aパート】
まず、はじめの8小節が「Aパート」になります。
左右の手を交差しながら演奏は進んでいきます。
右手のメロディはやや弾んだ感じ、左手の分散和音はレガートでなめらかに演奏しましょう。
ユーモアのセンスをどこに表現したらいいか?ということですが、この曲では、2小節目に交差して”低いド”を右手で演奏する箇所に「Sf(スフォルツァンド)」が書かれていますので、この音に少し重心をかけて強調し、旋律が一音だけ大きく下へ移動したことをはっきりと表現し、聴き手に驚きを与えます。
ここの部分を曖昧に演奏してしまうと、スケルツォの感じがうまく表現されない可能性があるので、しっかりと意識して弾きたいところ。
そして、7小節目1拍目の”ソ”は4拍分の長さがあるので、しっかりフォルテで弾き、アクセントをつけて長さを保ちます。
4拍もの長さの音は、こことのちに再び出てくる同じ音の2箇所だけなので、しっかりと意識して音出しをしましょう。
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【Bパート】
9小節目から16小節目までは、Bパートになり、この曲が展開していきます。
音型は変わりませんが、最初はト長調、次の音型ではト短調へと移り変わっていきます。そのままト短調で流れていき、15小節目からは再びAパートに戻る準備に入ります。
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【A’パート】
17小節目から再び同じメロディが出てきます。
右手はずっと【Aパート】と同じメロディが流れていきます。
ただし、左手の伴奏の音型が3和音連打になっていますので、ここは「A’(Aダッシュ)パート」としたいと思います。
最初のAパートとは違い、ここでは強弱記号がフォルテになっているので、かなり強めにダイナミックな感じを出して演奏します。
とはいっても、左手の連打が雑にならないように、重くならないようにできるだけ同じ長さのスタッカートで演奏できるようしっかりと練習しましょう。
「1番カッコ」演奏のあと、Bパート、A’パートと演奏し、「2番カッコ」へ。
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【コーダ】
最後の5小節はコーダになります。
フォルテのまま、ラストスパート。
2番カッコはじめの4拍目、右手の”シソシ”のところで、最初の”シ”(4拍目のシ)は少しアクセントぎみで演奏してもいいかと思います。
コーダの最初のメロディは、1拍目の”ドソド”よりも4拍目の”シソシ”の方が大事なメロディになるので、あえてここを強調して大事なメロディであることをアピールしたいところ。
また同じ場所、左手の”ソレファ”の和音は、雑にならないように。そして右手のメロディとのバランスととって強くなりすぎないようにしましょう。
このコーダは最後まで弾き切るように強く勢いをもって演奏しましょう。
短い第2楽章ですが、中身の濃い要素がたくさんつまっています。
スタッカートは全体的に短く、元気さを出して演奏しましょう。
大事な音が各パートごとにあるので、その音をなんとなく弾かないように、意識してアピールしましょう。
ぼーっと演奏してしまうと、あっという間に終わってしまう曲なので・・・。
第3楽章 ト長調 ロンド形式
次に第3楽章。
ロンド形式は、主題が何度も登場します。
とてもわかりやすい主題のメロディですので、「また出てきた」というのがすぐにわかると思います。
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【Aパート】
最初の8小節。
スラーとスタッカートのフレーズが主題の特徴。
スラーはなめらかに、スタッカートは歯ぎれよくコントラストを表現したい冒頭のメロディ。
その後もこういったスラーとスタッカートが両方入ったフレーズが続くので、なめらかに演奏するところ、短く切るところをしっかりと区別して弾きましょう。
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【Bパート】
9小節目から24小節目まで。
ここも、スラーとスタッカートのフレーズがかたちを変えて出てきます。
同じように、スラーのなめらかさとスタッカートの弾んだ感じのコントラストはしっかりと出していきましょう。
Bパートでは、スラーとスタッカートのフレーズがどんどんとかたちを変えていくので、変化する様子を強弱とともに表現します。
強くなったり、弱くなったりと音量が変化していくさまをしっかりとアピールします。
18小節目からは音階のフレーズで2オクターブ上昇する箇所が2回続くので、1回目は坂を駆け上がるようにフォルテで、2回目は対照的にピアノでやさしく上っていきます。
その後22小節目でピークを迎え、徐々にメロディの下降とともにBパートが終わります。
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【Aパート】
25小節目から32小節目。
冒頭と同じメロディが出てきます。
29小節目からは、ここまでの32小節の大きなパートの締めくくりに向かっていきます。
左手の伴奏のハーモニーの移り変わりを感じながら締めくくります。
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【Dパート】
33小節目から40小節目まで。
ここは次のEパートまで、ハ長調に転調しています。
調性の変化にも注意しながら、少し息の長いフレーズを歌って演奏しましょう。
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【Eパート】
41小節目から48小節目まで。
ここは、臨時記号を使いながら大きく調が変化していきます。
まず、ヘ長調、ニ短調、イ短調、最後にハ長調へと戻ります。
転調での調性の変化は中間部分によく出てくるパターンとなりますので、ここの中間部は臨時記号のシャープやフラットなど落とさないように、ハーモニーをよく感じて美しく演奏しましょう。
49小節目から80小節目までは、最初の【A】【B】【A】がそのまま登場します。
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【Fパート】
81小節目から88小節目まで。
ここは、下降のメロディラインとなっています。
なんとなく、「終わるかな?」というニュアンスを感じさせますので、やや弱めにかわいらしく演奏しましょう。
85小節目からの4小節は、前の4小節のメロディを16分音符で装飾したアレンジバージョンとなっています。
少し軽やかさを出して動いていけるとすてきにフレーズをまとめることができますね。
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【コーダ】
88小節目から最後まで。
ここは上行の音階がメロディとなっているので、だんだんとクレシェンドをかけて勢いよく演奏します。
上りきると、カデンツでしめくくります。
スタッカートは歯ぎれよく、かっこよく・・・。
そして最後の2つの和音は、しっかりと音符の長さを保ちます。
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ロンド形式の曲は、比較的軽やかな感じの曲が多いような気がします。
あまり力みすぎず、軽快に音楽が流れるようによく練習をしましょう。
基本の調とは違うハーモニーが鳴っている箇所は、特に和音の移り変わりに注意をし、ハーモニーを感じながら美しく演奏しましょう。
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まとめ
ソナチネは、音楽の形式も学べて、しかも基本的な要素をしっかりとおさえつつも、とても変化に富んだ奥の深い作品が多いような気がします。
ピアノ初心者だけでなく、中級レベルの生徒さんにもぜひ一度はソナチネに取り組んでみるといいかと思います。
基礎から応用まで幅広く学べる素晴らしい教材。
この後のソナタを学ぶにも、いきなりソナタよりもソナチネをやっておくことで理解がより深まった状態で取り組めるのではないでしょうか。
習ったことはあるけど、教えるのって難しいよね・・・と思っていらっしゃる先生方にもわかるよう細かく書いてみました。
曲が理解できると、弾きやすさが全然違ってくるような気がします。
わたし自身、弾いていてとても楽しく、子ども時代に一度習った教材でしたが、講師の立場になってからあらためて分析や理論をもう一度見直すことによって、さらにソナチネのおもしろさがわかったような感覚です。
今日は、以上になります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。