読者に刺さる小説の書き方(ターゲットに合わせた作風を)
皆さん、小学校に上がる前に好きだった本って、覚えていますか?
あるいは小学生、中学生、高校生の頃に好きだった小説って、覚えていますか?
思い出せた方は、その作品を「今現在、一番好きな作品」と比べてみてください。
「いつの間にか、だいぶ好みが変わったな」と感じませんか?
もしも「今現在好きな本」と幼い頃に出逢っていたとして、好きになれたと思いますか?
あるいは「昔好きだった本」と今初めて出逢ったとして(思い出補正ナシで)、好きになれると思いますか?
「おもしろい」は実は絶対的なものではなく、年齢によっても変化するものなのです。
■難解過ぎる作品は「つまらない」、平易過ぎる作品は「物足りない」
過去記事で「小説の評価は『理解度』に左右される」と書いたことがありますが…
たとえば小学校低学年の子どもが有名な文豪の難解な文学作品を読んでも、そもそも意味が分からなくて「おもしろい」どころではありませんよね?
読者の理解を超え過ぎた作品は、なかなか「おもしろい」とは感じられないものなのです。
逆に、幼児向けの「絵本」では「オノマトペ(擬音)」を組み合わせたものや、語感の良い言葉の組み合わせをひたすら並べたもの…↓
あるいは子どもにも分かりやすいシンプルなストーリーが人気になったりしていますが…↓
大人が今それを読んで「これこそが人生最高の本だ!」となるでしょうか?
理解度が上がって来ると、今度は逆に「簡単過ぎる」作品に「物足りなさ」を覚えるようになるのです。
「おもしろい小説」とはすなわち、難し過ぎず、簡単過ぎず、読者にとって「ちょうど良い」作品のことなのです。
■読者の「ニーズ」はライフステージによって変わる
たとえば恋愛小説と一口に言っても、「恋に恋する初恋も未経験な少女」と「結婚の現実を知ってリアルな恋愛に夢を見られなくなった女性」が求めるものは、果たして一緒なのでしょうか?
「おもしろい小説」とは、「読者のニーズに合った小説」でもあります。
そしてそんな「求められる内容」もまた、人生の経過とともに変化していくものなのです。
ただ、これがなかなか難しいもので、単純に「大人になればなるほど、ドロドロシビアな現実も受け入れられるようになる」というものでもありません。
ネットの世界ではよく「バッドエンドや厳しめの物語は若いうちに摂取しておけ。一定以上の年齢になると、キツくて受け入れられなくなるぞ」などと囁かれていますよね?
日々、厳しい現実にばかり直面している大人には「やさしい世界のやさしい物語しか受け入れたくない時」もあるのです。
「おもしろい小説」とはつまり、ライフステージごとに違う読者のニーズに合った作品のこと。
万人に受け入れらる作品などありませんし、少しでもニーズとズレてしまうと評価されないものなのです。
■ターゲットにしたい読者は何歳くらいのどんな読者?
ここまで書いてきたことをまとめると「作品が評価されるかどうかは読者の理解度に合っているかと、読者のニーズに合っているかによる」ということになります。
でも、たまたま自分の作品に出逢ってくれる読者が、どの程度の理解力の、どういうニーズを持った読者なのかなんて、分かりませんよね?
作者にできることは「ターゲットを決める」こと。
そしてその「ターゲットに合わせた作風を選ぶ」ことだけです。
(そして、できることならそのターゲットに合わせた情報発信やマッチングを心がけること。)
たとえば、商業出版の世界を見ても「少年マンガ」と「青年マンガ」、「少女マンガ」と「レディースコミック」、「児童書」「ヤングアダルト」「一般文芸」など、年齢に応じた「分類」があり、作風もそれぞれ違っていますよね?
「小学生」がターゲットのレーベルに、難解な漢字や語句を何の配慮も無く使っているものや、ドロドロの不倫劇を描いているものは無いはずです。
(過去記事でも触れている通り、たとえば少年マンガは漢字の全てにルビが振ってある一方、青年マンガは一部の難解な漢字にのみルビが振ってある…という風に、読者の年齢に応じた「配慮」がされているケースは多いです。)
アマチュアの物書きさんの場合、この「ターゲッティング」を全く考えたことが無いという方も、結構いらっしゃるのではないでしょうか?
■ターゲットは広過ぎると書きづらく、絞り過ぎれば刺さる人数が減る
ターゲットは的を広げると、執筆の難易度が跳ね上がります。
たとえば「大人が読んで楽しめる物語」より「大人も子どもも楽しめる物語」の方が、書くのは難しいですよね?
ターゲットは的を絞れば絞るほど、作者にとって想像がつきやすく、執筆しやすくなるのです。
ただし、的を絞るということは、当たる矢の数が減るということ。
ターゲットの心にはしっかり刺さっても、ターゲット以外の心にはかすりもしない…そんな「ヒット確率が減る」リスクがあります。
小説に限らず、エンタメ作品のレビューを見ていると「ものすごく面白かった」という人がいる一方、「自分には合わなかった」「何が面白いのか分からない」という意見も少なからずありますよね?
その違いはおそらく「そのユーザーがその作品のターゲットになっていたか否か」の違いによって生まれているのです。
(この「ターゲットから外れると刺さらない」は、覚えておくと戦略面ではもちろん、メンタルの維持にも役立ちます。特に読者からの感想・レビューを読む際には必須の心構えかと。)
■「想像できないターゲット」へ向けて小説は書けない
どの程度の広さのターゲットへ向けて作品が書けるのか…それは作者の執筆スキル次第です。
欲張って無理にターゲットを広げても、かえって「誰にも刺さらない」作品になってしまうだけです。
作者にとって一番確実なターゲットは「自分にとって想像のつく相手」。
たとえば「シリコンバレーで働くITエンジニアに向けた小説」を書いてくださいと言われても、なかなか話が思いつかないですよね?
ですが「中学時代の友人〇〇さんに当時ウケたであろう小説」なら、比較的話が浮かびやすいのではないでしょうか?
ターゲットを設定するなら、まずは無理なく「想像のしやすい相手」を設定するのが堅実です。
これまでにターゲットなど意識したことがなく「自分にとって最高に面白い小説」を書いていたと言う方々もいらっしゃるでしょうが…
そういう作者の方は実は無意識に「自分(と同じタイプの人間)」をターゲットにして小説を書いているのです。
「自分」というのは最も分かりやすく「どんなモノが刺さるのか想像がつきやすい」ターゲットですよね?
ですがそれは「自分とは真逆の存在には作品が刺さらない」ということでもあります。
「今のままでは足りない、もっとターゲットを広げたい」と思ったなら、その「広げたい分」のターゲットについて「リサーチ」して「想像を広げる」ことです。
(ビジネスの現場でよく行われている「マーケティング」と同じです。ただ、この「リサーチ」「想像を広げる(分析する)」ということ自体なかなか難易度が高く、プロでも読み誤ってしまうくらいなのですが…。)
ずっと同じターゲットへ向けて小説を書き続けるのも1つの道ですし、試しにターゲットを変えて試行錯誤してみるのも1つの手です。
ちなみに自分の場合、同じ「中高生」をターゲットに据えた作品であっても「学生当時のサブカル好きな友人たちに読ませたい作品」と「思春期まっただ中の頃の自分に読ませたい作品」とでガラッと作風を変えています。
(前者はノリ重視のコメディ(上)。後者はバリエーションを豊富に取り揃えたオムニバスのシリアス(下)。↓)
※今回の記事で利用させていただいたイラスト素材はコチラ↓。
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