感想 戦国武将伝西日本編 今村翔吾 戦国武将の秘話を集めた短編集、最後の将軍足利義昭の話しが秀逸。
こういう戦国武将の逸話を短編にした作品は司馬さんに多いが
西と東の武将で、二冊の短編集をという企画は、いかにも今村さんという感じがした。
◎目次
[広島県]十五本の矢――毛利元就[島根県]謀聖の贄――尼子経久[山口県]帰らせろ――大内義興[奈良県]九兵衛の再縁――松永久秀[佐賀県]老軀、翔ける――龍造寺家兼[岡山県]宇喜多の双弾――宇喜多直家[滋賀県]四杯目の茶――石田三成[大分県]雷神の皮――戸次道雪[三重県]何のための太刀――北畠具教[兵庫県]未完なり――黒田官兵衛[鳥取県]夢はあれども――亀井茲矩[宮崎県]泥水も美味し――伊東祐兵[長崎県]海と空の戦士――有馬晴信[熊本県]小賢しい小姓たちよ――加藤清正[和歌山県]孫一と蛍――雑賀孫一[京都府]旅人の家――足利義昭[大阪府]土を知る天下人――豊臣秀吉[香川県]三好の舳――十河存保[高知県]土佐の土産――長宗我部元親[愛媛県]証を残す日々――加藤嘉明[鹿児島県]怪しく陽気な者たちと――島津義弘[沖縄県]三坪の浜の約束――謝名利山[徳島県]古狸と孫――蜂須賀家政[福岡県]立花の家風――立花宗茂
本書の魅力は人物の描き方にあると思う。
当然、著者のリスペクトもあるのだが、魅力が爆発している。
知らなかった話しも多い。
例えば、毛利と言うと3本の矢の話しなんだが、本当は15本の矢だったとか・・・
確かに、猛将の吉川元春なら三本なんて折るし、10本でも小早川隆景の智謀があれば梃の原理を使えば折れる。しかし、妹たちや親族同様の家臣たち15本の矢になると意味は違う。毛利元就は三人の兄弟だけでなく、妹たちの嫁ぎ先や古くからの家族同様の家臣まで一つと考えていたのだ。そこが、この毛利の話しの魅力だった。
秀吉の話しも魅力的だ。ここには秀吉の人がよく描かれていて、雰囲気は司馬さんの書く秀吉に似ている。司馬さんは、秀吉が好きで家康はそんなに好きでない。秀吉をだから魅力的に描いている。本作もその傾向が強い。中村という出身地の農民とのやり取りを描いたもので、祝辞があるたび、秀吉の故郷中村から祝いの牛蒡が届き、秀吉は大げさなくらい歓喜する。しかし、別のモノを届けた時、豹変し怒る。ここに秀吉の原点がある。中村の牛蒡を食い歓喜することで、彼は自分が農民だった過去を思い出し自分に戒めていたのだ。そういう秀吉は魅力的だった。
足利義昭の話し、これが本作の僕のベスト1だ。足利義昭というと印象が悪い。裏切者、クズ、無能という印象が強いが、織田との離反の話し、隠遁地にやってきた秀吉に、自分を養子にし将軍を譲ってくれ、そうしたら足利家をないがしろにしないという破格の申し出を拒絶した話し。どうして彼は拒絶したのか、そこに足利義昭という人物のアイデンティティを感じた。そこを小説にした今村さんはすごいと思う。細かいディテールまで描かれていて義昭が見事にここに再現されていた。名作と言える短編小説だと思う。
2023 12 13