感想 炎環 永井 路子 北条家の黒歴史が凝縮された、この短編集を読むと鎌倉幕府が色んな人たちの欲望の末に成立した政権であったのがわかるのです。
もしかすると、この作品は大河ドラマ 『鎌倉殿の13人』 のベースになったのかもしれない。
頼朝と息子たちの活躍する裏で暗躍する、北条家の人たちの姿を見事に閉じ込めた骨太な短編集です。
時代は、頼朝が幕府を開く前から、承久の乱で武家が天下を事実上掌握する瞬間までが、4つの短編で描かれていて、全成、梶原景時、阿波局、北条義時の4人の視点に立ち鎌倉幕府の初期のそれぞれの欲望や視線を描き出しています。
いもうと という短編が秀逸で、主人公は北条政子の妹の阿波局です。
のほほんとしたキャラかと思いきや、実朝の後継人を引き受けたことで、一時期、姉よりも権力が勝ったこともあるという女性。その幸せも束の間で、実朝が甥に殺害されるという悲劇ですべてを失います。
全成は、僧で頼朝の弟、阿波局の夫であり、平家との闘いから外された居残り組。彼の権力欲は闇が深く、もしかすると、この登場人物の中では一番腹黒いキャラなのかもしれない。悪善師というタイトルの主人公ですが、タイトル通りだと思います。
炎環 というタイトルが意味深です。
鎌倉の御家人は、印象よりもバラバラだったと思います。その心を繋ぎとめていたのは領土の安堵と安定。だが、個々の権力欲は旺盛で、全成や妻の阿波局夫婦だけに限らず、常に、裏切りを繰り返している。その中でも、北条父子、時政と義時の暗躍は凄まじいものがあり、彼らにとっては、頼朝の息子たちなど、ただのお飾りに過ぎなかったとわかります。
この血みどろのの殺戮の歴史こそ、いざ鎌倉なのかと思いました。
著者の永井さんが、この物語集のタイトルを 炎環 にされたのが納得できます。
炎のような欲望の循環の末に、生き残った勝者が北条義時だったということなのです。
2024 9 8
+++++
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?