感想 いずれすべては海の中に サラ・ピンスカー フィリップ・K・ディック賞を受賞した異色短篇集。読みにくいが、とても面白い。
まず、この作品集はたくさんの賞に絡んでいるということをお伝えしたい。
2020年度フィリップ・K・ディック賞受賞作
2020年度ローカス賞短篇集部門候補作
2020年度世界幻想文学大賞候補作
短編集で、ジャンルは、SF、幻想、ミステリー、ファンタジほと多岐にわたっています。
【収録作品一覧】
「一筋に伸びる二車線のハイウェイ」(2015年度ネビュラ賞短篇部門候補作)
「そしてわれらは暗闇の中」
「記憶が戻る日(リメンバリー・デイ)」
「いずれすべては海の中に」(2017年度ネビュラ賞短篇部門候補作)
「彼女の低いハム音」
「死者との対話」
「時間流民のためのシュウェル・ホーム」
「深淵をあとに歓喜して」(2014年度シオドア・スタージョン賞短篇部門受賞作、ネビュラ賞中篇部門候補作)
「孤独な船乗りはだれ一人」
「風はさまよう」(2018年度ヒューゴー賞中篇部門候補作、ローカス賞中篇部門候補作、ネビュラ賞中篇部門候補作)
「オープン・ロードの聖母様」(2016年度ネビュラ賞中篇部門受賞作、ヒューゴー賞中篇部門候補作、シオドア・スタージョン短篇部門候補作)
「イッカク」(2020年度ローカス賞中篇部門候補作)
「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」(2016年度ヒューゴー賞ノヴェラ部門候補作、シオドア・スタージョン短篇部門候補作、ローカス賞ノヴェラ部門受賞作、)
幻想小説というのは、あまり馴染みがないのですが・・・
とにかく読みにくい。
例えば、「一筋に伸びる二車線のハイウェイ」ですが。
最新の義手が道路と繫がった男の話しです。
よくホラーに、心臓移植して、その心臓が前の持ち主の記憶を持っていて
事件が解決したり殺人事件が発生したりするのですが・・・・
最新式の義手だから、AI搭載。
どうも前は、カーナビだった?
だから、手が道路と繋がってしまう。
発想は斬新ですが、実際に読むと何これ?
って感じです。
くじらの車で旅をする話し「イッカク」
世代間宇宙船の中で受け継がれる記憶と歴史「風はさまよう」
「いずれすべては海の中に」、この作品は構成がよくて、最初は漂流民とそれを助けた人の話しに思えたのですが、だんだんと世界観が見えてきて、その世界が世紀末。どんどん海に侵食されている世界だとわかるのが面白い。
「彼女の低いハム音」は、祖母そっくりのロボットとともに父と三人で国を脱出する話しは、とても興味深かった。
「死者との対話」は発想がいい。猟奇殺人のあった呪われた屋敷を箱庭で再現。AI搭載なので、その現場が再現されたかのようになり大評判に、これは発想が面白い。
人は謎解きを愛する。それは自分が賢いという気分を少しだけ味わえるから。
この言葉が好きです。
「深淵をあとに歓喜して」は完成度が高い短編です。夫が脳梗塞になり死ぬまでの時間、過去の記憶を思い返したりして、夫の性格が変化したことを思い出す。死ぬ時に人は走馬灯のように自分の人生を振り返ると言いますが、本作は奥さんが振り返る。そこにある熱い思いがちょっといい感じ。
「孤独な船乗りはだれ一人」は、港にセイレーンが出て、出港できなくしている。男の子を連れていると被害を回避できるということである男の子?が・・・・。
「オープン・ロードの聖母様」は、近未来、ライブは廃れホログラムでのライブが多くなる。そんな中、極貧に耐えながら昔は有名だったアーティストが生ライブにこだわる様をロックな魂で描いた秀作。かなり面白いです。
一番好きな作品は、そして(Nマイナス1)人しかいなくなったです。
アガサ・クリスティーの名作をどこかで意識していると思う。
本作はSFだ。ある島に、異なる時間軸から集まったサラたちが集結する。全員が同じ顔のサラ。数百人のサラ。しかし、時間がぶんきしているので職業はまちまち。性格も少し違う。そんな中で一人のサラが殺される。
この作品の優れたところは、殺人の動機です。
同じサラなのに、歴史が違う。
その差異が謎解きのヒント。
このミステリーは、読まなきゃいけないレベルの作品。
この作品だけでも価値があります。
2022 7 28
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