#109 [読書レビュー]青木世界観(著:青木宣親、尾崎世界観)(文芸春秋刊)
昨年、惜しまれつつ引退した、元プロ野球選手、青木宣親とミュージシャン、尾崎世界観のクロストーク対談本。
対談形式というか、尾崎がインタビュアーになって、青木の野球の話を引き出しています。尾崎の音楽の話は控えめに、青木の野球論がふんだんに盛り込まれた内容となっています。
青木宣親といえば稀代のヒットメーカー。日米通算2723安打は、イチロー、張本勲、野村克也、王貞治に次ぐ第5位。この数字だけ見てもとてつもない記録だというのがわかります。
大きなけがも少なく21年の現役生活を終えました。映像だけ見ていると、とにかく打ちまくって、天才打者のように順風満帆に見えますが、やはり一流の選手といえども泥臭く努力していることがこの本を読むとわかります。
高校で注目されたわけでなく、甲子園の出場もなく、早稲田に進学してからプロのスカウトの目に留まるようになりました。決して体に恵まれているわけでもない選手が21年間の長いプロ生活を全うできたのは、やはり己を知ること、己の強みを生かし、正しい努力を積み重ねてきたからなんだと思います。
私がもつ青木選手の印象。一言でいえば、「プレーやバッティング技術を言葉で説明でき、課題解決のために正しいアプローチができる選手」というところでしょうか。とてもクレバーですね。ヒットの打ち方を理論で説明できる選手は青木とイチローくらいじゃないかと思います。イチローと共に努力の天才。
「行ききる」「当て感」など、青木独自の言葉が随所に出てきます。それが読者に与える納得感がすごいのは、彼が非常に言語化能力に長けているからだと思いました。
「引退」の章では幼少期に近鉄の選手と触れ合ったエピソードが印象的でした。青木の出身地宮崎の日向市に近鉄バファローズが春のキャンプで来ていた時に、当時小学生の青木はキャンプを見に行きます。
プライアントにだっこされた話や、野茂英雄に近所のスーパーで遭遇した話はとても興味深かった。レジェンドmeetsレジェンド。
あと印象に残ったのは、尾崎世界観の野球とスワローズに対する愛と情熱。ここまで深く野球を見たり、ひいきの球団を応援することは、なかなかです。私はまだまだ浅いなと思います。
今度は青木が尾崎をインタビューして、ミュージシャンを深堀りして、「尾崎宣親」という本を出してほしいと思いました。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。