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#114 [読書レビュー]劇場(又吉直樹 著)(新潮文庫)
お笑い芸人の枠を超え、多方面で活躍する又吉直樹の恋愛小説。芥川賞受賞作の「火花」に次ぐ2作目の長編小説です。又吉さんの長編といえば「火花」や「人間」を思い浮かべますが、私はこの「劇場」という作品が一番の推しです。
第2図書係補佐の「杳子・妻隠」、東京百景の「池尻大橋の小さな部屋」という2つのエッセイ。原宿の古着屋をでたところで出会った女性にアイスコーヒーをおごってもらうシーンがある。やがてその女性と交際をすることになるが、女性は東京に弾かれ、田舎に帰ってしまう。
「池尻大橋の小さな部屋」は東京百景の中でもとくに人気の高いエッセイ。「劇場」は又吉さんの原体験、原宿から始まる出会いから別れまでをフィクション作品に昇華した私小説です。
自分が自然と主人公の永田に投影されて、読んでいてこちらが苦しくなって読み進めるのがつらくなるほど胸が締め付けられる描写がたくさんありました。
又吉さんの内面をエグるような筆致がものすごすぎて、すごいとしか言えません。感想や書評を書くのはおこがましく感じられます。ただこの芸術作品を体で感じて存分に味わえばそれでいい。そんな純文学作品でした。