冬夜の特等席、火鉢おでん紀行
起きた炭灯りの上にのせるおでん鍋。
炭の香りに包まれた部屋で、今宵の主役は大根と牛すじ。
外は冬の冷たい風、窓ガラスに白い息がかかる。そんな夜、火鉢の前に座るだけで心がじんわりと温かくなる。
おでん鍋の蓋を開けると中には大根。黄金色の出汁を吸い込み温かみのある透明感のある身質。牛すじは見るだけで感じるほろほろと柔らかく煮込まれている。
この牛すじは、スーパーで見つけた佐賀牛の牛すじを
この夜のために二日間かけてじっくりと煮込んだもの。
一日目は一度水と酒で下茹でをし、余分な脂と臭みを丁寧に取り除き、その後くし打ちをする。
次に、清らかな水と出汁を合わせた鍋に移し、弱火でくつくつと煮込む。その間に出汁が牛すじに染み渡り、柔らかさと深い旨味を纏っていく。
二日目も同じように煮込み、肉がほろほろと解けるまでじっくりと火を入れる。その手間と時間が、牛すじの格別な美味しさを生み出している。
この冬の風物詩を味わう前に、ちろりで燗をつけた熱燗を一杯。
おでん鍋の中でそっと温めると、酒がゆらりと香り立つ。
湯呑みに注ぎ、湯気を顔で感じながら一口含む。
その後は、酒を出汁で割る。これがまた絶妙である。
酒の芳醇さと出汁の旨味が一体となり、まるでスープのような深い味わいが口の中に広がる。
こうしてじっくりと飲む酒が、火鉢のそばで過ごす時間をさらに豊かにしてくれる。
箸を取り、大根に向かう。よく煮込まれた大根は箸で軽く押すだけで切れるほど柔らかい。
その断面からは、じんわりと出汁がしみ出してくる。口に運ぶと、舌の上でふわりと解ける。
まるで冬の雪が春の陽射しで溶けるような儚さを感じる。
柚子胡椒を少し添えれば、爽やかな香りとぴりりとした辛味が大根の甘さを引き立てる。
次に牛すじを一口。これもまた、じっくりと煮込まれた証拠に、箸で簡単にほぐれるほど柔らかい。口に含むと、ほろほろと解けていく。
牛の旨味が濃縮されたその味わいに、自然と目を閉じる。
ここではカラシの出番。少し辛味を添えることで、牛すじの脂の甘さが際立つ。
一品づつ、そして一口づつ、調味料を変えながら楽しむ。
それが火鉢で温めるおでんの愉しみ。
柚子胡椒やカラシだけでなく、時には七味を振りかけてみたり、少量のポン酢を垂らしてみたりと、組み合わせの可能性は無限大。そうして自分だけの特別な味を探していく時間もまた、贅沢なひととき。
時間とともに出汁が少し濃くなった頃、再び酒を注ぎ、出汁で割る。
残った出汁の旨味が酒に溶け込み、どこぞの高級なスープのように。
これこそおでんの中の心地よい締めの時間。
火鉢の炭火が少しずつ弱まり、部屋の明かりも柔らかくなる中、満足感と共に心地よい眠気が訪れる。
火鉢の前で楽しむおでんは、ただの料理ではない。
それは冬の夜に心と体を温め、贅沢な時間を与えてくれる小さな儀式。
この儀式を終えた後、いつも思う。
次はどんな具材を火鉢で、おでん鍋で煮込もうかと。
この冬の夜長に、まだまだ楽しみは尽きない。
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