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書のための茶室(五):ふたつの茶室案

・・・オンラインでの打ち合わせとなりました・・・

山平昌子(以下、昌):こんばんは。三尋木さんが茶室の案を考えてきてくださったそうですよ。根本さん、何を食べてらっしゃるんですか?
根本知(以下、知):あ、これですか、虎屋のひとくち羊羹にワインを合わせてます。
昌:美味しそう。かつ、お洒落。さすがです。三尋木さん、その壁にずらっと貼ってあるのは・・。
三尋木崇(以下、崇):先日お見せしたおこし絵を、壁に貼っているんです。
昌:
収納と閲覧性を兼ねているんですね。素晴らしい。

ふたつの茶室案

崇:今日は、根本さんのご希望と、これまで見てきた茶室を参考に、案を考えて来てみました。
知:ありがとうございます。
昌:根本さんの「書のための茶室」は、書の見るための、三つの空間を作りたい、という話でしたよね。
崇:はい、うかがったご希望をもとに、2つの案を作成しました。一つは、要望をコンパクトにまとめた「ビルギャラリー:坪庭」タイプ、もう一つは、庭園の中にあるイメージでデザインした「庭園美術館:屋外庭付き一戸建て」タイプです。それぞれご説明しましょう。
昌:いよいよ・・!

2タイプの茶室イメージ

ビルギャラリー:坪庭タイプ

崇:ビルギャラリー:坪庭タイプは、1辺約9m、約90㎡角の空間に3つのギャラリーを、お互いが直接見えないように、かつコンパクトな動線でつなぎました。
昌:大きめのマンションの部屋くらいの大きさかな。
崇:
そうですね。建物中央にはギャラリーの特色となる坪庭を入れこみ、市中の山居ならぬ「都市の緑蔭」をデザインテーマにしています。

~三尋木さんはデザインスケッチをもとにご説明くださいましたが、まだ作成途中とのことなので、簡単なイメージをもとにお楽しみください~

坪庭タイプの動線イメージ

①エントランスギャラリー
エントランスの扉を開くと、1間幅の玄関、少し低い天井の先に浮かび上がるようにエントランスギャラリー(図中Gallary1)を設けます。足元を照らす間接照明の中、床へ向かって歩いていくことで茶室へ向かう気持ちを盛り上げていきます。
エントランスギャラリーは、上部からの光に満たされた漆喰の空間で、鏝の微細の凹凸が書を浮き立たせると考えています。
知:ここに一文字めが入るわけですね。

②ガーデンギャラリー
崇:エントランスを通り抜けると方形屋根の天井まで見渡せる開けた空間があります(図中Gallary2)。天井は高台寺傘亭や篠原一男のから傘の家のような昇り梁が見える特徴的な空間です。

昌:三角屋根みたいな天井のイメージなんですね。ビルやマンションでもそういったことはできるんでしょうか。

崇:天井高さがあれば出来ます。ここは妄想力を発揮してきましょう。
右手側には、坪庭があり季節の樹木が植わっています。ここでは各季節にふさわしい茶花にもなる草花もあるとよいでしょう。小さな起伏を持った微地形、微気象を持った空間です。上部には突き上げ窓ならぬトップライトから光が入り、坪庭を照らします。
その一角に、壁一面を使ったガーデンギャラリーがあります。やさしい光の中、書を自然の光、自然の庭を堪能する空間です。「光が落ちてくるような」、と以前におっしゃっていたイメージですね。ここまでは一人ずつ、自分のタイミングで書と空間を堪能し進むことを想定しています。
知:ビルやマンションでも最上階なら自然光を天井から取り込むことが可能ですね。
昌:京都祇園の、何必館のイメージに近いかも知れないですね。都心に何気なく建つビルに入ると、中は光溢れる空間で書とお茶を楽しめる・・・素晴らしい空間になりそうです。

③腰掛ギャラリー
崇:庭の奥には腰掛空間があります。袖壁がでて少し囲われた感じを出しています。茶室に入る前の心と体の準備をする場所、そして相伴する客がそろう場所になります。ここが二つ目の文字の展示場所になります(図中Gallary3)。
腰掛右手の壁は、料紙を張った壁を考えています。トップライトからの光できらきらと光り、料紙によって場所の雰囲気を作り出すことを想定しています。料紙は季節や迎える客など亭主の思うタイミングで張り替えられるとより特徴的な空間になると考えています。
知:紙を使うというのは、書家として工夫がしがいがありそうです。展示の内容に合わせて紙を変えるということもできそうですね。
崇:腰掛正面の壁は、ピクチャーウィンドウのような床を想定しています。壁いっぱいの大きな開口を作ります。

露地
腰掛から左手側に向かうと茶室へ向かう露地になります。左の壁際には蹲があり、右側は坪庭が見えます。蹲には水琴窟を仕込み、手と口を清める際にでる音で来客を迎えます。茶室に向かう飛石は、エントランス、ガーデン、腰掛、露地と場所ごとにパターンを変え、茶室に向かう雰囲気を盛り上げていきます。

④茶室
さて、いよいよ茶室です。四畳半で計画しています。水屋を広めに取って、茶事にも、ちょっと一杯の茶席にも使える小間、広間どちらの性質も併せ持つ四畳半が、根本さんのはじめての茶室にはふさわしいと考えています。茶室の内装は、この後決めていきましょう。

庭園美術館:屋外庭付き一戸建てタイプ

崇:こちらの案は庭園に囲まれた茶室のイメージです。

庭園美術館:屋外庭付き一戸建てタイプ動線イメージ

昌:横浜の三渓園や東京・目白台の肥後細川庭園のようなイメージですね。

崇:玄関から茶室までを、書の歴史を踏まえながら歩いていけるようなことができれば面白いと思っています。

①玄関:中国書斎

崇:まずは書の起源である中国をイメージした玄関です。玄関の床は石張り、壁は白漆喰、南側の庭に面した床から天井まである扉は腰まで板、上部は中華格子で、格子からはやさしい光が入ってくるイメージを持っています。入口の左側に机がありその横の壁には書を掛ける場所です。板床的な空間です。北側の壁は全面ガラスで、隣の部屋まで伸びる、いわば枯山水の庭があります。

②ホール:会所、九間
崇:ホールは18畳の石張りで、ここまで下足で入れることを考えています。書院の中ではオーソドックスなサイズのスペースと言えるでしょう。

西側に大きな床空間を設けたホールは、机を入れれば教室に、立礼席を入れれば茶席にと多目的な使用を考慮した広さになっています。九間は、三間四方の空間で日本の住宅建築の基本形(※1)とも言われております。足利義政東山御殿会所、円城寺光浄院客殿など多くの建物で使われていることが示されています。ここではその基本空間を体感することを目的にしています。
南側には、中華格子の折戸を用い開け放てば深い庇の下、庭と一体的な空間になります。

③廊下1
畳み敷で、寄付きまでつながる1間幅の広い廊下です。ホールの西北から靴を脱ぎ上がっていきます。正面に奥行きの小さな飾り棚があり、ここも書を飾ることができる空間になります。

④書斎:2畳
廊下の先にある3畳の空間です。1畳は床になっていて書院机と庭を望む窓が端から端までの通っており部屋の広さ以上の間隔を持てる場所です。畳は黒畳とし、作品造りによる炭の汚れなど気にせずに行える仕様としたいと考えています。

⑤書院1、書院2
書院造の部屋が続き間として配置されています。東西の壁に床があり、ここには王道の書院建築、床、棚、書院をイメージしています。続き間として使ってもよいし、大寄せの茶会の際は、寄付きと本席としても使える多目的な部屋になっています。

⑥廊下2
書院と庭の間の廊下は、廊下1と続きの1間幅の畳敷きです。池泉式回遊庭園を望むこの場所は、春から初夏など気候良い時には扉をあけ放ち、水の音、虫の声など五感を刺激する空間となります。歌会などができるようにと考えています。低い手すり越しに床下まで入り込んだ池を泳ぐ鯉を見ながら涼をとる、そんな素敵な空間です。廊下といいながらも室内とひと続きな空間。知:うわー。素敵。
昌:曲水の宴もできますね。もはや庭というよりも、貴族の私邸、という趣ですね。

⑦寄付:数寄屋建築
廊下突き当りは、茶室の寄付となります。
こちらには残月亭の写しを想定しています。書院の障子に映る葉の影を見ながら、本席までの時間を過ごします。

⑧茶室
4畳半茶室には、躙り口と貴人口を設け海外からの来客にも無理なく利用していただけるように配慮しています。突出し窓からは庭の梅の枝が見える構成(遠山邸を参考)をぜひ取り入れたいと考えています。
水屋は4畳の広さを取り、懐石を伴う茶事にも対応した計画としています。

知:
こういうの、作りたいです。書の歴史を肌で感じられる、というところも素晴らしいし、来ていただいた方が外の空気を感じながら書を書ける空間があることも素晴らしい。

坪庭付きビルギャラリーか、庭園美術館か

崇:特に茶室の細かい部分は今後詰めていくこととしますが、まずはこの大きな2案のうちどちらが、根本さんの作りたい茶室に近いのかの方向性を知りたいんです。
知:贅沢な選択肢ですね・・。庭園内の美術館のようなことは、いつか実現したい、夢の世界ですよね。単に展示する、というだけでなく、いろんな人が肌で感じられ、体感していける。
昌:場所はどのあたりがいいんでしょうねえ。ビルの方は、借景ができる場所がいいなあ。六義園や有栖川公園のそばなんか、最高です。庭園なら、少し都心から離れた場所安曇野もいいなあ。
知:当初僕が考えていたイメージと近いのは、コンパクトな坪庭ビルギャラリータイプです。だからこの企画で掘り下げていくとするとそちらの方がいいんじゃないかな。
崇:では次回はビルギャラリー:坪庭タイプを掘り下げてみましょうか。
知:実際どんな感じになるんだろう。
昌:そういや賃貸マンションの中に茶室作っちゃった人、いるよね。
崇:いますね。
昌:実際に見てみるとイメージが広がるかもしれませんね。じゃあ次回はお宅訪問にしましょう!三尋木さん、手土産にHARUのコロネ、お願いします!

※1:出典・・神代雄一郎:間・日本建築の意匠

三尋木 崇(みひろぎ たかし)
「五感を刺激する空間」をテーマに、建築と茶の湯で得た経験を基に多様な専門家と共同しながら、「場所・時間・環境」を観察し、“そこに”根ざした人、モノ、思想、風習を材料に“感じる空間体験”を作り出す。 普段は海外の大型建築計画を仕事としているため、日本を意識する機会が多く、そこから日本の文化に意識が向き、建築と茶の湯を足掛かりに自然観を持った空間を発信したいと思うようになり、活動を開始した。 2009年ツリーハウスの制作に関わり、2011年細川三斎流のお茶を学び始めてから、野点のインスタレーションを各地で行う。 ツリーハウスやタイニーハウスといった小さな空間の制作やWSへの参加を通して、茶室との共通性や空間体験・制作のノウハウを蓄積している。
毎朝、「朝ごはん作ってー」と2歳の子が抱き着いてきます。朝ごはんのレパートリーがなかなか増えない。


根本 知(ねもと さとし)
かな文字を専門とする書家。本阿弥光悦の研究者でもある。2021年2月、「書の風流 ー 近代藝術家の美学 ー」を上梓。
イソジンの喉うがいは、殺菌のためだけでなく、味としても好きなので日課となっています。そして、たまにバーテンダーに「もし、イソジンでカクテル作るなら?」と聞いたりして、盛り上がっています。

山平 敦史(やまひら あつし)
鹿児島県出身。フリーランスカメラマンとして雑誌を中心に活動中。
好きな寿司ネタはイカかイワシ。すきやばし次郎で次郎さんに握ってもらったお寿司が忘れられません。

山平 昌子(やまひら まさこ)
茶道を始めたばかりの会社員。「ひとうたの茶席」発起人。
地元愛媛県、今治のお寿司がおススメ。でも一番好きなのはかっぱ巻き。

(文:三尋木崇/山平昌子 写真:山平敦史)







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