【ハワイ島の不都合な真実】リサイクルゼロの実態
「レスポンシブルツーリズム」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか? これは観光客のひとりひとりが、自身も観光地の生態系や環境へ負荷をかけてしまっているかもしれないという主体性を自覚と持って、責任ある行動をするべきという観光のあり方を提唱する言葉です。
もはや「旅の恥はかき捨て」はできず、見て見ぬふりはできないということです。
今回ハワイ州立自然エネルギー研究所(Natural Energy Laboratory of Hawaii Authority、英文略称:NELHA)に取材に行ってきたのですが、あまりにもハワイ島のリサイクル事情について無知すぎたと、反省することしきりでした。
例えば観光客の方々にも人気のこの大容量のペットボトルのお水。40本で$6.49、1本あたり16セントという破格の値段で観光客にもローカルにも大人気ですが、なんとこういったドリンクなどのプラスチックボトルはリサイクルされることなく、すべてハワイ島に埋め立てられているそうです。このパッケージに100%リサイクル可能と書かれているにもかかわらず、です。
ハワイ島のリサイクル事情
そもそも論として、リサイクル可能として販売していても、売った先でリサイクル体制が整っているかどうかを把握しておく責任は販売側にはないので、さもありなんという状況。そして消費者側の言い訳としては、リサイクル可能と書かれているプラスチックをリサイクルに出した以上は、無思考にリサイクルされていると思っていました。
リサイクル施設がないハワイ島にとって、リサイクルするために本土に送るコストが甚大になっており、郡の財政事情を逼迫させるため、かつ、リサイクルで捨てられたプラスチックの1/4は汚れているためそちらの選別にもコストがかかっていたそうです。
そのためハワイ島では、2019年10月16日からずっとプラスチックや廃紙はリサイクルされることなく埋め立てされ続けているそうです。
今回取材させていただいたのは、NELHAの直系NPO団体であるKEAHOLE Center for Sustainability。こちらでは様々な学生のインターンの受け入れを行なっていたり、海洋深層水をエネルギーに利用する研究、そして島の生物多様性・生態系と保全科学などの広報・啓蒙活動を行なっています。
こちらがKEAHOLE Center for Sustainability(KCS)のエグゼクティブ・ディレクターである、キャンディ・L・エルスワースさん。保全生物学者(Conservation Biologist)でもあります。
「リサイクルと書かれたゴミ箱が街中に置いてあるのに?」
彼女にそう聞くと、
「リサイクルと書かれたゴミ箱にペットボトルを捨てるのは、とても良いことをした気持ちになるわよね。でも行き着くところはすべて同じ場所。美しいビーチの近くにある埋立地なのよ。」
そう言って衝撃的なビデオを見せてくれました。
それがこちらのビデオ。
これがハワイ島のリサイクルの現状です。すべてのゴミは埋め立てられ、地中に染み込み海に流れ出していきます。
カイルア・コナの中心地からほど近い場所に、ランドフィルと呼ばれる埋立地が存在しています。
この動画を制作したのが……
こちらがニッキ・モンテネグロさん。現役のHPA校生(高校2年生)ながら、KCSでのインターンシップを通じてハワイ島でのプラスチックボトルの廃絶を訴えています。美しいビーチを背景にしていますが……。
実はここはハワイ州一汚いビーチと呼ばれる『カミロビーチ』。ハワイ島南部の東海岸・サウスポイントに近い場所で、海流と地形の関係もあり、太平洋中のゴミが流れ着く場所として悪名高い場所となっています。しかもほとんどがプラスチックごみで、細かいマイクロプラスチックとなりハワイ島の海を汚染し続けています。
コロナ前後で単純比較は難しいのですが、年間200万人の旅行者がコナ国際空港に到着(トランジットも含め)しています。ほとんどの旅行客が滞在中に飲料用のペットボトルを買い、すべての旅行客がプラスチックのペットボトルをハワイに捨てて帰国の途につきます。
ちなみにハワイ島の住民数は20万0629人(2020年調べ)。彼女はハワイ島を訪れるすべての旅行客に、水筒を持ってきて欲しいと言います。
また、ハワイ島には42の学校があり、3000人の学生が学んでいますが、年間173日の登校日にすべての学生が水筒を持っていけば、519万本ものペットボトルが削減できるそうです。
そのため彼女のプロジェクトとして、安全な水がどこでも飲めるようなウォーターサーバーをハワイ島すべての学校に設置することが進められています。今年の3月にひとつめのウォーターサーバーが設置され、大いなる一歩を踏み出したところです、
リサイクル・リデュース・リユースがキャッチコピーになった時代もありました。しかしハワイのような孤島でリサイクル施設がない場所では、リサイクルは答えではありません。ハワイ島ではプラスチックボトルを使わない・買わない・捨てない、が周知されると良いなと思います。
NELHAとは?
と前置きが長くなってしまいましたが、ここでハワイ島のNELHAの詳しい説明をば。
コナ国際空港からほど近く、ほぼ隣接しているといってもよい870エーカー(東京ドーム73個分)、そして海岸から2平方海里という広大な土地と海域にあるハワイ州立自然エネルギー研究所です。
コナ国際空港からコナの街まで20分ほどですが、その車窓からHOSTパークの敷地内にあるKOYO USAや太陽光発電などの施設が見られます。敷地内に美しいWawaloli Beach Park という穴場のビーチがあるので、そちらを訪れるのもオススメです。
このエリアはハワイ海洋化学テクノロジーパーク(Hawaii Ocean Science and Technology Park)といい、その頭文字をとってホストパーク(HOST Park)と呼ばれています。そのホストパークでは、環境に配慮した持続可能な開発及び、商品開発が行われており、そこで展開する28の企業のうち、5つで見学ツアーが行われています。
見学ツアーはKEAHOLEを筆頭に、鮑やタコ、タツノオトシゴや海洋深層水から作った海塩ファームまで多岐に渡っており、ハワイ島に来られたら是非参加してみてください。鮑やロブスターなども原価で買えるので、近くのビーチでBBQなども出来ちゃいます。(オススメのビーチはオールドコナエアポート。BBQセットがあるので予約して活用してください!)
見学ツアーの一覧
HOSTパークにおける企業一覧
入り口はなかなか入りにくい風情なのですが、こんな立派なロブスターが$60で買えてしまうKONA COLD LOBSTERS, LTD.。海洋深層水で育てています。
こんな大きく身の詰まった蟹も脅威の$40! 月曜日から木曜日までは午前8時から正午、金曜日は午前8時から午後2時までオープンしています。
このNELHA(ハワイ州立自然エネルギー研究所)が運営するHOSTパーク(ハワイ海洋化学テクノロジーパーク)ですが、その研究所と企業が依拠している【ハワイ島の海洋深層水】という基幹の部分についてご開帳してみます。
ここからはまたキャンディさんにご登場いただきましょう。
ハワイ島で行われている次世代発電方式とは?
米国海軍の特別プロジェクト事務所の主任科学者だったジョン・P・クレイヴン(John P. Craven)博士がハワイ州議会の要請により、1974年に設立したのがこのNELHA。
こちらのスライドにある青いライン、これが海洋深層水を取水しているパイプラインです。海水の表層に3本、深層に3本パイプが引かれています。その深層3本のうち1本は水深914メートル、他2本は水深609メートルのところに引いてあります。
こちらのパイプラインが示す通り、ハワイ島西岸のコナは海岸からすぐの沖合が急激に深くなっているので、深層水にリーチするまでの距離が短くパイプ設置コストが格段に安く済むそうです。900〜2000年かけてグリーンランド沖から5万キロもの距離をゆっくりと移動しながらハワイ島まで辿り着いた最高純度の海洋深層水なのです。そういった点で、世界でも唯一の場所であるとキャンディーさんは語ります。
そもそも海洋深層水ができる仕組みとしては、グリーンランドなどの北極付近では海水が強風と低温により0度近くに冷やされ表面で氷となります。それにより塩分濃度の高くなった重い海水は、海の底深くと次第に沈んでいき、深海1000メートルまで辿り着きます。水深200mよりも深い水深帯を深海と呼びますが、植物プランクトンが太陽光で光合成できる限界が水深200mだからだそうです。
1000メートルでは一般に中層と呼ばれる深海ですが、なんと地球上の海全体のうち、約95%が深海。地球の半分以上が深海であり、ほとんど解明されていない未知の領域と思うと、ワクワクしますよね。
世界で初めてハワイ島で成功した次世代発電、OTECとは?
そんな未知の領域から一番近いコナの海岸。海洋深層水を使用して海洋生物を育てるだけでなく、画期的な未来型発電施設も2015年に完成しています。それがこちら、海洋温度差発電 (OTEC:Ocean Thermal Energy Conversion)です。
そのメカニズムは至極シンプル。太陽によって温められた表面の海水(25度)と、深海の冷たい海水(5度)の温度差を利用して、沸点の低いアンモニアを気化→蒸化→液化のサイクルで変化させることにより、タービンを回転させ発電します。
この海洋温度差発電は、天候に左右されがちな風力発電や太陽光発電に比べ年間を通じて安定した電力供給が可能になります。これは、天候に左右され連続運転が困難である自然エネルギー利用の風力発電や太陽光発電に比べ、際立った特徴です。
CO2を排出させない発電方式で、全世界で1兆kWの発電ポテンシャルを持ちますが、実はハワイ島のコナ以外にも8カ国で稼働している場所があります。
そのうちのひとつが久米島。久米島とハワイ島カイルア・コナは姉妹都市改め姉妹島だそうです。キャンディさんも久米島に過去2回ほど訪問し、OTECの技術提携を視察していることもあって、久米島にとても詳しく、久米島の海洋深層水で作られた化粧水が人生ベストだと仰っていました。
それではOTECの仕組みを動画で詳しくご紹介!
OTECの仕組み
こちらが実物!
このようにツアーの最後には、実物のOTECを見せてもらえます。大迫力のこの装置ですが、将来的には10分の1のスケールでもっと多くのエネルギーを稼働させることを目標としているそうです。
NELHAのツアーは下記から申し込めます!
https://kcshi.org/tours-kailua-kona/631-2/
コロナ禍を経て、2022年4月25日より再開されたこちらのツアー。そのなかでキャンディーさんが何度もおっしゃっていた「アイランド・レジリエンシーの向上」そして「観光の利便性を前提とした環境破壊をストップさせること」が急務だといいます。
このレジリエンシー(レジリエンス)は“復元力、回復力、弾力”と訳されている言葉で、大地震などの自然災害が起きて、企業や組織、事業もしくは国家機能が停止してしまうような事態に直面したときにも、影響を最小限に抑え、平常時と変わらぬ能力・サービス・製品を提供し続けられる能力のことを指します。
ハワイ島は太平洋の真ん中の孤島です。アイランド・レジリエンシーは30%ほどといわれ、もし大地震や台風が起きてライフラインが停止してしまった場合、18日間しか持たないといわれています。
そしてハワイ固有種の植物と動物の半数以上が絶滅危惧種です。地球上で最も絶滅危惧種が多い場所が、楽園と呼ばれるハワイです。誰にとっての楽園か、本当の豊かさを啓蒙するレスポンシブルツーリズムが、ここNELHAにはあります。
ハワイ島のような孤島でも持続可能なレジリエンシーを高め、そして環境にも優しくハワイの生態系を守りながら、少しの不便を不便と感じさせないのが、楽園ハワイ。
少しの手間をかけて水筒に水を入れて出かけた先で見るハワイの夕陽は、一段違う愛を与えられた気分になるはずです。ちなみにガラス瓶はまだハワイでもリサイクル可能ですので、もしどうしてもというときは瓶のチョイスをお願いします!
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