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バッハを聴く ミサ曲 ロ短調 BWV232

バッハ・コレギウム・ジャパンによる《ミサ曲 ロ短調》を聴きに行ってきました。

ミサ曲ってなあに?

聖書に記されている「最後の晩餐」において、キリストはパンをとり、「これはあなたがたのために渡される私のからだである」と言い、またぶどう酒の入った杯をとり、「これは私の血の杯、あなたがたのために流される新しい契約の血である」と言って、「これを私の記念として行いなさい」と弟子たちに命じました。

この「最後の晩餐」を再現し、キリストのからだである「パン」(聖体)と聖血(ぶどう酒)を拝領することを中心とした教会の儀式が「ミサ」です。カトリック教会の最も重要な典礼儀式のことです。

そして、ミサで毎回決まって用いる「通常式文」(ラテン語)の<キリエ><グロリア><クレド><サンクトゥス><アニュス・デイ>の5つに作曲したものを「ミサ曲」といいます。

バッハは<キリエ>と<グロリア>のみで構成された短いミサ曲を4曲(BWV233~236)と、5つの式文をすべて含む《ミサ曲 口短調》BWV232を残しました。

典礼文が、ラテン語でできていることには、大きな意味があります。ラテン語で唱えるかぎり、私たちは決して自分の個人的な感情をそこに注入して、典礼をゆがめることがありません。カトリック教会ばかりではなくルター派でも、バッハ時代には、少なくともキリエとグロリアの式文には、ラテン語が用いられていましたが、それは単に伝統を守るということだけではなく、常に個人の感情と切り離した、公的で中立的な典礼を維持する目的があったからに違いありません。

プログラムより

バッハが生涯で最後に完成させた作品

この曲は、全27曲中5曲は新作ですが、その他はバッハの過去の作品から転用・改作されたものです。第1部の<キリエ>と<グロリア>は、短いミサ曲として、ザクセン帝侯フリードリヒ・アウグスト2世に捧げるため1733年に作曲したものを、そのまま転用しています。
第2部の<クレド>と第4部の<オザンナ><ベネディクトゥス><アニュス・デイ><ドナ・ノビス・パーチェム>ですが、これらの楽章の大半も、過去の教会カンタータから、それぞれの歌詞にふさわしい音楽を選び出し、手直しして仕上げられたものです。
第3部の<サンクトゥス>も、本来はバッハが1724年のクリスマス礼拝のために作曲したものです。

1749年の秋、バッハは《ミサ曲 口短調》を書き上げました。
1748年の夏ごろから、バッハは急激に体調が悪化し、楽譜を書くことが困難になっていました。それゆえ、自らの死を意識し、作曲家としての最後の力を振り絞って《ミサ曲 口短調》の完成を急ぎました。ポリフォニーの技法を用いた合唱曲、器楽の華やかな楽章、当時流行したオペラのような楽章など、バッハの持つ声楽様式を全て振り返ったものと言われています。完成後、バッハの視力は急速に衰え、この曲が生涯で最後の完成された作品になりました。《ミサ曲 口短調》は、バッハの音楽人生における、文字通り集大成となったのです。亡くなる9か月前のことでした。今では、マタイ受難曲ヨハネ受難曲と並び、バッハの作品の中でも最高峰の曲として位置づけられています。

楽譜の最後に書いた『Deo Soll Gloria』のイニシャル。「ただ神の栄光のために」という意味で、バッハは世俗音楽を含めて主要な作品の全てにこの言葉を残しています。
2015年に、バッハの直筆の楽譜がユネスコ記憶遺産に登録されました。

《ミサ曲 口短調》は、バッハの声楽、合唱が本当に素晴らしいです。そして、第三部の金管楽器・打楽器付きの6声の合唱曲も実に華麗です。そしてそして今回も大好きなアルト(カウンターテナー)のアレクサンダー・チャンス@alexander_chancectの独唱がとにかく美しいのです。
(すっかりファンです🥰)

今回の演奏会を前に、友人から「鈴木雅明氏の指揮をよく見てみるといいよ」というアドバイスをもらいました。今回の席は3階の正面最前列でしたので、指揮をされている様子がとてもよく見えました。なるほど、手の動き、体の動きがそれぞれの音を導いてくれるのだということが改めてわかりました。特に手の指先から腕までの動きは、繊細さも、ダイナミックさも、そして各パートへの指示など、いろいろなことを伝えることができるんですね。これからはもっと指揮にも注目していきたいと思いました。

ちなみに、この曲はバロックフルートも大活躍します。
とても優しいメロディです。こんなふうに、歌と合わせて吹くって素敵だなあと思いました。ここだけ練習したい😊
グローリア 8. 二重唱(ソプラノ1 / テノール):主なる神 (32:26)



後半の映像のこちらもバロックフルートの出番です。
サンクトゥス 24. アリア(テノール):祝福あれ (36:13)


1年の振り返り

ところで、ちょうど1年前の今日9月27日、私は胆嚢摘出の手術をしました。
それまで病院で検査しても、痛みの理由がなかなかわからなかった、みぞおちあたりをきつく締めつけられるかのような、原因不明の痛みと苦しみに悩まされておりましたが、ある日、外出先でとても具合が悪くなって救急車で運ばれることとなり、その時、ようやく激しい痛みの原因が胆嚢結石と胆管炎によるものだとわかったのです。

そして、入院・手術をすることとなったのですが、その際に仕事の量を減らしたことがきっかけとなり、昨年11月に、この『music&words』というnoteを創っていくための時間を確保できました。つまり、もし入院するということがなければ、このnoteを始めることもなかったわけで、本当に人生って不思議なものですね。おかげさまで今は穏やかに暮らすことができていまして、大好きなコンサートに行くこともできて、本当に感謝の気持ちでいっぱいです☺️

私は《マタイ受難曲》も好きですが、《ミサ曲 口短調》の方がより好きです。どちらも素晴らしいですが、ドラマティックで感情を揺さぶられる《マタイ》より、決まったテキストによって作曲された《ロ短調》の方が落ち着いて聴けるからかもしれません。そして、バッハが最後まで頑張ってまとめ上げた集大成のこの曲は、私にとっても、今、生きているよろこびを味わい、大いなる活力をいただける、大切な曲となりました。


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