井桁容子インタビュー#1〜「食」好き嫌いのメカニズム〜
コロナのことで、Cedep(セデップ)東京大学の研究機関が調査したところによると、家で食事をする事がすごく増えたらしいんですよね。圧倒的にね。それがのコロナの影響では良かったこと。後は、食育と共食。共に食べる方の共食も増えてたということで、良い面がすごくあるんだけど、一方で1日3回食事作るのが大変だったって皆さんすごく苦痛だったってていう事です。お食事が作るのが得意な人はそれほどでもなくて、じっくり食べて良かったと思うけど、不得意な人が一生懸命子どもの為に作って、さあ食べてって言ったら「いらない!」と言われると、折角作ったのに…と。実はコロナの前から子育ての悩みの1番か2番をいつも陣取っているのが〝食〟の問題です。好き嫌いをどうするかっていうテーマになるんですよ。私もテレビの育児番組で食のコーナーを何度か担当したことがあります。体に良いからという親心なんですね。でも体に良い物でも、本人が美味しいって食べなきゃ栄養にはならないんです。腸がちゃんと吸収しなくなっちゃう。自律神経が緊張した状態では大人でも栄養にならずに戻しちゃったり、それこそお腹壊しちゃったりする。というところから言うと、やっぱり人間だけが〝心で食べる〟という事なんですね。動物はエサなのでお腹いっぱいになれば終わり。でも人間は一緒に食べる人とか、場所とか道具とかで食べる量が変わってしまう。それは人間だけなんですよね。なのでそのことも含めるとやっぱり人間というのは人と関わりながら食べることも何もかも関係してるんだなっていう事です。ただ美味しい物、栄養のある物をやっても体の中で吸収する気がなければマイナスになってしまう。なので〝美味しく楽しく食べる〟事が大事。
厚生労働省の食育ガイドラインにも「好き嫌いをなくす」って一行も入ってません。確認したんですよ。「保育園における食育ガイドライン」という冊子が出てます。全部見ました。「好き嫌いをなくす」は一行もない。何故かって言うと、ちゃんと科学者も「好き嫌いはある」と言っています。だって味覚だから敏感な人もいれば鈍い人もいます。嗅覚の優れて香りにすごく敏感な人は「ん?」って思う物もある。それはその人の感覚の能力なので、そういう事を考えたら好き嫌いをなくすってのは、あり得ない。味覚を馬鹿にするってことなので。幼児期は大人よりも味覚の敏感にできています。それによって嫌いとか、今は食べないとなる。これは食べない方がいいと思うという能力。あと苦味もね。舌に味蕾(みらい)というものがあって「味のつぼみ」って書くんですが、それが舌にいっぱいあって、二十歳になると壊れてくる。なので子どもの頃、食べられなかった物や受け入れられなかった香りも鈍くなってくるので食べられちゃうということなのです。だから大人は自慢してる場合じゃないんです(笑)。「あなたはまだセンサーが働いて良いわね」ってこと。子どもがピーマンは臭いから嫌だって言ったら「いいわね~」って羨ましがらなくちゃいけなくて「私もかつてはそうだったけど今はすっかり味蕾が壊れちゃって美味しく感じてちゃうの」って。味覚レベルが下がるから美味しくなっちゃう。それは老化現象なんだけれども、良いこともあって、美味しいものが広がって幸せが増える。上手くできてるんですよね。ということなので、食べられないことが駄目なことではなくて、食べられない状態というのは、体を守る為のセンサーとしてちゃんと機能しているということ。これを体に入れたら肝臓が毒消しをできないとか、腎臓の働きがまだ不十分とか、幼児期にはちゃんと苦味を感じる。アクってありますよね。野菜を茹でた時に黒い汁が出るじゃないですか。アクですね。生のまま食べたらそのアクを体に入れてることになるですよ。だから茹でて食べる。目に見えるほどのアクですから、子どもに取っては生野菜なんか食べられるもんじゃないってね。それを茹でてアクを取って食べさせているけれども、敏感な子どもは臭いがまだ取れてないよ、アクもまだ残ってるよわかる。大人はアクを全部取っちゃうと美味しくないから、ほどほどの苦味とか匂いとかを大人は楽しめる。だから子どもがわがままなんじゃなくて、未熟だからなんじゃなくて、敏感に味蕾の数が多いのでセンサーを働かせてるということなんですね。お父さんやお母さんも自分の幼い頃を思い出せばわかるはずなんだけど忘れちゃうのね。思い出してください(笑)。良く思い出してみてってね。保育者なんかも「頑張りなさい!食べなさい!一口ぐらい!」とか言う人たちに「じゃね、あなたは二十歳まで全部の野菜でも何でも食べられましたか?」と聞くと皆さん大きく首を振るんです。そうなんです、当たり前なの。逆に子どもの頃から何でも食べたい人っていう人は、ちゃんと味わかってますか?って。味覚に障害いがないのかっていうことぐらいに考えてもいい。そう言うとお母さんたちが「うちの子味覚障害かしら?」ってまた心配するので、そういうことでもないけれども、ただそういうシステムになっているとわかってほしいです。やっぱり子どもはゆっくり食べる。美味しい体験とともに広げてゆく。セキュリティを外してゆく。発達と同時に老化現象がやがって起こるので、それまでお楽しみにっていうくらいに考えてください。「いつぐらいに食べられるか、カレンダーに印つけると良いね」「その時に味蕾が消えて受けれられるようになったんだね~」なんて面白がってあげるとないいかなって思います。お母さん達が良いお母さんであろうと気負い過ぎてして、すごい頑張るんですね。その頑張りも含めて飲み込ませている。拒食症になったお子さんの話を聞くと、お母さんとの関係が結構あったりして。つまり食事が嫌だったんじゃなくて、大人の思いまで食べさせられてるというのが食事ってことなんですよね。命に関わるでしょ。なのでそういう意味では大人の思いを飲み込めない、つまりお母さんが自分に色んな期待をかけて、それを「うん」って言いなさい。「はい」って言ってすぐやりなさいっていうことまでも飲み込むことになるので、それができないってなった時に食べることが苦手だったんじゃなく受け入れて欲しかった。応答が欲しかった。なのに一方的なものを噛まずに飲み込んだ。すると辛くなるので食べることをやめてしまう。実は大人の思いが含まれてっていうことを子どもは承知で食べているんです。長い期間かけてプレッシャーをかけちゃう。拒食という症状に出てくるにはだいたい思春期ぐらいなので十何年もかかてるわけです。そうすると解いてあげるのに医学的な治療も必要になっちゃう。それを考えた時に、今の栄養事情で餓死することはないので、例えば人参が食べられなくてもカロテンは別の物で摂れるのでね。食卓を美味しくて楽しいと思えるような状況が最も味蕾が広がりやすいわけですから。これを食べないと次に行けませんと言うやり方は決して広がらない。お母さんの前では食べるけどお母さん見てないところでは踏んづけたり、捨ててしまったり食べたふりをしたりするっていう事もあります。そういう事って子どもにとっても心の問題がすごく大きくなるんですよ。食というのは命と繋がっているので。なので無理やりは絶対プラスにならない。
ある時保育者にね「だったら先生、食べない時はどうすればいいんですか?」ってね。私の講演の後に聞いてきたんですよ。30代くらいの方かな。「食べたくないんですもんね?」って私が聞くとね「はい!だからそういう時はどうすればいいんです?」っておっしゃるんです。「どうすればいいんですか?」って私が聞き直したのね。そしたら一瞬固まって「……ダメですよね~」って。つまり無理やりやっているって言えなくなっちゃったんですね。「無理やりは駄目ですもんね?」って。「そう、さっきお話ししましたね。だから無理やりはダメなの」。ども食べたくなる余韻を残すような配慮は必要で、一口食べれば良かったのにくらいは言ってもいいですけどね。後はこの間お部屋では食べなかったけど、テラスで食べるとかね。例えば雨で外に出られなくて家の中でしか過ごせない時なんかに、玄関先にシート敷いただけでも子どもはねピクニックな感じになるんですよ。それとか大きな器に大げさにちょっとしか入れないとか、それだけでも食べたいと思ったりする。やっぱり人間は心で食べるのかなって思います。無理矢理は何の栄養にもならない。特にこれからの時代は絶対に心が健康である人が生き残る時代です。だってAIと競争したって心を持ってる人間にはかなわないわけですから。心が不健康というのが最もリスクが高いんですよね。生きていく上でね。
食というのは心の育ちにもの凄く反映してしまうものなので強引に頑張って食べさせるようとはしない。そのことが他へのエネルギーにもなる。食べる意欲というのは、学ぶ意欲も人と関わる意欲も下げるんです。だってお腹すいたらまたあの辛い目にあうのかと思えば食べたくなくなります。すると全部に響いてくるんですね。そこを考えるとその食卓だけで終わらないんです。子どもの思いをきちんと受け止める方を優先することで絶対にわがままにはなりませんから。ただ極端な偏食の子がいますよね。でもそれも無理やりはダメなんです。敏感だから例えばその子がソムリエになるような子だったら色々わかっちゃうんですよね。これはどこ産の人参でとか言えないけどわかっちゃう。香りが違うとかね。色々わかってしまう子に鈍くなれって言うのは残酷です。それはやってはいけないこと。広がっていくのを嫌な思いにしないで待つということが最も大事なことだなと思うんです。
苦味って毒物なので、自然の中で苦いものはぺっ!って吐き出さないと駄目ですよね。酸っぱいものは腐ってるからダメだし、それから人間は赤い物を見るとワクワクする。それは熟した色だから。黄色よりもね。小鳥も赤い実や黄色い実をよく食べるんだけど、そういう風に本能的に赤い物を子どもは食べるし、結構白い物って受け入れるのに時間がかかる場合が多いです。本能的に食べさせると白はなかなか手を出さない。そういうのもまだ本能的なものも残っていて酸っぱいものも腐ってるから食べちゃ駄目って。原始的なセキュリティなのね。それを壊すってことは自分を騙すことになるので、それは心に響いていくんですよ。だから「苦味がわかっちゃうんだね~大人になったら何でも食べられる時に来るからそれまで大嫌いにならないでお隣にお友達として見てね」みたいなね。そのぐらいの感覚の方が多分心も合わせて良く育つという事だと思います。
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