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伴奏ピアニストの視点から見た、伴奏者の探し方

管弦楽器や声楽の場合、演奏会やコンクール、普段のレッスンのためなど、伴奏が必要になる時が多々ある。今回は伴奏ピアニストの視点から、伴奏者の上手い見つけ方、見分け方などを書いてみる。

まず、長年同じ伴奏者と演奏している場合、これは本当に貴重な存在なので、余程の理由がない限り変えない方が良いと思う。長くやっていると、互いの呼吸や癖を熟知しているし、何より信頼関係が確立されている。無駄な労力を使わずリラックスして演奏出来るし、常に意見を言い合えるので、新たな挑戦もし易くなる。こういった関係で、真っ先に思い浮かぶのは、サクソフォン奏者の須川さんとピアニストの小柳さん。洗練されたアンサンブルで、2つの楽器が溶け合っている。お二人はご夫婦でもあるけれども。

そうは言うものの、誰もが簡単に伴奏者を獲得出来る訳ではない。特に若い時は、それほどツテもないし大変かもしれない。そんな時お勧めなのは、他の演奏者からの紹介。先生についている場合、その先生の知人のピアノ奏者を紹介して貰うのが一番手っ取り早く、且つ信頼出来る。演奏家が紹介するということは、それなりに上手い伴奏を短時間でこなしてくれるピアニストということだからだ。

伴奏はほぼ必ず、指定の曲と期限がある。例えば、1ヶ月後のコンクールでこの曲の1、3楽章をやるので、2週間後に楽器と合わせたい、などだ。この期限指定をシビアに守ってくれる伴奏者であるというのが、前提条件だ。最終的にいくら精度良く仕上げてくれたとしても、期限に間に合わなかったらどうにもならないからだ。この辺りが、知人の音楽家紹介の場合、実経験から勧めてくれているので、安心出来る部分である。

また、コンクールなど緊張するような場での伴奏は、出来るだけ経験豊富な伴奏者に頼んだ方が無難。そして人柄もある程度重要。なぜなら、極度に緊張する場で、最後まで一緒にいて頼れるのは伴奏者だけだからである。普通、楽屋は演奏者しか入れないことが多い。まだコンクール経験が少ないと、緊張のコントロールが難しい。場数を踏んでいる伴奏者は、そんな若い演奏家の緊張を上手く解してくれるような包容力を持ち合わせていて、伸び伸び演奏できるよう、楽屋でも何気なくサポートしてくれたりする。

この時、直前まで、細かい注意事項を確認してくるような神経質な伴奏者はお勧めではない。最後は互いを信頼して、一緒に楽しもうというくらいのリラックス感があった方が上手くいくことが多い。また、集中力マックスの状態はそれほど持続するものではないので、あまりに早くから集中状態に入ると、いざステージに立つ頃には集中疲れしてしまう。個人的には、ステージ袖に待機する頃になって一気に集中するのが一番上手く行くように思うが、この辺りは個人差もあると思う。集中力のコントロール配分を一緒にやってくれる伴奏者は、若い演奏者にとって心強い存在。人柄や本番での行動は、知人の音楽家の紹介だからこそ分かる部分であったりする。

そういった訳で、全く知らない伴奏者をネットなどで探すのは、どうしても見つからない時に限った方が良いかと思う。良い演奏をするためには、ソリストと伴奏者の間に必ず信頼関係が必要なのだが、これを構築するハードルがまず上がる。また、どうしてもスタイルや解釈が合わない、遠慮がちになり自分の作りたい演奏を妥協しないといけないなど、紹介に比べマイナスとなる部分が増える。ひとつ利点があるとすると、非常に難解な現代作品などをやる時、過去にその伴奏の経験があるピアニストを探すことが出来るという点だ。

最後に、一度共演した伴奏者に、次回もお願いするかどうかの基準を書いてみる。譜面をもらった伴奏者は、ソリストの要望に合わせていかようにも対応出来るよう、最初は出来る限りニュートラルな弾き方をするよう心がける。しかし上手い伴奏者はソリストの呼吸をすぐに掴む。初回の合わせで、伴奏者がどれだけ素早くソリストに寄り添ってくれたかというのは重要なポイントだ。また、要望にどれだけ応えてくれるか、一緒に音楽を作る上でのコミュニケーションがし易いか、引く部分と主張する部分のバランス感覚があるか、なども大切だ。そして何より、人間同士なので、互いに気持ちよく演奏出来るかというのが最も重要だ。相性は必ず存在するからだ。

伴奏者を探す方々の参考になれば幸いである。


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