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ピアノ譜めくり問題を考える
他楽器とのアンサンブルの場合、基本的にピアノは楽譜を置く。通常はスコアを使うため、楽譜の段数が増え、譜めくりが高頻度で発生する。これを自分でめくるか、譜めくりを頼むかは、悩ましい問題だ。
非常に長い曲で、自分でめくるタイミングもないほど音の詰まった譜面の場合、人に頼むしかないかもしれない。しかし、これを嫌うピアニストもいる。隣に人がいると気が散るからいう理由もあるかと思うが、個人的には、最後までドロップせず付いてきてくれるか心配で、自分でめくった方が確実だから、人に任せるのが嫌だ。特に変拍子で複雑なリズムを持つ楽曲だと、それを弾きこなせるくらいの人でないと、初見でめくるのは難しい。そういう不安の中で弾くと集中出来ない。
自分で譜面をめくると決めた場合、ほぼ必ず工作が必要になってくる。楽譜はめくりやすさを考慮して配置されている訳ではないので、めくるタイミングに長めの休符があるとは限らない。ページの変わる前後の部分の左右どちらかの手に、ペダルで伸ばせる長めの音や、休符があれば、そこを利用するが、全くタイミングがないこともしばしばだ。そういった場合、楽譜を一段ずつ切り離し、楽譜をめくるタイミングとその余裕がある楽曲部分が一致するよう、配置し直す。カッターとのりとテープで、切り貼りする。これをやっている伴奏者は周りにもいるので、ある程度一般的なことなのではないかと思われる。
最近はタブレットに譜面を入れてスクロールして見ることも多いけれど、あらゆる点において、紙の楽譜ほど使い勝手は良くない。大量に持ち運ぶ手間が省けるくらいである。遊びでやる時は、電子楽譜でも全然構わないが、本気で演奏する際は紙の楽譜が必須だ。
ちなみに、楽譜をめくるには、最低0,5秒、綺麗にめくるには1秒ほど必要で、どちらか空いている方の手で瞬時にめくる。普通、練習時は皆自分でめくりながら弾いているので、ピアニストは譜面を高速でめくるのが得意だ。譜めくりに注目して音楽を聴く人は、そうそういないかとは思うけれども。
ピアノの隣で楽譜をめくる人のことを、ピアノ仲間の間で、譜めくリストと呼んでいた。この呼称が一般的かどうかは定かではないが、難解複雑な現代ものなど、曲によっては相当な集中力を要する。譜めくリストが、職業として確立されているという話は聞いたことがない。大体知り合いの演奏者などに頼むことが多い。
同じ楽譜でもめくるタイミングが人によって微妙に異なり、早めにめくって欲しいという人もいれば、ジャストが良いという人も、遅めでもOKという人もいる。普通、楽譜は先を読みながら、既に読み取った部分を弾いている。二つの情報を、常に時間差で並行処理しているイメージである。なので、ページの最後の部分を弾いている時は、既に次ページの情報を見ている必要がある。どのくらい前を見るかというのは、人により若干異なる。ジャストタイミングや遅めでめくってくれても構わないという人は、次ページの最初の部分は暗譜しているので、遅れても大丈夫ということである。このタイミングが結構厄介なので、自分でめくるに越したことはない。
滑らかな譜めくりは、気持ち良く演奏するためには欠かせない。タイミングが合わないと、せっかくの演奏が台無しになってしまうことがある。譜めくりのタイミングを良く考え、音楽の妨げにならないよう、優雅に格好良くページをめくりたいものだ。