自宅ピアノレッスンのメリットとデメリット
独学ではなく、オンラインでもなく、対面でレッスンを受けたいと思う場合、教室に通う方法と自宅でレッスンしてもらう方法がある。結論から言うと、余程の例外を除き、上達が早い順に、教室レッスン、自宅レッスン、オンラインレッスン、独学だろう。今回は自宅レッスンのメリットとデメリットを考える。
最大のメリットは、時間の節約である。近くに自分に合った教室がないが遠くまで行けない、または忙しく分刻みの生活をしているような場合、自宅でレッスンしてもらえるのは大変便利だ。
交通費も節約になると思うかもしれないが、大抵の場合、レッスン料に交通費プラスアルファが追加されるので、自分で通うより高くつくことが多い。講師側からしてみれば、移動時間分、教えられる生徒数が減るので、当然のことと言える。
もうひとつメリットとして思いつくのが、自分の慣れた楽器と空間で、リラックスしてレッスンが受けられるということだ。自宅以外の場だと緊張してしまったり、外出が好きではない人には、かなりメリットがある。思うように身体を動かせない人にとっては、相当なメリットとなる。
しかし、メリットになるのはこのくらいで、特にある程度上達したい場合は、デメリットが上回る。
まず、楽器の問題がある。大抵の教室には、よく調律されたグランドピアノがあり、同レベルの楽器を個人で準備するのはなかなか難しい。もちろん、キーボードや電子ピアノでレッスンを受けても問題ないのだが、特にクラシックピアノの場合、月数回でもグランドピアノで弾けるというのは、上達のためにとても良い環境だ。もし、個人でグランドピアノの練習室を借りるとすると、最低でも1時間千円くらいはかかる。そう考えると、グランドピアノでレッスン出来るのは、金銭的にも得だと言える。
アップライトピアノを家に所持していたとしても、週一回くらいグランドピアノに触れると、上達が全然違う。アクションの関係上、アップライトピアノはグランドピアノほど同音連打が出来ない。強弱のレンジも狭まる。ソステヌートペダルは付属していないことがほとんど。自宅のアップライトピアノではなぜか上手く弾けないけれど、グランドピアノだと驚くほど綺麗に弾けるということもある。すると、モチベーションがアップする。
次に、レッスンに使う付属品の充実具合である。普通教室には、子ども用の補助ペダル、足台、膨大な楽譜、各レベルに応じた教本や楽典の本、補助教材など、大量のレッスン道具が置いてある。先生は生徒の状況に応じて、これらを使い分けレッスンしてくれる。自宅レッスンだと、全てを持って行くことは不可能なので、ある程度予測して必要なものをピックアップし、持って行くことになる。しかし、急にこの楽譜を使いたい、この教材を取り入れたら効果的だ、と思ったときに、臨機応変な対応が出来ない。
子どものレッスンでは特に、この点は重要ではないかと思う。良い先生とは、ぎちぎちに決めたカリキュラム通り押し通す先生ではなく、生徒の様子や興味を読み取って、柔軟に対応してくれる先生だからだ。自宅レッスンは教材充実度が下がるので、教室レッスンに比べ、その場の対応力が弱まる。
最後に、どちらかと言うと大人の場合だが、時間とお金を投入するからこそ、モチベーションが上がるという点だ。わざわざ時間を取って、教室まで出向く。いつもと違う空間で、多少の緊張感を持って、能力を磨いてみる。せっかく楽器を練習するのだから、日常から少し離れた体験をする方が気晴らしにもなる。時間と余裕のある先生なら、お茶を出してくれ、音楽話に花が咲くこともあるかもしれない。また、他の生徒と会って、刺激を受けることもあるかもしれない。自宅から離れると、その分、様々な機会に遭遇するものである。
こういうわけで、自宅から徒歩圏内に、自分に合った教室があれば、是非教室に通う形態をお勧めする。気兼ねなく高価な楽器に触れられるし、先生も本領を発揮して教えられる。もし根気が続きそうなら、もっと遠くまで通ったって良いのだ。
家にいながら何でも手に入る便利な時代だけれども、あえて手間をかけてみると、それに対する意気込みも変わる。そもそも楽器の習得とは、手間暇かかる面倒くさいものであり、その面倒くささと達成感が比例する。地味で地道な繰り返しを伴い、簡単に手っ取り早く手に入る能力ではないので、その心構えは必要だ。時間がかかり、労力を注ぎ込むからこそ、面白いのだ。