BBVA 紹介 音楽が人格形成に与える影響
BBVA AprendemosJuntos より。スペイン語圏のプログラムで、スペシャリスト達が専門分野をわかりやすく語ってくれる番組。音楽や教育に関するものも多くあり、学ぶこと、参考になることがいっぱいだ。
今回は、フランスの精神科医で神経科医の、Boris Cyulnik氏のインタビューを紹介。フランス語をスペイン語の吹き替えで視聴できる。
Resiliencia:el dolor es inevitable, el sufrimiento es opcional
https://m.youtube.com/watch?v=_IugzPwpsyY
長いインタビューで、大体の内容は、こんな感じ。
生きていく上で遭遇する様々な出来事に対し、いかに耐久性を身につけ、柔軟性を育んでいくか、という主題について、多岐に渡って話されている。人種など社会全体に関わる寛容性の問題から、個人的なトラウマへの対処、子ども時代に育まれる他者への理解や共感能力、それを可能とする教育のあり方、その中での芸術や音楽の役割など、興味深い話がたくさん登場する。
タイトルにある通り、痛みを感じる経験は生きていく限り避けられないもの、しかしそれで苦しみ続けるか、トラウマを断ち切るか、その経験を自身の糧にするか、芸術表現に変換していくか、というのは、個人の選択である、という意見が述べられている。つまり、瞬間的な痛みと、それに伴う数々の苦しい感情は別物であり、後者はコントロール可能ということだ。
インタビュー前半では、ユダヤ人の父と反ナチ活動をしていた母の間に生まれ、第二次世界大戦中、ナチスによってアウシュビッツで家族は命を落としたこと、自身は助けを得て逃げ、生き延びたことなどを語っており、悲惨な過去が現在の考え方に反映されていることを伺わせる。
37:20くらいから、楽器のトレーニングが脳に与える影響について語られている。楽器を習うことで左側頭葉が刺激される。これは言語に関する働きをする部分。この部分が刺激を受けることで、楽器を習う子どもは話す能力が向上する。コミュニケーションが上手くなり、よりたやすく人間関係を築ける、また社会性が育つ、という内容。音楽は共感能力を発達させ、より利他主義的な人格を形成し得る。子どもの教育にとって、音楽はスポーツと同様大事な役割を持っている。
人生で経験する様々な痛みは、誰もが味わう。哺乳類は皆痛みを感じるものだ。それを長期的な苦しみにしてしまうかどうかは、私たちの選択によるもの。それを芸術表現へ昇華させる人々もいる。多くの芸術作品は、彼らの人生の告白のようなもの。
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これを聴いて感じたのは、教育、とりわけ幼児期、青少年時の教育は、実用的な能力を伸ばすことに重点が置かれがちだが、本当に人生で役立つ能力というのは、柔軟な適応能力や感情バランスをコントロールする能力なのではないか、ということだ。生きる上で、挫折、悲しみ、困難に遭遇するのは必須だ。これらは、そういった難しい局面での対応能力のようなものだ。
幼少期から外国語や楽器を習わせたりするのは、それらの習得にある程度の臨界期が存在すると考えられているからだ。そして、そういった具体的なスキル以外の、いわゆる生きていくためのソフトスキル、例えばコミュニケーション能力、社交性、共感能力、利他的思考、寛容性、忍耐力、自己コントロール能力も、ひょっとすると、ある程度の年齢までに習得しないと、身につけるのが困難になるのかもしれない。
子ども時代は一回だけ。より早く、より多く、知識と技能を習得させることを第一目標にすると、人生全体で考えた場合、弊害があるように思う。柔軟性や寛容性、共感能力の獲得にも、それなりの教育が必要なのだ。それが、例えば音楽や芸術やスポーツなどから学んでいくことなのだ。子ども時代にこそ、あらゆる困難を乗り越えていくための柔軟性が身につく。
教育の重要性は、それが技能だけではなく、人格形成に関わるからだ。そして個々人の獲得した能力が、硬直した排他的な未来を生み出すか、柔軟で多様性を楽しむ未来を創り出すか、に関わるからだ。