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#117 アミル・アンド・ザ・スニッファーズ『カートゥーン・ダークネス』

服部さんへ

 リベラの新作紹介、ありがとうございます。僕も食べず嫌いなのかもしれませんが、少年少女合唱団、いや少年合唱団か、確かにきれいな声だなとは思うのですが、どうも感情移入できないというか、なかなか刺さらないんですよね。今回も、よし、ちゃんと聴くぞ! と思って試聴していたのですが、寝不足なこともあってか、まぶたが閉じかけていました。
 ん? いや、そういう聴き方でいいのか。そういう聴き方も、アリですよね。長い時間眠れなくなり、しかもなかなか熟睡できなくなる、少年とは真逆のおじさんには、いい入眠アイテムになるかもしれません。って、本人たちには失礼千万な話で、申し訳ないですが。楽曲的には、村松崇継という作家が共作しているM-5が、とてもいいと思います。
 さて、僕が今回取り上げるのは、アメリカでもUKでもない、オージー発のパンク・バンドの新作です。

アミル・アンド・ザ・スニッファーズ『カートゥーン・ダークネス』

 おい、俺! いったいどこに目を(&耳を)つけているんだ! もはや、そう自分を罵倒するしかない。こんなにもツボな、どストライクなバンドを、この3作目のアルバムまで知らなかったのだから。しかも、フー・ファイターズにグリーン・デイ、ウィーザー、ビリー・コーガン(スマッシング・パンプキンズ)と、自分の好きな面々がこぞってラヴ・コールを送っていて、今作なんかフー・ファイターズ所有のStudio 606でレコーディングされたっていうじゃありませんか。
 オーストラリアはメルボルン発、紅一点ヴォーカルのエイミー・テイラー率いる4人組。何が、どこがツボなのかって、ガレージ感とでも言えばいいのでしょうか、このロウな……生っぽいパンク・サウンドと歌なんですよね。あ、青少年の皆さんは、↓のMVを観ただけで、ひかないで!

 音を大きくしたり分厚くしたりして、激情や熱量を誇示するのではなく、隙間を保ったまま音を研ぎ澄ませて、鋭利にエモーションを表現すること。それが、僕の好きなパンク・サウンドなのでありまして。「U Should Not Be Doing That」なんてもう、ローリング・ストーンズのディスコの傑作「Miss You」のパンク・ヴァージョンと言っても、過言ではないでしょう。カッコいいったら、ありゃしない。

 おっと、「音がカッコいいのはわかったけど、ただシャウトしてるだけじゃん」などとおっしゃる、そこの貴方、あちらの奥様。いえいえ、そんなことは決してございません。「Big Dream」のような、ニュアンスに富んだメロディックなナンバーもあるのですよ。

 ひと言で言えばガレージ・パンクなのだろうけど、本人たちは簡単にカテゴライズされるのを好まないようで、「ラップも好きだし、縛られずに自由でいたい」的なコメントをしています。何がパンクなのか定義しにくいし、どこにパンクを見出すのかも難しい、この2020年代。こうして自分らしく、時代や流行などお構いないしに、鳴らしたい音を鳴らし、歌いたい歌を歌って感情を解き放つことこそ、パンクなのではないかと思う今日このごろなのであります。ナンセンスなジャケ写(ボカシ入り)も、なんか好きだなあ。
                              鈴木宏和


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