アルバム往復書簡

服部のり子:音楽ライター。洋楽を中心に執筆し、FM大阪/INTER FMの番組『My …

アルバム往復書簡

服部のり子:音楽ライター。洋楽を中心に執筆し、FM大阪/INTER FMの番組『My Jam』などで構成を担当。鈴木宏和:ロックを中心にウェブや雑誌、フリーペーパーなどで執筆。JAL国際線機内オーディオ洋楽番組の企画/選曲を担当。

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往復書簡について

鈴木さんと私は、ともに音楽ライターですが、得意とするジャンルが異なっています。鈴木さんは主にロック、私はポップスやクラシカルクロスオーヴァーの記事を書いたり、インタビューをしています。その違いを生かす企画として、この「アルバム往復書簡」を始めることにしました。私がロックの新譜を聴いてどう思うか。反対に鈴木さんがクラシカルクロスオーヴァーの新譜を聴いてどう感じるか。それがそのジャンルやそのアーティストに興味がなかった人の入口や、守備範囲を広げるきっかけになったらいいなと思ってい

    • #117 アミル・アンド・ザ・スニッファーズ『カートゥーン・ダークネス』

      アミル・アンド・ザ・スニッファーズ『カートゥーン・ダークネス』  おい、俺! いったいどこに目を(&耳を)つけているんだ! もはや、そう自分を罵倒するしかない。こんなにもツボな、どストライクなバンドを、この3作目のアルバムまで知らなかったのだから。しかも、フー・ファイターズにグリーン・デイ、ウィーザー、ビリー・コーガン(スマッシング・パンプキンズ)と、自分の好きな面々がこぞってラヴ・コールを送っていて、今作なんかフー・ファイターズ所有のStudio 606でレコーディングさ

      • #116 リベラ『DREAM』

        リベラ『DREAM』  リベラは、歴史ある名門少年合唱団とは異なり、ひとりの男性ロバート・プライズマンの情熱で結成されて、地元サウス・ロンドンで歌に興味がありそうな子供達をスカウトするところから始まった。それが30年近く前のこと。そんな後発だからこそ、歴史が浅いからこそ、伝統に縛れることなく、さらにプライズマンの「メンバーをクローン化しない」という方針からメンバーそれぞれのナチュラルな発声の歌が育まれてきた。また、合唱=ピアノの伴奏という常識にも縛られることなく、ストリング

        • #115 コールドプレイ『ムーン・ミュージック』

          コールドプレイ『ムーン・ミュージック』  人生が変わったとか、価値観が覆ったとか。そこまでは言わないまでも、もしも出会っていなかったら、自分の人生はもっと寂しくなっていただろうなとか、もっとつまらなかっただろうなとか、そんなふうに思えるバンド/アーティストが、僕の中には確実に存在します。そのひとつが、コールドプレイ。これはもう、生理的なものとでも言うべきなのかもしれないけど、彼らの音楽、特にクリス・マーティンの歌からは、「愛」や「生」といったものがリアルに感じられるのです。

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          #114 マイルズ・スミス『You Promised A Lifetime』

          マイルズ・スミス『You Promised A Lifetime』  『Stargazing』を聴いた時、声は明らかに違うんだけれど、コールドプレイかと思った。その第一印象からマイルズ・スミスをチェックすると、なんとジャマイカ系イギリス人だという。子供の頃は、当然両親の影響でレゲエも聴いていたらしいけれど、成長する過程で影響を受けたのがクリス・マーティン(コールドプレイ)、マーカス・マムフォード(マムフォード&サンズ)、エド・シーランといった人達だとか。この3人の名前を知っ

          #114 マイルズ・スミス『You Promised A Lifetime』

          #113 フィーバー333『ダーカー・ホワイト』

          フィーバー333『ダーカー・ホワイト』  数年前まで、毎年欠かさず全日参加していたFUJI ROCK FESTIVAL。注目のニューカマーから生ける伝説まで、ありとあらゆるバンド、アーティストを酒(これ大事)とともに堪能した中で、個人的ベスト・アクトを挙げよと言われたら、2018年にWHITE STAGEで観たフィーバー333が、真っ先に頭に浮かびます。土砂降りの雨が容赦なく吹き込むステージを、縦横無尽に駆け巡り、客席に降りたかと思えば、中継車の屋根にまで登って感情を爆発さ

          #113 フィーバー333『ダーカー・ホワイト』

          #112 アヌーナ『アザーワールド』

          アヌーナ『アザーワールド』  聖歌ではないけれど、荘厳な雰囲気の合唱に教会に迷い込んだ気持ちにさせられる。彼らのそこに惹かれて聴き続けてきた。アヌーナは、作曲家のマイケル・マクグリンが「中世アイルランドの音楽」をコンセプトに1987年に結成した男女混成合唱団だ。  その彼らの9年ぶりの新作になる。いつもメンバーは流動的なのだが、今回注目すべきは、マイケルの娘さんローレンがメインヴォーカルで参加していること。ゲームを全くしないので、知らなかったけれど、『ゼノブレイド2』の音楽

          #112 アヌーナ『アザーワールド』

          #111 タック・スミス&ザ・レストレス・ハーツ『ならず者の代償』

          タック・スミス&ザ・レストレス・ハーツ『ならず者の代償』  9月29日、30日に初来日公演を行うタック・スミス&ザ・レストレス・ハーツは、米アトランタでバイターズというバンドのフロントマンとして活動していたタック・スミスが、バイターズ解散後の2020年に新たにスタートさせたバンド。昨年のデビュー・アルバム『しくじった青春のバラッド』(原題『Ballad of a Misspent Youth』)に続き、早くも2作目『ならず者の代償』(原題『Rogue To Redempti

          #111 タック・スミス&ザ・レストレス・ハーツ『ならず者の代償』

          #110 ベッカ・スティーヴンス『メイプル・トゥ・ペーパー』

          ベッカ・スティーヴィンス『メイプル・トゥ・ペーパー』  むきだしの肉声で生々しく歌っていく。1曲目の《ナウ・フィールズ・ビガー・ザン・ザ・パスト》が流れたとたん、70年代が鮮明に蘇ってきた。今回の新作は、全曲ギターの弾き語り。実際にライヴ方式で録音されたという。そして、ベッカ・スティーヴンスがソングライティングからプロデュース、アレンジ、エンジニアまで全てを初めてひとりで務めている。  最初聴きながら、怒りに近い感情が伝わってくるなと思ったら、制作のインスピレーションにな

          #110 ベッカ・スティーヴンス『メイプル・トゥ・ペーパー』

          #109 オアシス「『Definitely Maybe(邦題:オアシス)』30周年記念デラックス・エディション」

          オアシス「『Definitely Maybe(邦題:オアシス)』30周年記念デラックス・エディション」  ついにというか、とうとうというか、やっぱりというべきか、オアシスが復活しました。すでに世界中のロック・ファンが大騒ぎ。きっとその時が来ても、経緯が経緯だし、意外と静観しているのかも……と思っていた僕だったのですが、控えめに言っても心が躍っています。  何がうれしいって、自分の中の「90年代ベスト・ロック・ソング」に、ニルヴァーナやグリーン・デイらの曲とともに、オアシス

          #109 オアシス「『Definitely Maybe(邦題:オアシス)』30周年記念デラックス・エディション」

          #108 マックス・リヒター『In A Landscape』

          マックス・リヒター『In A Landscape』  傷だらけの魂が奥深くから浄化されて、全身の細胞がじわじわと騒ぎ出すという表現がいいのか、マックス・リヒターの音楽に心臓が静かに高鳴り、自分の体に何か変化が起こっていることだけはわかる。”ポスト・クラシカル”の旗手として活躍する作曲家だけに作品を発表するたびに新たな世界へ誘ってくれる。  この新作は、タイトルが物語るようにイギリスの自然豊かな田舎町に構えた自身のスタジオで初めて制作されたアルバムで、ひとつの特長としては曲

          #108 マックス・リヒター『In A Landscape』

          #107 ビーバドゥービー『ディス・イズ・ハウ・トゥモロー・ムーヴス』

          ビーバドゥービー『ディス・イズ・ハウ・トゥモロー・ムーヴス』    一昨年のサマソニで初来日した、ビーバドゥービーことビートリス・クリスティ・ラウスは、2000年にフィリピンで生まれ、ロンドンで育ったシンガー・ソングライター。アジア系女性として人種差別を受けることも少なくなく、自身のアイデンティに悩んだ時期もあったようだが、今や世界中に彼女の音楽を必要としている人がいる。その事実を、同じアジア人として心から祝福したい。テイラー・スウィフトのツアーのオープニング・アクトという貴

          #107 ビーバドゥービー『ディス・イズ・ハウ・トゥモロー・ムーヴス』

          #106 カリード『シンシア』

          カリード『シンシア』  いつもこんな書き出しになってしまうけれど、カリードもこの声にひと聴き惚れした。優しさにあふれて、ハイトーンヴォイスは美しく、なによりも誠実な人柄が伝わってくるのがいい。ジャンル的にはオルタナティヴR&Bになるけれど、それはサウンドに対する位置づけで、彼自身の歌は、クラシック・ソウルの影響が色濃く映し出されている。  カリードが10代でデビューした時、神童などと言われたみたいだけれど、5年ぶりとなるこの3rdアルバムを本人は、”原点回帰”の作品という。

          #106 カリード『シンシア』

          #105 ワンリパブリック『アーティフィシャル・パラダイス』

          ワンリパブリック『アーティフィシャル・パラダイス』  いくら努力したって手にできないものはあるし、才能がなければ第一線で活躍するミュージシャンになどなれないわけだけど、僕が現在のロック界隈で天才だと思っている人が4人いる。ノエル・ギャラガー、クリス・マーティン(コールドプレイ)、アダム・レヴィーン(マルーン5)、そしてワンリパブリックのライアン・テダーだ。  ライアン・テダーの天才ぶりを改めて確信した曲が、映画『トップガン マーヴェリック』にフィーチャーされた「I Ain'

          #105 ワンリパブリック『アーティフィシャル・パラダイス』

          #104 ジョイ・ラップス『Girl in The Yard』

          ジョイ・ラップス『Girl in The Yard』  音階のある旋律打楽器という特性を持ち、奏でられる倍音の美しさが際立つ。くわえて故郷のアフリカを偲びリズムを叩きたいという欲求と情熱から、破棄されたドラム缶で手作りしたというスティールパンの原点。いわゆる悲劇の歴史から生まれた楽器ではあるのに、音色はとてもピースフルというのも無性に心惹かれるところだ。  ジョイ・ラップスとの出会いは偶然だった。何か調べ物をしている時に美しいジャケットに出会い、アルバムを聴いてみた。そし

          #104 ジョイ・ラップス『Girl in The Yard』

          #103 イン・イン『マウント・マツ』

          イン・イン『マウント・マツ』  不快指数200パーの暑さゆえ、僕も今回は気持ちだけでも涼しくなるような作品をと、クルアンピンを取り上げるつもりだったのだけど、配信でFUJI ROCKを観て、ぐぐぐっときてしまったので、同じインスト中心のバンドでクルアンピンにも音楽性が近い、イン・インの最新作をプッシュしたい。  FUJI ROCKで初来日を果たしたイン・インの舞台は、ピースフルな会場群の中でもとりわけピースフルな、FIELD OF HEAVEN 。何がぐぐぐって、メンバー

          #103 イン・イン『マウント・マツ』