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#102 カサンドラ・ジェンキンス『My Light, My Destroyer』

鈴木さんへ
 いまさらですが、なんて暑いんでしょうか。近所の商店街を歩いているのは、外国人観光客だけ。聞こえてくるフランス語に、なんで夏に来てしまったの? あなたの国でこんなムシムシはないでしょ、と思ってしまいます。
 鈴木さん、カサビアンですね。なんとなくヴォーカル脱退のニュースを薄く覚えています。それを乗り越える力って、バンドなんだぁと…。抽象的な言い方でごめんなさい。それから3分前後と曲が短いのと、イントロなしの曲に、今どきの時代を感じるとともに、テンポよく進む流れに思わず散らかった部屋の片づけをしてしまいました。
 さてさて、私が選んだのはカサンドラ・ジェンキンスです。必要に迫られてエミネムの新譜を聴いていたんですが、夏バテの心身には彼の圧の強さが厳しく、アルバム冒頭アコギのイントロに救われる思いがしたので、今回取り上げることにしました。

カサンドラ・ジェンキンス『My Light, My Destroyer』

 このウィスパー・ヴォイスが大好き。ちょっとハスキーで、媚びたり、過度に自己主張したりすることなく、風に漂うようなナチュラル感。この歌がまずホッとさせてくれる。暑さのせいだけではなく、その心地好さがいまはとてもうれしい。

 大学でサウンド・デザインを学んだとかで、歌の間に挟み込まれるインタールードでは口笛や鳥の鳴き声が聴こえてくる。話し声とピンポーンという音だけの『Music??』というものもある。いずれも1分にも満たないけれど、それが一瞬で私を異空間へと送り込んでくれる。それも心惹かれる理由だ
 また、村上春樹のファンだそうで、日本語に興味があるのかもしれない。『Omakase』という曲があったりする。プロデューサーのジョシュ・カウフマンが書いた曲があって、そこにカサンドラが歌詞をつけたらしいが、「引き裂いて、私が誰なのか見てみたい」という歌詞の歌がなぜ『Omakase』というタイトルなのか、そこは謎だ。

 ジャンルとしてはアンビエント・フォークに入るが、もうひとつの好きな理由は、不自然ではない、このほのかな浮遊感だ。基本的に私はナチュラルと浮遊感に弱いから。そして、ほとんどの曲が3分前後と短い。ここは、カサビアンとの共通点。今どきなんだなぁと思いつつ、でも、やたら長いイントロを聴かされないのもうれしい。
                             服部のり子


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