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映画館で映画を観る観るクラブ
誰に頼まれたわけでもなく自らに課した「新曲を10曲作る」というノルマから解き放たれてみれば、映画館に映画を観に行くことも決して難しくはないのだと判明した。だから予定のない休日はもっぱら映画館で映画を観ている。もはやそれ以外の過ごし方がわからなくなってしまった。
趣味にかまけて制作をおろそかにするとはいかがなものかと疑義を呈する向きもあろう。しかし宣言した通り、きちんと半年で新曲を10曲も作ったのだから、こちらにだって余暇を楽しむぐらいの権利はある。昨年の下半期、映画館に行くのを断念せざるをえない局面が度々あったから、その時間を取り返すかのごとく今になって劇場に足を運んでいるわけだ。
とはいえ、時間に余裕ができたのを良しとして、少しでも興味のある映画や信頼している人がおもしろいと言っていた映画を片っ端からすべて観ていったらどうなるか。口座の残高がゼロに近づき、いずれ生活もままならなくなる。映画館で映画を観るとなれば1900円支払わなければならない。
なるべくサービスデーやリピーター割りを駆使して節約しているつもりでもやはりお金がかかる。それでもなお映画館で映画が観たい。予告編が終わり、劇場の灯りが落ちて、スクリーンが真っ黒になった瞬間ほど心が安らぐ瞬間はない。劇場に向かうのは、単に映画を観るためではない。厄介事を気にせずに済む束の間の時間を楽しむという目的もあるのだ。
新宿のシネマカリテで『コンパートメント No.6』を観た。監督のユホ・クオスマネンはフィンランド出身だが、映画の舞台はロシアを走る寝台列車だ。
1990年代。主人公のラウラはフィンランド人で、モスクワに留学して考古学を学んでいる。ラウラにはイリーナという年上の恋人がおり、彼女は文学研究者で明るくチャーミングな女性だ。ラウラは彼女の家に居候しているようだ。この家にイリーナの友人知人を招いてパーティーを開いている場面から映画は始まる。ちなみにイリーナ役のディナーラ・ドルカーロワはヴィターリー・カネフスキー監督の『動くな、死ね、甦れ!』に登場する少女ガリーヤを演じていたことを後で知ってびっくり。
パーティーに集まったイリーナの友人たちは、教養に裏打ちされた機知に富んだ軽妙な会話を楽しんでいる。ラウラは勇気を出して発言してみるものの、ある作家の名前を間違った発音で呼んでしまい恥をかいてしまう。ラウラはこうしたインテリ的な世界に憧れを抱きつつも、居心地の悪さを感じているようだ。
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