荒川の佐吉
歌舞伎座が作成した猿之助さんの特別ビジュアルで一番好きなものは?と聞かれると「荒川の佐吉」が浮かびます。
濃さやしつこさを封印したのが新鮮です。
最高にかっこいい。
3月の純弥さんのお芝居で猿之助さんの佐吉を想いました。目の見えない卯之吉の頬に自分の頬をつける別れのシーンが心に湧いたのです。
観劇当時、子役さんと絡む猿之助さんをほぼ観たことがなかったと思う。「こんな表情もするのだなぁ」と、ときめきました。
3月の純弥さんにも思いました。自分の子供に初めて会え、その顔を覗く時。愛情がゆっくり溢れてきて、とても愛しそうな表情でした。こんなお顔もあるのだなぁと。
それから無性に猿之助さんの佐吉に会いたくなりました。観たのは2016年7月だけですが、大好きなお役です。
当時、猿之助さんはどうして「荒川の佐吉」をしたかったのか考えていました。先代が何度か演じ、当たり役と言われたことも理由かもしれません。ただやりたかったのかもしれない(笑)
でも、勘三郎さんが佐吉をなさった時の話を知り、何だか勝手に腑に落ちたような気がしたのを覚えています。
勘三郎さんは佐吉を演じた時、尊敬する島田正吾さんという新国劇(今はない劇団)出身の役者さんに教えを請い、歌舞伎座での上演時には相政役でご出演願ったそう。
島田さんは佐吉を昭和9年に演じ(荒川の佐吉の初演は昭和7年)90歳を超えても、なお現役で佐吉を演じたそうです。2004年に98歳で鬼籍に入りました。
猿之助さんは、常々、昭和の時代劇を後世に繋いでいきたいと言っていました。新国劇の流れを組む劇団若獅子の舞台にも出演していますし。こういう世界が好きだったのだろうと思います。
佐吉を演じるのは初役で、この時以来ご縁がありません。また観たいと心から思います。
実は来週29日に浅草木馬館 夜の部で「荒川の佐吉」が上演されます。仕事で間に合わないけど時間次第で行ってみようかな。。自分が喜ぶ気がします。
懐かしい2016年当時の感想日記をご紹介します。
2016年7月12日 心ときめく。
好きな「荒川の佐吉」がかかると聞き、いつも三階の私だけど、一度は一階席前方センターで観たいと思っていました。それが今日でした。
猿之助さんは先週と別人のようでした。前回はさらっと自然に見えたのに、こんなにも重厚感ある演技に変わるなんて。
前半は三下としての軽さはそのままなのですが、言葉が心に刺さってきます。だいぶセリフに緩急つけていて、いつもの猿之助さん。大事な言葉がすっと耳に入ってきます。
時の経過が、猿之助さんの所作と言い回し。。全体から伝わります。登場するたび貫禄が加わり、ラストはまさに親分。
巳之助さんの辰五郎とのコンビも最高です。巳之助さんの感情表現が豊かで、いつでも佐吉の味方。
花道を二人で引っ込む時、肩を並べて歩いていました。その後ろ姿にも仲の良さがにじみ出ていて、揚幕の中に入るまで見送りました。
猿之助さんが赤ちゃんをあやすのが上手くなってました。子煩悩だと佐吉が自分で言うのですが、本当に子供好きなのだなあと感じます。
夜の橋の場面が好きです。赤ちゃんとの二人だけの時間が愛おしそう。優しい気持ちになります。
そして、自分たちの子供ではない卯之吉を(猿くん)を男二人で育てます。佐吉と辰五郎の愛情があたたかい。添い寝してあげる猿之助さんにキュンとします。
中車さんの相政とのやり取りで、猿之助さんの気持ちが最大盛り上がる。大切な卯之吉を返してほしいと言われて、切々と今まで苦労や、どんなに愛していて、卯之吉が自分には必要かと訴えます。
もう、ここは感動が止まりませんでした。前回、少し子供が駄々をこねるような感じで切なかった。
でも全然違いました。
体を半分もぎ取られてしまうのではないかと思うくらい辛そう。猿之助さんがとても激しくて、心が揺さぶられました。可愛がっているシーンがフラッシュバックしてくる。ああああ。。そして決断してからの静かに絶えてる様子に涙。
卯之吉の産みの母、笑也さんもリアル。
この場面の三人がすごくいい。
ラストシーン。
涙もろい辰五郎に切なくなります。
佐吉が最高にカッコいい。
猿之助さんがすごく大きい。
猿之助さんの存在感までも、この一週間で変わってしまいました。歌舞伎座でその存在が空気を支配しました。
卯之吉の頬に自分の頬を寄せる佐吉。頬から頬へ愛情が伝わっていく。その愛情が浸透するように、猿くんの表情も想いが溢れてくる。
花道で猿之助さんの涙が光りました。
「やけに散りやがる 桜だなぁ」
情感こもり、優しく切ない響きでした。
猿之助さんは時代味があり、立ち姿、言葉、所作。。江戸の香りがします。江戸時代を知らないけれど、タイムスリップしたような感覚になります。
佐吉は猿之助さんの当たり役になる。
四代目の優しさが、佐吉の子煩悩さ、大事な人を想って強くなる様子に重なります。
猿之助さんの色で、思い切り演じてほしいです。
佐吉に心ときめきました。
有難うございました。
aya