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料理で国を変えたペルーの革命児の話
『料理人ガストン・アクリオ 美食を超えたおいしい革命』という映画を観た。
1度目は、ペルー行きの機内で。
東京に戻ってから、もう一度。
現地の体験と照らし合わせて観ると、2度目もあらたな発見があった。
*
料理で国を変えた、一人の革命児の話である。
ガストン・アクリオ。
ペルーでその名を知らない人はいないだろう。
映画のなかでは、世界のトップシェフがガストンに賛辞を贈る。
「ガストンの名を誰もが叫んでた。彼の存在感にすっかり圧倒されたよ」「ペルーを旅するとわかるだろう、あの国はもはや料理大国だ」
ーレネ・レゼピ(ノーマ)
「ペルー料理や農耕文化は高い評価を受けるようになった、料理を通じて社会に働きかけている」
ーマッシモ・ボットゥーラ(オステリア・フランチェスカーナ)
「料理を武器に国の存在感を高めラテンの人々を喜ばせた」
ーアレックス・アタラ(D.O.M.)
映画によると、ガストンの経歴はこんな感じ。
7歳で料理を始め、8歳ですでにフランス語のレシピを読んでいたガストン。遊び場といえばキッチンだった。16歳で料理が好きだと確信。
いっぽう有名な政治家を父親に持ち、『次期大統領も夢じゃない」と期待されていた彼。親からは大学で法律を勉強し、政治の道に進むよう言われる。
大学へ合格するも、やる気がなく授業もサボり成績も悪いので追い出される。
その後、父親の紹介でスペインの法律事務所でインターン。一度はスーツとネクタイに身をつつむものの、初日の昼休みに事務所を出たきり戻らず、家族に内緒で料理学校の門を叩く。
「あの転機があったから、いまの自分がいる」とガストンは言うが、いわば親の期待するレールから外れたということ。親の失意も相当だったろうし、衝突もあっただろう。
だが、料理の道で迷ったとき、背中を押してくれたのは父親だった。
修業先のフランスから帰国し、妻アストリッドとともに「Astrid & Gaston」をオープンしたガストン。当初は"美しいレストラン"にこだわり、高級食材を使ったフランス料理を出していた。
だが心のなかではむなしさを感じていたという。
目が覚めたのは、父の言葉。
「お前はシェフになる夢をかなえ、レストランで料理を作ってる。でも、お前が食事を出すのは、お金持ちだけだ。そんなことがしたくて、料理人になったのか?初心に帰れ」
「自国で何ができるのか考えるんだ」
そこから店の料理は、ペルーの文化に光をあてたものへと変化していく。
ワンカイナソース、アヒ、キヌア、トウモロコシ。ピスコ……。
映画のなかでは、ペルーの食材や文化に焦点をあてながら、ガストンが料理の力でいかにペルーの人々に誇りを思い出させたか、国民に愛されているかが描かれる。
**
はじめは、ガストンがあまりに称賛されるので、「まぁ、本人のドキュメンタリーだからな」とやや冷ややかな目で観ていた。
でも、実際にペルーを訪れて、「ガストン」というキーワードを出しただけで、ペルー人ガイドさんの顔に浮かんだあの笑顔……。
「Astrid & Gaston」に向かうときもそうだ。「ガストンまでお願いします」の言葉に「そうかガストンか!」と顔をほころばせたタクシーの運転手。
そこには紛れもなく愛と誇りがあって、「あ、ガストンは、ペルーの真のヒーローなんだ」と実感した。
響いた言葉。
「ペルーの現実から目を背けてはいけないと。満足するなということも(父から)最初に教わりました。運がよかったと思ってる。
自分の人生も幻想にすぎない。
国内には私が持っているものを持てない人がたくさんいる。
違う人生を送りたくても、そうするチャンスさえ持ってない人もいる」
(ペルーの田舎道、車窓から)
平手打ちされた気分だった。忘れていた。わたしが当たり前だと思っていることは、当たり前じゃない。
自分の日常に、幸運に、もっと感謝をしないといけない。
“Somos libre(我々は自由だ)”
そうだよね、思わず呟く。
羽をもっているなら、その羽をつかおう。
自分の人生も幻想なら、いつ終るかわからないのなら、好きなことをしよう。
これは自分自身が「レール」から外れ、世間体や親とのしがらみ、がんじがらめになっていた鎖を断ち切ったときに思ったことでもある。
*
最後に、ガストンはカメラを見据えて言う。
「私はガストン・アクリオ。リマの料理人だ。」
自分が何者かを胸を張って宣言する姿に打たれた。
◆「Astrid & Gaston」訪問記はこちら。
(2016.10.20に書いた記事を加筆修正)